ボストンのCOVID-19事情と大学教育の変化

私はボストンで外科医として留学をしている者です。
ボストンでの現在のCOVID-19の状況と、この現状を踏まえ、学術都市であるボストンを中心に、米国の大学教育はどのように変わりつつあるのか、について考えてみたいと思います。


ボストンのCOVID-19の状況の印象としては、“だいぶ落ち着いたかな”というところです。累計感染者数は15,263人(8月25日付)回復者数11,480人、死亡者数752人(参考までに人口は700,000人程度です)。マサチューセッツ州全体での検査陽性率の7日間平均も1.1%と過去最低まで低下していて、病院入院者数も州全体で327人、ICU入院者数61人、うち挿管されているものは28人と減少しています。

病院に毎日通勤している者としても、罹患患者にあまり遭遇する印象はありませんが、それでも手術時は全例、N95マスク着用が必須であったり、外来もすべてテレヘルス(携帯電話でのビデオコール)で済ませたりで、影響は感じます。また、予定手術が多い科に所属しているので、手術件数の減少も少し感じるくらいです。アメリカではスクラブ(※医療用白衣)で通勤する人が多いですが、最近はスクラブで外に出たり、お店に入ったりすると相当嫌な目で見られるそうです。

普段の生活にも影響は及んでいます。スポーツ都市であるボストンですがFenway(※Fenway Park。MLBボストン・レッドソックスの本拠地球場)での野球の観戦も中止になり、バスケットボールの試合も現在はすべてオーランド州で開催され、スポーツ観戦は断念せざるを得ない状況となっています。


また、現在ボストンは都市再開のPhase 3まで進みましたが、レストランは制限がありますし(テーブルは1.8メートル以上離れていなければならない、6人以上のグループは禁止など)、ジムも普段の収容人数の40%までしか許容はできず、マスクを外してトレーニングするには14フィート(4.3メートル)離れてなければなりませんので、エリア別に分けて予約制にしているジムもあります。もちろん食事をしているときなど以外は常にマスク着用でなければなりません。
Phase4にはワクチンができるまで進まないので、しばらくこの生活が続きそうです。


さて、コロナにより生活の多くが変わりましたが、大学などの学校への影響も少なくはありません。ボストンは学術都市であり、日本人を含む、多くの学生、研究者、教員などが住んでいますが、授業のオンライン化やビザの発行の問題などに伴い、渡米が延期や中止になっている日本の方の話も聞きます。

また、これを機にそもそもの大学の意義が問われるようになっています。授業のオンライン化が進んで多くの人が気づいたのが、オンライン授業は意外と便利だということです。2倍速で授業を聞けたり、聞き逃したところを巻き戻しで聞いたりなど自分の時間で好きなように受講できるため、効率よく勉強できます。また、小人数ディスカッションやグループワーク、発表などもZoomなどのミーティングプラットフォームで開催可能で、質疑応答もチャットやメールで自由にでき、教室での授業に引けを取らない受講が可能です。そうなるとどれだけ教室での授業が必要なのかという疑問が生じます。コロナの感染拡大を抑えるという意味でも、このまま授業をすべてオンラインへ移行するほうが自然な流れという人もいるでしょう。そしてそうなると、オンライン受講だけで年3万ドルの学費(マサチューセッツ州平均)は高額すぎるという不満が多く出てくるでしょう。

オンラインで授業をすべて済ませることができるのであれば、世界中のどこからでも、どの大学にでも“通う”ことができますし、むしろ地理的なバリアーは除かれるため、より安く、良い授業が受講できる大学を世界中から選ぶことができるようになります。こうなると“オンライン大学”の競争が発生し、どんどん良質な大学が増えていくでしょう。その場合、ハーバードなどのブランド大学の人気はさほど変わらないでしょうが、より小規模な大学は生徒がオンライン大学に流れ、存続が厳しくなることが想像できます。

そうなると52もの大学があるボストンには影響は大きいと思います。どれだけの大学が校舎を残して生き残っていけるでしょうか。また、大学生のおかげで成り立っている商売も多いです。最近はハーバード大学が授業をすべてオンラインに移行しているため、生徒はみな実家に帰ってしまい、ケンブリッジのレストランなどもガラガラです。そのような影響も無視できません。

このような流れに乗じて最近、Google社が6カ月間で履修できるGoogle Career Certificateを発表しました。これはオンラインでのプログラムで、修得している場合、グーグル系列の会社では“4年間の大学の学位と同等のものとして取り扱う”と公言しています。つまり、大学に行かなくても大卒と同等に扱われるのです。しかもその受講料はたったの300㌦です。Steve Jobs やBill Gates、 Mark Zuckerbergなど大学を中退して、大きな成功を収めている人がアメリカでは多いので、自然な流れなのでしょうが、伝統的な大学にとっては脅威としか言いようがありません。

パンデミックをきっかけに我々の生活はいろいろな面で変化しています。教育という面でも変化が起きそうです。ボストンという学術都市がこれからどのように変わっていくか、楽しみです。

ハーバード大学ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンター、高度消化管/最小侵襲外科フェロー中元 啓太郎
2011年岡山大学医学部医学科卒。
聖路加国際病院、横須賀米海軍病院での研修を経て渡米。
ニューヨーク・マウントサイナイ・ベス・イスラエル病院、ウエストバージニア・マーシャル大学病院での外科研修を修了し現職。
ロボット手術を含む最小侵襲外科、外科研修教育に主に興味あり。
2011年岡山大学医学部医学科卒。
聖路加国際病院、横須賀米海軍病院での研修を経て渡米。
ニューヨーク・マウントサイナイ・ベス・イスラエル病院、ウエストバージニア・マーシャル大学病院での外科研修を修了し現職。
ロボット手術を含む最小侵襲外科、外科研修教育に主に興味あり。
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