コロナ禍のニューヨークからの報告

令和2年の1月にニューヨーク(NY)へ赴任したのが遠い昔のように感じます。
1月末に会議のため東京に出張した際に、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」のニュースを毎日のように聞いていました。その時はどこか自分とは違う世界のことのように感じていました。これは2月中旬にNYに戻った時も同じような感覚でした。

ところが、2月末の欧州出張の頃から雰囲気が変わってきました。出張先の欧州でもそうでしたが、NYに戻ってきてからは日に日に状況が変化し、行動制限が厳しくなっていきました。
緊急事態宣言が出され、レストランのキャパの削減、事務所への通勤制限、ミュージカルや美術館の閉鎖など毎日のように新たなガイドラインが出され、3月の中旬にはレストランやバー、理美容室なども完全に閉鎖されました。学校も地域ごとに閉鎖され、医療崩壊が叫ばれ始め、地域住民の不安も日に日に高まってきたことを覚えています。

私の場合、NYと並行してBermudaでの業務もありました。BermudaはNYから南東に約2時間のフライトの距離にあります。多くの方がBermudaをカリブと勘違いされますが、緯度的にはノースキャロライナ、もしくはサウスキャロライナと同じようなところに位置する小さな島々からなるイギリスの海外領土です。経済的には米国とのつながりの方が強く、通貨はBermudaドルとともに米国ドルが広く使われていて、主な産業が観光(クルーズ船)と金融となっています。そのBermudaもコロナの影響で3月下旬に空港閉鎖、ホテル閉鎖を余儀なくされ、Bermudaへの入国が出来なくなりました。NYでの外出制限、Bermudaのロックダウンという状況から、業務の方は完全にリモートワークに移行しました。

 

そのような環境を踏まえ、3月末に東京に戻ってきました。羽田空港から自宅に向かう車の中からみた東京の状況は、欧米諸国のロックダウンや行動制限に比べると非常に緩やかなもので、こんなので感染爆発は抑えられるのか?と非常に不安を覚えました。これは4月の緊急事態宣言が出た後の街中の光景をみても同じ印象でした。

東京の約7週間の緊急事態宣言期間。その間、極めて曖昧な、そして緩やかな行動制限要請(自粛要請、休業要請)でしたが、日本人気質(同調性とお上文化)のお陰で(?)人々の経済活動は一定程度抑えられました。行動規制は海外に比べれば各段に緩やかだったものの、それでも人々のフラストレーションは高まっていたように思えます。日々の報道や人々の声を聞きながら、現代における感染症との戦いは難しいなあと感じていました。見えない敵と戦うときや、分からない事が多い状態では人は多くの不安を感じるようですが、その不安は人それぞれであり、それぞれが自分の正義を信じて疑わず、その結果、自分と異なる正義は悪とみなして対立が深まっていったように感じます。

約2ヶ月間日本で過ごした後、5月27日に成田を発ち、NYに戻ってまいりました。一見、3月下旬の様子とそれほど変わりませんでしたが、1つ大きく変わったことはマスクの着用率です。ニューヨーカーがマスクをしていることには驚きました。そして、翌日のNY州知事の記者会見では、事業所や商店などへの入店時にはマスク着用を義務付けることも話していました。マンハッタン内で開いている薬局などでは既に義務付けているようです。また、お店によっては現金を受け付けずカード決済のみと掲げているところもありました。みんな感染予防の一環なのでしょう。

米国の多くの州で経済再開に舵を切っており、NYの多くの市民もそろそろ我慢の限界のようです。セントラルパークなどの公園に行くと、ソーシャルディスタンスなど無視して、多くの人が日光浴を楽しんでいました。

米国では、まだ日本に比べれば桁違いの感染者、入院者、死者の数が報告されています。今回の惨事とも言える事態で露呈したのは、高齢者施設運営の脆弱性ではないでしょうか。多くの高齢者が高齢者施設で亡くなっています。やはりコロナが高齢者、持病を持つ方に重篤化をもたらしているのは万国共通。日本も油断はできませんが、今回の緊急事態宣言解除までの期間に関していえば、日本における介護施設での死亡者が欧米諸国に比べて比率も人数も少なかったのは事実。これは、現場の懸命な努力と公衆衛生の高さがプラスに寄与したことは間違い無いような気がします。

私自身は14日の自宅待機期間ということで、不要不急の外出はせず、現在住んでいるミッドタウンのアパートの近くの散歩と食品の買い出し程度しかアパートを出ていません。

仕事の方は、日々のオペレーションは相変わらず、朝からバーチャル会議、メール等での意見交換、意思決定、承認・報告に追われています。全米の各地で徐々に事務所を再開していますが、すぐに元に戻ることはなく、従業員それぞれの事由にも配慮しながらフレキシブルに対応していきます。日本と違い、米国やBermudaではコロナ以前からITインフラやアウトプット重視の文化などリモートワークを行う素地がありました。米国やBermudaだけでなく、欧州もトルコも、ブラジルもアジア諸国もどんどんリモートワークに移行しています。米国企業は今後はさらにリモートワークを徹底し、益々生産性を向上させていくと思われ、その観点では日米の企業業績格差はますます拡大していく懸念もあります・・・。

これからの経済再開にあわせて、NYでも事務所再開の準備に入りましたが、コロナがもたらした様々な課題、コロナによってより鮮明に顕在化した問題などにこれからフォーカスしていきます。コロナの前と後でも不変なもの、コロナによって再認識させられた課題と対応、コロナを奇貨として起こるであろう行動変容や顧客ニーズの変化にも注視していきたいと思います。

と書いている時に全米でのデモが活発化し、一部は暴徒化し始めました。

今住んでいる近くのメーシーズも昨日のデモでガラスが破壊され、今日は住んでいるアパートや近くの商店も外部に板を張り付けています。昨日(6月1日)は夜の11時から、本日(6月2日)からは8時以降の外出が禁止されました。

米国が抱える様々な負の部分が重なり合い、顕在化してきました。今回のコロナでも様々なところで格差が拡大しています。今回のコロナ騒動、デモ騒動の顛末がどうなるかは、次回のレポートで報告させていただきたいと思います。

ペンネーム三村 喜久雄
ニューヨーク在住。仕事のこと、街のこと、人のことなど、現地でしかわからないリアルなニューヨークをお伝えします。
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