生活を支える「連携」を考えてみましょう

1. はじめに

この20年で「連携」という言葉を聞いたり、話したりすることが増えていませんか。これは医療現場だけでなく、介護や福祉で活躍されている方々も感じていることだと思います。
10年前、私の大学院の恩師が「21世紀の医療は連携の時代だ」と話されていました。当時、大学病院で臨床(診察)をしていた私は、糖尿病の方や白血病で造血細胞移植(以前は骨髄移植と呼ばれていた)を受ける方を担当していました。その恩師や先輩方から、口内炎の予防や歯の治療について指導を受け、学んでいました。医師や看護師とのカンファレンスにも参加することもありました。そのため「連携の時代」の実感が少しありました。

 

それから10年が経ち、急性期の医療現場だけでなく、退院後の生活の場でも多くの方々が関わり「連携」しており、そのこともよく知られるようになりました。そして、私もその現場に参加するようになりました。
退院後、自宅での生活を考えると、退院までの期間が短いと感じることもあると思います。いざ自宅での生活が始まるとトイレ、食事、階段の昇り降り、入浴など悩みは尽きません。高齢の方はなおさらです。生活をするために多くの様々な支援があると助かります。そのためには本人と家族、主治医や看護師だけでなく、介護職の方々やご近所さんなど多くの方が助けてくださることがあります。そのような生活を「困る前に備えて、予め」、あるいは「困り始めた頃に、迅速に」計画することがあります。このような時の色々な立場の方々の関わりに「連携」があります。

 

2. 生活を支えるとは?

そのような自宅での生活を考えた時、食事のことはどうでしょう。調理、食器の準備、食事の時の姿勢、食べる場所までの移動、自分で食べられるのか、食べこぼし、飲みこみの状況、噛める歯はあるのか、義歯の状態、虫歯や歯周病は痛くないのか、食前や食後の義歯の清掃、口や歯の清掃などです。
そのようなことに悩んだ時は、誰に相談するのでしょうか。親戚、ご近所さんでしょうか。ケアマネジャー、訪問の看護師やヘルパーさんでしょうか。歯科医師や歯科衛生士さんに相談できる方は多くいるのでしょうか。そもそも歯科に外来受診していた頃から「義歯で困っている」ことを歯科医師に伝えていても、「食事」で困っていることを伝えたことがあったでしょうか。

 

歯科医院を受診していた頃、「調子はどうですか」と歯科医師や歯科衛生士さんに尋ねられた時、何と答えていたのでしょう。「歩く時に段差につまずきます」「食事の時に咳き込みが増えました」「前回も予約の日を忘れていました」という会話があったでしょうか。このような会話があれば、歯科で対応できること、歯科で対応できないことがわかります。対応できない事柄に関しては、歯科から他の専門の方や家族の方への相談に進めるかもしれません。

 

話を戻しましょう。歯科医師には、生活で困っていること、食事で困っていること、ではなく、歯や義歯で困っていること、治療で直してもらえることを伝えることが多かったのではないでしょうか。もちろん歯や義歯のことは大切です。けれども日常生活で困っていることを相談したら良いのだ!とは多くの方が実感していないと思います。実は、歯科医師や歯科衛生士は生活のことを考えることに長けているのです。そしてきめ細やかなプランを考えてもくれます。病名は同じ「虫歯」であっても、患者さんの希望を踏まえて抜歯の時期やお口の清掃方法や治療の順番を臨機応変に患者さんの生活状況に併せて計画しています。いろいろな事を相談すると、いろいろなアイディアを提供してくれます。

 

3. 連携とは「統合」である

さて、「連携」とは何なのでしょうか。いろいろな立場の方々がどのように連携したら良いのでしょうか。「地域包括ケア」という言葉が広く知られるようになりつつあります。その中核の一つには「統合ケア」という考え方があります。国はこの「統合ケア」を「連携」のモデルと考えています。皆さんの生活に役立つように医療、介護や福祉の方が考えています。そして地域で生活する方々で「何らかの支えが必要な方」に支援の手が行き届くようにと、願っています。その主役は私たち個人個人であり、生活する方々の工夫も合わさって、これから地域ごとに形作られようとしています。(つづく)

 

鳥取市立病院 地域医療総合支援センター 生活支援室 副室長、リハビリテーション部 副部長、歯科 医長目黒 道生
【主な略歴】
1999年3月 岡山大学歯学部 卒業
2003年3月 岡山大学大学院歯学研究科 卒業
2005年4月 九州大学大学院 医療システム学分野(2013年 修了)
2010年1月 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科
歯周病態学分野 助教
2010年4月 鳥取市立病院 歯科医長
2012年4月 同 地域ケアセンター医長(兼任)
2016年7月 同 リハビリテーション部 副部長
(兼任)
【資格】
2011年 日本歯周病学会 歯周病専門医
2012年 日本老年歯科医学会 認定医
2013年 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 
認定士
【学会、研究会】
日本歯周病学会
日本摂食嚥下リハビリテーション学会
【主な略歴】
1999年3月 岡山大学歯学部 卒業
2003年3月 岡山大学大学院歯学研究科 卒業
2005年4月 九州大学大学院 医療システム学分野(2013年 修了)
2010年1月 岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科
歯周病態学分野 助教
2010年4月 鳥取市立病院 歯科医長
2012年4月 同 地域ケアセンター医長(兼任)
2016年7月 同 リハビリテーション部 副部長
(兼任)
【資格】
2011年 日本歯周病学会 歯周病専門医
2012年 日本老年歯科医学会 認定医
2013年 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 
認定士
【学会、研究会】
日本歯周病学会
日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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