哲学者のメルロ・ポンティは、言葉が世界を切り取るさまについて明らかにしている。言葉の無い世界では、世界は連続的(シームレス)に成り立っている。
赤色と黄色という言葉が無い時代には、その中間を含め、色彩は連続しているが、赤と黄という言葉によって色彩ははっきりと2つに分かれてしまうのだ。
言葉は、人間が自分自身で漠然と考えていたことに対して、より輪郭を明らかにして、物事をさらに深く考えることを促す。反対に、言葉によって切り取られた世界は、既に自分が最初に見聞きした世界とは異なっている。言葉によって区分されているので、その境界は明らかだし、曖昧なことは少なくなっている。現象的な実態と、言葉によって表される実態とは異なることを認識しなければならない。しかし、何かを他人に伝える時、言葉によって区分された世界は、容易に伝えやすい。
例えば、あのひとは綺麗な「黄色」の帽子を被っている、と言えば、聞いた人は、鮮やかな「黄色」を思い浮かべることが出来るだろう。ただし、「黄色」と言った人と、それを聞いた人が同じ様な色彩を感じているかどうかは分からないが。
自分が日常生活の中に漂って生きている状態で、生活を変えたいと思う時、言葉が存在しなければ、変えようと思う変化を自分自身でも認識が出来ない。ただ何となくでは、話にならない。自分ひとりでなく、誰かが一緒の時にはなおさらだ。言葉の無いままに共同で作業を行おうとすれば、それぞれの仕草や雰囲気で相手の意向を推し量ることが必要となる。その場合、昔からの慣習だけが唯一の手がかりである。言葉の無い場所での、新しい作業は困難を極める。
この様な言葉の特徴を考えた上での、言葉の使い方はどの様になるだろうか?
まず、言葉が行動と共に与えられない時、言葉は実態を欠いている。現実の過程を経験することが乏しい場合は、それに合った言葉が浮かばないので、考えが進まないだろう。経験を記さない言葉によって生み出されることは、過去の習慣か、一般的な言葉で表現されている内容のみである。これが、「現場」とそうでない場所との違いだ。「現場」での、現象に基づかない一般的な言葉によって表現される内容は、まさに一般的な内容であり個別性はない。
IT化とは、一般的なIT化であり、それ以上でも以下でもない。しかし、ITのような一般的な言葉は、多くの人に共有されるので、安心感を与える。結果として、新しい企画書は、最近の一般的な言葉で埋め尽くされることになる。
例を挙げると、AI、生産性向上、安心・安全、格差、働き方改革、SDGs(エスディージーズ)、省エネ、リーマンショック、働き方改革、デフレ経済、ワンチーム、などの言葉がそうである。文字通り「言葉が踊っている」のである。次の文章がその例である。
「生産性向上の鍵はITの活用であり、さらにはAIを如何に使うかだ。それによって働き方改革が実現できる。SDGsを達成し、リーマンショックを超える危機を乗り越える。ワンチームとなって努力してもらいたい・・・・・・」
言葉が踊っている文章は、一見新しい内容を含んでいる感じがするが、その内容は空虚である。この様な文章が巷(ちまた)に氾濫(はんらん)している。言葉の氾濫を防いで、内容を伴い、現在の状態を改善するのは、現在の状態を細かい部分まで把握し、それを独自の言葉で記述することから始まる。一般的な認識を排除して、飽くまでも個別的に把握することであろう。そして、個別的に細かい部分から改善を始めることだ。
その為には、個別的なことを、言葉という一般性が強い媒体で表現しなければならない。細かい部分を記述すれば、一般性が強い言葉によっても、個別的なことを表現することは可能だ。もちろん、現場の個別的なことを知っていても、言葉で言い表せないこともある。現場の従事者は、何が必要なのかは分かっているが、それに対する適切な言葉に苦慮することも多い。しかし、それを可能にするのが教養なのである。管理者の能力が高いと思われるのは、現場で起こる現象や要望を、的確な言葉に変換して、表現することこそが、管理者の第一の要件になる。
無意味な言葉の羅列では、所詮現場の内容を訴えることは出来ないのだ。
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