鳥取市立病院を含めた鳥取県東部圏域での地域包括ケアへの取り組み

はじめに

超高齢社会に伴う社会保障費増大による財政圧迫の対応策として、地域医療構想による2次医療圏での病床機能分化および連携強化が進められ、入院ベッド数の削減、在宅療養への移行を促進する流れができている。その解決策として、地域包括ケアシステムを構築することが求められている。その意味で、地域医療構想と地域包括ケアシステムは表裏一体の関係で、病院だけの取り組みでは解決されず、市町村や地区医師会と一体となった地域完結型の医療介護連携体制を整備することが求められている。さらに言えば、高齢化率や人口の偏在、人材も含め医療介護資源の偏在など、それぞれの地域によって実情が異なり、都市部と地方での取り組みは全く違う場合もある。すなわち、全国一律に統一されたシステムは存在せず、地域の実情や特性に沿った対策を、住民も含め地域の人々と一緒に考えていかなければいけない時代となった。

 今回は、地域包括ケアに対する当院の取り組みを含め、鳥取県東部圏域の現状について、

Ⅰ 病院の取り組み
Ⅱ 病院群の取り組み
Ⅲ 医師会と自治体の取り組み

 の 3つの視点で報告する。

 

Ⅰ 当院の取り組み

複合的な疾患や病態に対応が必要な高齢者医療への対策として、2010年に地域医療総合支援センターを設置し、総合診療科、歯科を新設した。詳細は以前の病院だよりで報告したため、本稿では割愛する。病院職員にとっての退院はゴールであるが、患者にとっての退院は生活へのスタートとなる。そして、退院後に安心して生活をスタートするための医療・介護体制整備が特に高齢者には必要となる。このため、当院としては、「疾患の治療」のみならず、「生活を支える医療」を提供できる体制を整備してきた。以下の4つが主な活動内容である。

 

1.在宅療養後方支援病院を県内初取得 2015年6月
 ①200床以上の病院、②在宅医療の緊急時の入院対応、③在宅医と定期的な診療情報交換(3か月に1回以上)の要件を満たしていることが必要で、在宅療養中の患者について、かかりつけ医と定期的な情報交換を行いながら、緊急入院は当院で対応していくシステムである。

  

2.「絆ノート」を作成 2015年11月
在宅療養後方支援病院の仕組みをわかりやすく説明するツールとして、「絆ノート」を作成した。ノートの中身は、入院後に多職種チームも介入し、疾患の治療の流れ、退院に向けた生活支援の流れ、退院前カンファレンスの後の在宅療養への移行などについての情報である。さらにそれに加え、各職種の仕事内容、緊急時の連絡先、もしもの時に伝えておきたいこと(アドバンス・ケア・プランニング)、連絡帳などの項目も入れている。詳細については、当院ホームページを参照し、PDFでダウンロード可能である。(「絆ノート」PDF:http://hospital.tottori.tottori.jp/1003.html )

「絆ノート」運用から1年が経過し、登録していただいたかかりつけ医(21名)、患者・家族(42名)へアンケート調査(2016年10月)を行った。概要として、かかりつけ医からの回答(回答率47.2%)では、「絆ノート」への登録について9割の方は、抵抗感はなく、7割の方が「絆ノート」は在宅療養に有用なツールと考えているという結果であった。一方、患者・家族からの回答(回答率50%)では、在宅療養の全体的な満足度は、95.2%が満足していると回答していた。登録後の看取りは16名(在宅死12名、病院死4名)で、在宅死亡率は75%と高い割合であった。アンケート結果の詳細については、研究会や学会で今後発表していく予定である。

 

3.在宅患者共同診療を開始
従来の診療報酬制度では、在宅療養中の患者をかかりつけ医と共同で診療しても、病院側はボランティアでの活動であったが、平成28年診療報酬改定に伴い、在宅患者共同診療料が認められた。当院では「絆ノート」登録の際に希望を確認し、希望があれば共同診療を行い、かかりつけ医との顔の見える連携を進めている。

   

 4.地域包括ケア病棟を開設 2016年11月
48床を地域包括ケア病棟として運用を開始し、急性期病棟(他院を含め)からの受け入れ、在宅療養中の緊急入院などの受け入れを行い、急性期から在宅・生活復帰支援への架け橋となるべく、取り組みを開始したところである。当院としては、東部圏域の中で、地域包括ケア病棟を上手く活用していく取り組みが今後の課題である。
また、地域包括ケア病棟開設準備段階から、退院前訪問指導、退院後訪問指導にも力を入れている。退院前や退院後に在宅へ病棟看護師、リハビリスタッフ、MSWなどが積極的に訪問するようになり、在宅を見据えた医療看護介護などの視点を、入院中から取り入れることで、ケアの質の向上につなげたい。

 

Ⅱ 病院群の取り組み(鳥取県東中部圏域地域医療推進機構)

2012年に1市4町(鳥取市、岩美町、八頭町、智頭町、若桜町)による地域医療推進協議会を設置した。当協議会の方針に従い、鳥取県東中部圏域地域医療推進機構を設置し、現在、施設会員7施設、個人会員28名からなる任意団体として活動を行っている。活動内容は、地域ネットワークによる地域医療を志す医療関係者の育成、施設間診療支援、研修会開催(総合診療セミナー:若手医師を中心に年3回、CBM研究会:地域医療に関する多職種研修を年3回)などである。地域完結型医療介護体制を整備するために、病院群の連携強化および医療従事者の教育・研修に努めている。

Ⅲ 医師会と自治体の取り組み

地域包括ケアシステム構築のための重点項目に、在宅医療・介護連携の推進が挙げられている。鳥取県東部では、2015年度に鳥取県東部医師会と1市4町が連携し、鳥取県東部医師会館内に在宅医療介護連携推進室を設置した。医師会と自治体が共同して在宅医療介護連携の事業を展開している。2015年度から5つのワーキンググループを設置し、事業展開をしている。2017年度からは住民啓発研修プログラム(寸劇を用いた参加型学習会)、多職種研修プログラム(3回シリーズの参加体験型学習会)を作成し、それぞれの研修を開始した。この事業は鳥取県東部福祉事務所の支援も得て、教育研修に関わるファシリテーター(多職種)約60名を養成し、2017年8月には3期生を養成する予定である。2017年度よりファシリテーターを中心に共通プログラムに基づいた住民啓発研修会・多職種研修会が東部圏域の各地で開催され、在宅医療・介護連携の更なる推進が期待される。
詳しくは、http://www.toubu.tottori.med.or.jp/zaitaku を参照 

 

終わりに

地域包括ケアに関する当院の取り組み、病院群、東部医師会、行政との連携について報告した。今後ますます多職種協働の重要性は高まり、施設完結型から地域完結型への移行が加速すると思われる。また、人口減少、高齢化の問題を抱える地方において、人材を含めた医療・介護資源を新たに生み出すことは現実的には厳しくなることが予想される。連携の重要性は更に増し、その先には競争から協働・協調を重視した地域づくりが求められるであろう。

鳥取市立病院地域医療総合支援センター長 鳥取市福祉部参与足立 誠司
1995年自治医大卒。義務年限9年間を地域の公的医療機関で、その後7年間は緩和ケア病棟に勤務、2013年度より現職。がん・非がんを問わない全人的医療のための地域ケア病棟を開設し、また、鳥取市福祉部参与として地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいる。
【役職】
鳥取市立病院診療部主任部長、地域医療総合支援センター長
【専門医資格】
緩和医療専門医、家庭医療専門医、総合内科専門医
臨床教授(鳥取大学医学部)
非常勤講師(公立看護専門学校)
【主な共著】
専門家を目指すための緩和医療学
緩和ケアの基本66とアドバンス44
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014年版 など
1995年自治医大卒。義務年限9年間を地域の公的医療機関で、その後7年間は緩和ケア病棟に勤務、2013年度より現職。がん・非がんを問わない全人的医療のための地域ケア病棟を開設し、また、鳥取市福祉部参与として地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいる。
【役職】
鳥取市立病院診療部主任部長、地域医療総合支援センター長
【専門医資格】
緩和医療専門医、家庭医療専門医、総合内科専門医
臨床教授(鳥取大学医学部)
非常勤講師(公立看護専門学校)
【主な共著】
専門家を目指すための緩和医療学
緩和ケアの基本66とアドバンス44
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014年版 など
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