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緊急特集:新型コロナウイルス感染症を考える-医療・福祉の専門家の視点から-Vol.8「コロナウイルス騒動の真っただ中-サンフランシスコより-」

世界中がコロナウイルス騒動で大変な毎日が続いています。ここサンフランシスコでも連日このニュースで埋め尽くされているのが現状です。日本でも感染が広がり、北海道、東京、大阪に集中していた感染もあっという間に全国各地に拡散している様子を毎日インターネットで見て心配しています。

アメリカ、特にTrump大統領は昨年末からの中国武漢で発生したコロナウイルス感染症を当初は対岸の火事くらいにしか思っていませんでした。イタリアで爆発的な流行になった時でさえ、あっという間にアメリカに感染が拡大し、これほどまでに猛威を振るうとは夢にも思っていなかったようです。3月になってアメリカで感染者が増加し始めても、世界1の医療レベルを持っているアメリカは中国やヨーロッパのようになることは無い、4月12日のイースタ―には皆さんは家族でお祝いが出来るようになります、と豪語していました。

1月21日シアトルで武漢からの帰国者がアメリカ初の感染者として確認され、その後シアトル周辺で多くの感染者発生が報道されました。2月25日サンフランシスコ市長London Breedは市内で感染者が発生していないにも拘らず、非常事態宣言を出しました。全米中が感染者もいないのにどうして、心配しすぎではないか?と批判的な報道が目立ちました。Breed市長は2019年に黒人で初めてのサンフランシスコ市長になった45歳の女性市長です。彼女は「アメリカ最大級のチャイナタウンを持ち、最も中国人に人気のあるサンフランシスコなので必ずウイルスが襲ってくる。その時までに我々は今から準備をしなければならない。私には市民を守る義務がある」とテレビで訴え市民は来るべき時に備え始めました。GoogleやFacebookなどのIT企業も即刻、世界的な会議予定を中止し、在宅勤務に移行し始めました。

3月16日、市内の感染者が40人に増加した時、サンフランシスコ市は全米に先駆けて外出禁止令(Shelter-in-Place)を出しました。スーパーマーケット、病院、薬局、銀行など生活に必要なところ以外は閉鎖です。当然レストランも、ショップ、ジムなどもすべて閉鎖になりました。ただしこの時にBreed市長は職を失うレストランなどの従業員に休業補償として5億円を用意、一人最低週680ドル〈約72,000円〉の補償をしたのです。同時に1万人以上いるホームレスの人達に簡易ホームやホテルの一部を用意し隔離しました。ホームレスの人達がクラスターになる可能性が一番高いからです。私の働いているカリフォルニア州サンフランシスコ校(UCSF)病院も予定手術は中止し緊急手術のみとなり、UCSFは全ICUの中から40床を感染者収容の為に確保しました。また必要とされる以外のマスク、ガウン、フェイスシールドなどを救急、ICUなど第1線で働く人の為に確保したのです。

さらに重症者や死者がホームレス、貧困層、65歳以上の老人、介護施設などに入居している人に多い事が分かっていたので、これらの人々に温かい食事を毎日3食用意し、買い物に行けない老人などはサンフランシスコ市に連絡すれば、食事を家まで届け、学童児には朝食、昼食を用意しました。親か知り合いの人が取りに行っても身分証明など無しで、またどこの学校に通っていようと関係なく近くの学校で受け取れます。市民にはStay Home, Social distanceを徹底させましたが、都市閉鎖までは行っていません。この様な様々な取り組みがニューヨークとの大きな差になっています。

サンフランシスコ市では数多くのPCR検査を実施していますが、それでも4月24日現在まで感染者数1,340人、死者22人です。ニューヨークとの違いは歴然です。これにはいくつかの要因があると思います。

1)初動の速さ。ニューヨークが外出禁止令を出した時には4,000人の感染者がニューヨークにいました。サンフランシスコは40人でした。
2)サンフランシスコは2週間以上の準備期間があり、ニューヨークは準備していませんでした。
3)補償などを充実させ、レストランなどを閉鎖、また従業者の生活を守ったこと。
4)重症者、死者発生を抑えるため、ホームレスや老人、養護施設生活者などハイリスクの人達を隔離、また食事を与え体力、免疫力を付けさせたこと。
5)Stay Home, Social distanceの徹底。
6)医療関係者を守り、医療崩壊を絶対に起こさせないための様々な取り組みをしたこと
などがあげられます。

外出禁止令から6週間近くになりますが、病院入院者数はプラトーから減少傾向にあり、ICUも十分余裕があることなどからサンフランシスコ市は閉鎖解除を検討中です。5月に病院から少しずつ閉鎖を緩め、我々もUCSF全体の会議で、手術数を従来の半数から少しずつ増やして行くことが決まりました。市は医療が大丈夫なことを1-2週間見極めて経済活動も徐々に復活させる予定です。またカリフォルニア州政府はPCR検査を現在の1日16,000から来月には60,000以上に増やし、抗体検査も始めています。

日本のテレビでも連日ニューヨークの悲惨な状態が報道されていますが、同じ医療制度を持ち、同じ医療レベルのアメリカでもリーダーの決断力・発信力や政府の政策・経済的補償の違いで、民間の協力、危機意識にこれ程までに差が出るという事を痛感しています。日本でこれ以上感染が蔓延せず収束することを願っています。


※本原稿の内容についての責任は著者にあり、編集局の意向を示すものではありません。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児胸部心臓外科教授佐野俊二
1977年、岡山大学医学部卒業
1983-1985 ニュージーランド、オークランド大学胸部心臓血管外科研修医
1985‐1986 メルボルン大学附属小児病院心臓外科シニアフェロー(上級研修医)
1986‐1990 メルボルン大学附属小児病院心臓外科准教授
1993‐2016 岡山大学医学部心臓血管外科教授
2016-現在 カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児胸部心臓外科教授
1977年、岡山大学医学部卒業
1983-1985 ニュージーランド、オークランド大学胸部心臓血管外科研修医
1985‐1986 メルボルン大学附属小児病院心臓外科シニアフェロー(上級研修医)
1986‐1990 メルボルン大学附属小児病院心臓外科准教授
1993‐2016 岡山大学医学部心臓血管外科教授
2016-現在 カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児胸部心臓外科教授
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