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緊急特集:新型コロナウイルス感染症を考える-医療・福祉の専門家の視点から-Vol.4「社会のセーフティネットとしてのNPOを潰さないために ~新型コロナウィルスによるNPOへの影響調査とそこから見える課題~」

新型コロナウィルスによる自粛要請による影響は様々な業種に影響が出ていますが、私たちNPOの分野にも多くの影響が出ています。地域にはNPOによる多様な支援が生活の支えとなっている方が多くおられます。今回の自粛要請に伴う事業停止や利用者の減少により組織維持や職員の雇用が困難になれば、NPO の支援を受けている人も支えを失い、困難を抱える人が急増する可能性があります。そうした事態を引き起こさないためにも、NPOの状況把握のためのアンケート調査を行うとともに、その結果を基として、国、岡山県、岡山市への要望をさせていただきました。

ここでは、今回のアンケートから見えたNPOが抱える困難とNPOが支える人たちに表れている影響や懸念をお伝えさせていただきます。

68%は新型コロナウィルスの影響を受けており、 45%はすでに経営へ影響が出ている。

内閣府の「NPO法人ポータルサイト」によれば岡山県内のNPO法人は835法人(2020年4月14日現在)です。今回のアンケートでは2020年3月27日~4月10日までの短期間の間にその約1割となる89組織(うち、無効2件)に回答をいただきました。回答のうち、68%は現在、新型コロナウィルスの影響を受けていると回答され、21%は今後影響が出ると思うと回答されました。あわせると90%のNPOが現在ないしは今後、新型コロナウィルスの影響がある状況だとわかりました。

また、45%は経営に影響が出ており、32%が今後、影響が出ると回答されています。あわせると7割以上のNPOの経営悪化につながっています。具体的なものとしては、「顧客や利用者の減少」が最も多く、次いで「商品やサービス等の売上・受注の減少」、そして、「委託金や補助金の減額」と、この3つが大きなものとなっています。

さらに具体体に見ていくと、「イベント、セミナー、講演会、ワークショップ、体験会などの行事が中止または延期になった」という組織は福祉、子ども、文化、まちづくりと様々な分野のNPOで起きており、またそれが行政からの委託の場合には「受託事業内で開催予定だったイベント、及びシンポジウムが開催中止となり、委託金額の減額対象となった」という形でも影響が出ています。また、「障害者作業所で製箸作業から箸入れ作業を請け負っていたが、作業が入らなくなった。」「朝市が中止になった」「コロナウイルスにより主取引先の飲食店が壊滅のためジビエの受注が激減している」などの業務の受注や販売機会が無くなっているNPOもあります。そのほかにも「ビザが取れず断念した」「支援先に行けない」などの海外支援では現地に行けないという問題も起きています。

これらにより事業収入(売上)が減少したNPOも多く、この2月~3月における被害額は平均で1,748,261円、最大で20,000,000円となっています。事業自体がなくなり、大口の委託が無くなったなど、2020年度の事業計画自体を大きく変えざるを得ない状況です。

衛生面での対応やマスク等物資の不足に関する不安と、 スタッフやまた支援対象者が罹患し活動や支援が継続できなくなる不安。

多くのNPOは人との相対による相談やケア、人の居場所づくり、人と人はあらたなアイディアを創出したり、共同作業に取り組むことを主内容にしています。その現場では、衛生面での対応が求められ、そのための負担増にも苦しんでいます。希望する支援策としても「資金の支援」が最も多く、次いで「物資の支援」となっています。マスクなどの感染予防に必要なものへのニーズは高く、自由記述でも多くみられました。

また「わからない」という声が実際には2番目に多く、初めての状況の中でどのように対応すればよいか、見極めがつかない組織も多くあります。「毎月の利用者作業手当が少なくとも向こう6カ月は払えない。」「受託業務で事務所運営をしているため、コロナウィルスの影響で受託事業の中止、及び減額となった場合」など、資金的な面での不安が多くみられます。

困難を抱える人の増加と差別の拡大に対する懸念。 そして、それを支えるNPOの重要性。

それぞれの自由記述では、「非正規雇用のひとり親家庭等の収入の減額。外出制限により、居場所がなくなる。また家庭の様子が見えにくくなることで、虐待等の問題が察知できにくくなる。」「子育て世帯なので、孤立によるメンタルヘルスマネジメントが必要」「活動地域(ベトナム・フィリピン)において、中韓日人への差別が横行しつつある」「今まで元気に集っていた ろう高齢者の居場所が奪われたことでフレイルの状態になりやすい。」「観光地、町並みとにかく人が来ないので多くの事業者に影響大です。高齢と収入源で廃業などさらに加速されるのではないか」「真備での(被災者)支援が出来なくなっている」等、多様な社会課題増加の懸念が示されています。

また、「高齢障害者が多く利用しているので、感染リスクが高い。 センターの利用を制限すると居場所がなくなり、孤独感や不安感が増す利用者も出てくることが予想される。」「どの世帯も経済的に困窮し、利用者が増えるが今の体制のままでは応対し切れない」など、このままではそうした困難を抱える人の支援がNPOの活動が停止や解散を余儀なくされることで拡大するのではないか、そうしたことが現実に迫っていることを感じます。また「いわゆる社会的弱者の声が益々届かなくなるのではないか。」という声もあり、この状況にこそNPOによる支援が必要な中で、財政面や運営面などの問題により活動に多くの不安がある状況となっています。

この状況を踏まえ、岡山NPOセンターでは全国のNPO支援組織と連名で、NPO議員連盟に要望書を出すとともに、岡山県、岡山市に対しても要望を行いました。

以下はNPO議員連盟に要望した事項です。

(1)今後、展開される事業者を対象とした緊急経済対策等において、NPO法人及びそれに準じる組織も対象とすることを明確化し、自粛要請による影響で売上の減少や委託業務等が減少したNPO法人及びそれに準じる組織が資金的な支援等が得られるようにすること。

(2) 自治体等より委託や指定管理等を受けて施設管理やイベント・セミナー開催を行う事業について、新型コロナウイルスを理由とした自粛要請で閉所や開催中止を余儀なくされた際において、委託金等の減額を行わないよう各自治体へ通達をすること。特に雇用維持の観点から、人件費については前年度予算並みを維持すること。その際には、実績に応じた支払を行う事業(成果連動型報酬)の事業も対象とすること。
(3) 新型コロナウイルスで影響を受ける人に対する多様な取り組みを推進するために、休眠預金等活用制度の柔軟運用や福祉医療機構、環境再生保全基金などを通じた緊急助成事業の実施。
(4) 年度末業務により出勤を余儀なくされることを回避するための、税務申告の期限の一律延期。NPO法人の事業報告書等の提出期限の一律延期。それらの各法人への周知徹底。
(5) 新型コロナウイルスの支援パッケージ等の支援策について、NPO法人への周知徹底および各地のNPO支援センター等を通じた相談支援の実施・強化
(6)その他、各都道府県ないしは市町村単位での NPO の事業継続のための包括的な支援の実施。
以上。


繰り返しとなりますが、NPOが事業の停止や廃止、組織の解散を選択しなくてはならない事態が多発した場合、困難を抱える人を支える NPO が不足し、状況が悪化する事態が懸念されます。県内には障がい者を支援するNPOが一組織しかない地域もあり、その組織を失うと代わりとなる存在をつくることは困難です。また、福祉だけでなく、文化、スポーツ、教育、まちづくり、離島や山間地の支援など、多様な分野において活発な市民による取り組みが消滅または後退し、連鎖して様々な社会の綻びが生まれていく可能性があります。こうした事態を避けるためにもNPOの事業継続を支援する必要があります。

こうした取り組みに対する寄付などの動きも起きています。少しずつでも支援の手を伸ばしていただければありがたいです。NPOの取り組みにとって対面での対話や交流ができないことは大きな痛手であり、居場所などの場は、まさしくその場所がひらかれることで生まれる価値が大切なことだと思います。感染の拡大はなんとしても防ぐべきことでありますので、それを第一に考えながら、その中でできる方法、こうした状況だからこそ、支援を行うこと、支えあうこと、そして、誰ひとり取り残さない社会を目指すことをあきらめずに挑戦していきたいと思います。



※本原稿の内容についての責任は著者にあり、編集局の意向を示すものではありません。

社会の仕組み屋、社会の編集者石原 達也
NPO法人 岡山NPOセンター 代表理事
NPO法人 みんなの集落研究所 代表執行役
一般社団法人 北長瀬エリアマネジメント 代表理事
PS瀬戸内株式会社 代表取締役
SDGsネットワークおかやま 会長
災害支援ネットワークおかやま 世話人
一般社団法人 高梁川流域学校 副代表理事
NPOで働く人の会 事務局長
NPO法人 岡山NPOセンター 代表理事
NPO法人 みんなの集落研究所 代表執行役
一般社団法人 北長瀬エリアマネジメント 代表理事
PS瀬戸内株式会社 代表取締役
SDGsネットワークおかやま 会長
災害支援ネットワークおかやま 世話人
一般社団法人 高梁川流域学校 副代表理事
NPOで働く人の会 事務局長
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