もしも運転免許の更新が5年毎の路上実地試験であったら、どうなるのでしょうか。きっとみんな反対するでしょう。ベテランドライバーなら「そんな試験しなくても大丈夫!試験は必要なし、時間も金も勿体無い」と言い張るでしょう。またほとんど運転していないペーパードライバーなら「受けたくないなあ、やっと受かって免許取れたのに、またあの難しい路上試験、受けなきゃいけないの?」と嘆くでしょう。
医師の世界には専門医制度をはじめ様々な資格制度があり、その更新はほとんどの場合、臨床実績、研究実績で評価されます。そんな中、検診マンモグラフィの読影資格は、その習得にも更新にも実際の読影試験が課されているのです。さらに更新は5年毎に行われるというおまけ付き。マンモグラフィの読影自体は医師国家試験に合格した者であれば誰でも可能です。保険診療で許されているのです。それはその他のCTやMRI、PET、内視鏡などの画像診断と同様です。
しかし、自治体が税金を使って行う対策型乳がん検診では、誰もが診断することは許されていないのです。日本乳がん検診精度管理中央機構(以後、「精中機構」)というNPO法人が行うマンモグラフィ読影試験に合格しなければなりません。ほとんどの自治体では、検診施設を認定する場合に精中機構が実施する技術部門、読影部門の試験に合格することが必須とされています。その試験に一度合格すればその資格は生涯消えることはないのですが、精中機構では5年毎の読影試験による更新を推奨しています。
更新されない場合は、精中機構のホームページに記載している都道府県ごとに示される読影資格習得者名簿から削除されることになります。削除されても対策型検診におけるマンモグラフィ読影はできるので、大きな影響はないかもしれませんが、その名簿は『検診マンモグラフィ読影認定医師リスト』という名前で公開され、一般の方も当然その名簿を見ることができるのです。そこに記載されてない医師は、ちゃんとマンモグラフィが読影できない医師であると、一般の方が思うかもしれません。
純粋にマンモグラフィの読影力を維持したいがために、5年毎の読影試験に参加する医師もいるでしょう。しかし多くの医師は、なんとかその名簿に名前を残すために更新試験に参加しているのです。
その資格試験の運営に当たる医師の努力には敬意を払いますが、私はその資格試験、更新試験には根本的に大きな問題があると、感じてきました。その様な資格試験が始まって10年以上経ちますが、今まで一度もその資格試験が有用かどうかの検証がなされてないということです。税金が使われ、また医師や医療施設が多大な労力、資金を費やして維持する検診マンモグラフィ読影資格認定制度が有効かどうか、今すぐにでも行うべきと私は強く主張したいのです。
さらには試験の中身も私は疑問に思っています。今のマンモグラフィ試験は精中機構が作成した複雑なカテゴリー分類を問う形式が採用されています。良性・悪性の鑑別をするだけではありません。良性であっても、カテゴリー3以上の要精査と判定しなければ『正解としない』という問題も含まれているのです。非常に優秀な読影医は、悪性と鑑別が難しい良性所見を的確に『良性』と診断して、要精査にしない技術を持っています。その様な医師の方が精中機構の読影試験では成績が悪いということも起こりうるのです。精中機構の推奨する読影方法は過剰診断につながる恐れが大なのです。
そもそも精中機構は、乳がん検診の精度管理を行うために設立されました。その精度管理のやり方が、資格試験に合格するか否かという点でしか行われていないのは問題です。本来の検診の精度管理とは、検診成績がどうであったのかを検証することが必要なのは自明の理であります。
私は私の属している市の乳がん検診資格認定委員会に参加しております。そこではできる限り検診施設ごとの成績(がん発見率、要精査率、陽性反応適中率)を報告するシステムを構築し、報告がない施設、また検診成績が悪い施設には改善する様に指導してきました。その様にして市全体の乳がん検診レベルを向上させる様にしてきたつもりです。恐らく私の属する〇〇市の乳がん検診成績は、日本で1番だと自負しております。
最後になりますが、精中機構では近い将来導入されるであろう乳がん超音波検診にも、その様な資格認定制度を導入しようとしています。これには絶対反対する立場で意見を述べていきたいと思っております。
次回は、もうひとつの乳がん検診の怪についてお話しします。
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