ネットワーク型社会を考察すると、社会形態の深層にまで及ぶ社会の仕組みが見えてくる。

ICT(information and communication technology)の発達により、現代は、ネットワーク型社会と言われている。


ネットワーク型社会を考えていくと、社会形態の深層に及ぶ社会の仕組みを解き明かすことが出来る。個人や団体が、社会の中でネットワークによってつながりを持つことは、近年のICTが発達した結果ではない。さらに言えば、NPOやボランティアの専売特許でもないのである。


古代にさかのぼり、紀元前5000年頃から、ネットワーク社会は形成されていた。ネットワーク社会と相対するのは、階層社会だ。昔からネットワーク型社会が存在し、同時に階層社会も存在していた(階層が固定している場合は、ネットワークを作りにくい。例えば、古い会社の様に、階層が固定している場合は、自由なネットワークは形成されにくく、「非公式」なネットワークに陥りやすい)。

 

人類が誕生して進化を遂げていく過程で、「分業」が始まった。完全な自給自足社会からの変化である。


「分業」が始まる以前の完全な自給自足社会では、衣食住のすべてを自前で供給しなければならないので、衣服は、捕獲したトナカイの皮で作り、住まいは、近くの木を伐採して小枝を集めてその上に泥を塗って作った。食べ物は狩猟採集したもので賄っていた。

 

しかし、獲物を取る道具を自分で石を使った物と、もっと上手に作れる人に依頼して出来たその道具を使った場合とでは、獲物の捕獲量に大きな差が出てくるだろう。その為に、道具を作ってもらったお礼として、狩りをして獲得した獲物を提供する事は、分業の始まりとなった。不慣れな道具作りに時間ばかりをかけて作り、その結果獲物が少ないよりも、上手く作れる人に依頼して、良い道具で獲物を多く得て、作ってくれた人に獲物の一部を提供する方が合理的である。道具を作る人にとって、自分で狩りを行うよりも、狩りを行った人から、食物を得るほうが合理的なのである事は当然だろう。


この様な分業の形態がネットワーク型社会の始まりである。つまり、ネットワーク型社会は、ICTの発達によって生まれたものではなく、分業が始まると同時に発達したものなのだ。

 

この様に考えると、世界はすべてネットワーク型社会になると考えられがちであるが、そうではない。人間社会には、自給自足型形態が根強く残っている。その理由は、いくつかある。まず、所有欲はいつの時代にでも、人間の欲望として非常に大きなものだ。さらには支配欲もある。これは、所有欲とほぼ同じようなものだ。例えば、オーナー企業は、その利益よりも規模を競う傾向がある。すべてを自分のモノとしたい欲求は所有欲と、支配欲の形を取るのである。この二つは、合理的欲求ではなく、生理的な欲求に近いものだ。これらは、自給自足型形態を促すように働く。

 

また慣習もネットワーク型社会の阻害要因となる。介護や育児は妻の仕事であるとの慣習は、社会的分業を阻害する要因となる。

 

一方で、自給自足的形態を促す合理的な理由としては安全欲求がある。ネットワーク型社会は、相互の信頼と、道中の安全を基礎としているので、安全が保たれない事を理由として、ネットワーク型社会からの離脱を志向する傾向が生まれる。

 

貿易はネットワーク型社会の典型であるが、自給自足型形態を志向する場合では、貿易による安全性を問題とする場合が多い。最近の保護主義的傾向においての議論はこの事をよく物語っている。

 

BSEが発生すると牛肉の輸入が差し止められ、原発の事故によって、福島の農産物の輸出が拒否された例など、安全を重視する志向は限りが無いので、ネットワークを作る際の大きな障害となる。

 

感染症も昔からネットワーク型社会を阻害する大きな要因だった。他国からの感染症の侵入は、人々にとって目に見えない脅威だけに、大きな不安感を与え、その結果ネットワーク型社会を寸断する。安全志向と自給自足型形態とは、同一の場所に存在すると言った方が良いかもしれない。

 

国と国との関係でなく、コミュニティ間の関係でも同じことが言える。コミュニティ内の関係を重視し、内部での連帯を大切にする傾向と、コミュニティ内よりもより広い関係をネットワーク型で志向することの違いも、安全志向から読み取ることが出来る。


企業が、自給自足型形態を志向する時は、垂直型組織をとる。例えば、機械メーカーは、部品の調達を自社の下請けから行い、下請けがその他の(系列外の)仕事を請け負うことは少ない。この様な形態が、日本では昔から一般的であった。
これに対して、系列の形態を取らず、下請け企業も、いろいろな企業へ納品し、発注企業も価格や品質によっていろいろな部品メーカーへ発注する形態はネットワーク的だろう(その分安全性を多少犠牲にしている)。

 

ネットワークを基礎とする社会的分業体制は、ICTの発達と共に、一国の社会においても、あるいは、国同士の関係においても欠かすことが出来ないものとなっているが、近年その前提を脅かすような現象が起こっている。

 

ナショナリズムの拡大である。

 

ナショナリズムは情動的衝動を基礎としているので、合理的考えに基づくネットワークを破壊しやすい。


国単位で言えば、大陸型国家は、自給自足型、垂直統合型であり、海洋国家は、貿易を主としているので、ネットワーク型であると言える。


日本の場合は、当然海洋型国家のはずであるが、江戸時代の鎖国、明治時代の大陸進出などから、自給自足型国家の色彩が濃くなったようだ(しかし現実には、貿易無しでは成り立たないのが現状である)。

 

安全志向が強くなっている状態、あるいは、コミュニティを大切にする近年の傾向は、自給自足型を志向するようになる。 

 

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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