格差の解消のためには、所得の再分配に先駆けて「市場の改善」を。

それぞれに国や地域での格差の程度を示す指標として「ジニ係数」がある。

 

「ジニ係数」は、格差が最大(10人のうちで1人が富を独占し、その他の9人は何もない状態)を1とし、格差が最小(10人が同じ富を受け取る場合)を0として、一定の集団でどの程度の差が生じるかを見たものである。

 

1975年から2015年に渡って、ほとんどの国でのジニ係数が上がっている、つまり、格差が拡大しているのだ。その中でも、スウェーデン、フランス、ドイツなどの北欧、西欧諸国はジニ係数が低く(格差が少ない)、アメリカ、イギリスは格差が大きい。日本はその中間だ。しかし、どの国も50年の間に格差は大きくなっていることは確かである。

 

ジニ係数のグラフは、世界全体で格差が広がっていることを示している。では、広がっている所得格差に対してどの様な政策が必要なのだろうか? 大きく二つの方法がある。一つは、市場をコントロールし、格差を生じないようにすること。この主たる対象は賃金政策だ。二つ目は、市場が生み出す格差は仕方がないと諦め、再分配によって格差を縮小する方法だ。再分配とは、高額所得者から低所得者へ、富を税や社会保険で「再分配」することである。下図は、日本で、再分配が行われる前後のジニ係数を示している。

厚労省;所得再分配調査 

このグラフの特徴的なことは、再分配前の当初所得(社会保険や税を引かれない金額)では(図赤色グラフ)ジニ係数はかなり上昇傾向にあり(格差が急速に増加)、再分配後、つまり、社会保険や税を差し引いた後では、ジニ係数の数値の上昇が抑えられている(格差が広がっていない)ことが顕著である。社会保険や税の再分配が、日本では格差の是正に大きく貢献していることが分かるだろう。この傾向は特徴的だ。

 

社会保障の大きな役割は、所得の再分配にあるので、その効果が示されていると言える。しかし、再分配に過度に依存することは、所得から差し引かれる金額が増加することであり、一定の範囲では再分配は正当化出来るが、あまりにも大きすぎると不満が生じる。さらに再分配によって格差を少なくすることには限界がある。従って、まず、市場での格差をあまり広げない規制を行い、その上で社会保険や税での再分配を行うことが基本である。

 

では、市場においての(もとの所得での)格差を少なくするにはどうすればよいのか? 

 

世界との比較で、日本では所得の多すぎる人たち(経営者や株主)は海外に比べ抑えられていることが分かっている。いわゆる過度の株主優先策は見られない。しかし、低所得で働く人、いわゆる非正規労働者の割合が急速に増加していることが最近の特徴であり、当初所得での格差を広げている。経済を健全に保つためには、市場の規制によって、賃金政策を正しくすることが重要だ。

総務省統計局資料

日本において賃金格差を生んでいる大きな原因は、いわゆる非正規社員と正規社員との時間あたりの給与の差、男女間の賃金格差、年功給制度によって、同じ仕事をしていても若者よりも年を取っている社員の給与は高いことなどが上げられる。これらは、同一労働同一賃金の法則から、同じ仕事を行っている社員は、雇用形態が異なっても一時間あたりの賃金は同じであるべきだ。再分配の前に、これらの差別を早期に解消する必要があるのだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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