潜入レポ!介護の現場から 第1話「止まないコール -前編-」

介護サービスの現状はお粗末というが、それは現場のヘルパーの責任でも、彼らを雇っている事業者の責任でもない。制度の責任であり、それをやっている地方と中央政府の責任なのだ。
そんなことは百も承知の上で、それでもやっぱり介護の現場の実態とは一体どんなことになっているのか、何か光が見えないものか覗いてみることにした。
 ある介護施設にパートのヘルパーで入社することにした。最初の面接で施設に行ったときのこと。玄関のコールを押して待つこと7分。面倒くさそうに出てきたヘルパーらしき人に「池田と申します」と名前を言うと「常勤希望?」と問われ何と答えて良いか言葉に詰まり「責任者の渡辺さんと面談の約束をしています」と答えたら「あっ、そう。じゃ、ど~ぞ」とようやく中に入ることを許された。

 

 相手の問いもわかりにくいがこちらも答えになってない返事で複雑な気持ちのまま責任者の渡辺さんに面接をしていただく。渡辺さんは「忙しくてごめんなさいね~」と言いながらパソコンから目が離せない様子でなかなか私の顔を正面から見てくれない。施設の中ではコールが鳴り続けている。誰も対応者がいないのかと心配になったころ、コールが鳴り止み「今、行きますから!」と大声で叫んでいるのが聞こえた。コールを受けてもらえた安心感とあの大声を出している人が対応するのかなと不安な気持ちも加わり、またまた複雑な思いに・・・とそんなことを考えていると渡辺さんが「お待たせしました。池田さんですね。仕事内容の説明をします」と声をかけてきた。「パートなので責任あることはしなくていいですから・・・」「パートなのでそんなに難しいことはしないでいいですから・・・」「パートなので・・・」とのこと。パートは格下であまり期待されていないのだなと思いつつ再び鳴り始めたコールが気になりだした。

 

「それでいつから来られます?」「えっ?採用?決まったの?」と唖然としていると「うちはいつからでも良いですよ。来週からにします?」と畳みかけられ思わず「はい・・・」。月曜日~金曜日の11時~15時が勤務時間と決まった。
 翌週月曜日、初出勤。渡辺さんは不在で「私もパートで働いている大村です。今日は私についてきてください」と声をかけられた。「今から14時くらいまでは戦争のように忙しいわよ。説明している暇はないから、わからないことはあとで聞いてね」と言うと早速動き出した。今日もコールが鳴り続いている。「あの、コールは何とかしなくていいですか?」と聞くと「そんなのに関わっていたら自分の仕事ができないじゃない。そのうちだれか出るからいいのよ。今から203号室に行きますよ」。何のためにコールはあるのだろう、コールの先にはお困りの方がいらっしゃるのではないのか、と思っていると他のヘルパーさんが202号室をいきなり開けて「わかっていますから!何度も押さないで!後でまた来ます!」とまたどこかに行ってしまった。何秒もたたないうちにまたコールが鳴った。202号室の方の気持ちを聞いてみたくなった。

 

『潜入レポ!介護の現場から』全体像

介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や時には受診付き添いなどでの病院の様子などレポートは多岐にわたる。

【登場人物】
・介護の現場体験者:池田出水
・施設責任者:渡辺
・パートの先輩:大村

・常勤職員
・往診医
・203号入居者
・202号入居者
・202号入居者家族

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
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