無意識の内に、ある一定の規範に従わせる「自己の家畜化」。その典型は「教育」にこそある。

現代人の多くが陥っている自己家畜化は、以下の条件がある。
①生理的欲求(食欲、睡眠など)と安全欲求を満たすために、自由を差し出すこと 
②それを無意識に行うこと


例えば、飛行機の安全を確保するために、保安検査を設けることは、自己家畜化とは言わない。何故なら、安全と自由の関係を多くの人が意識し、自分自身もある程度承認しているからである。


野生動物を飼育して文明を発達させた人間が、便利で快適な現代社会で自己家畜化に陥っている。現代都市では自然の環境は無い。その理由は自然の環境は、余りにも危険だからである。自然の川は洪水の恐れがあって、泳ぐには危険なので、洪水の対策が行われて水泳には専らプールが用意される。


自然に生息している昆虫(例えばスズメバチなど)は視界から消え去るように駆除され、イノシシやクマなども危険な生き物として排除されている。また、食物はスーパーマーケットで自動的に提供されるが、この状態は家畜を飼育する場合と似ている。しかし、このような人工的環境を否定する事は出来ない。人間の生息には大切なものだ。危険を排除して人工的な環境を作ることは限度を超えなければ悪いことではない。だがそれは自己家畜化の一環であること、つまり①の条件であることを認識すべきである。

 

老人ホームは、自己家畜化の典型と思われている。
行動が制限され、食事も管理され、挙げ句に遊びも管理され、幼児化を強いられる。自由の多くを剥奪されていて、生かされることが管理の目的となっている。しかし、この様な環境は、自己家畜化とは呼べない。それは高齢者が無意識に入居し、生活しているのではなく、多くは他から(多くの場合は親族など)入居を強いられているからだ。従って、今の環境を変えるためには、高齢者の「自己決定」を最優先事項として徹底すればよい。管理されて自由が乏しいけれど安全な老人ホームか、あるいは、管理されず、自由があり、その反対にある程度の危険が伴う住宅に一人で暮らすかの選択だ。この選択によって、自由を犠牲にする場合には、自己の責任で行うことになり、自己家畜化を免れる。

その点で、国単位で行われている自己家畜化、つまり、無意識の内にある一定の規範に従わせることの典型は教育にある。


現代の教育は、国家から望ましい人物像を教育指導要綱に沿って提示され、それに向かって努力させられる。望ましい人物像とは、産業社会に適合する人物だ。産業社会に合う人物とは、読み書きそろばんが達者で、しかも自分の生き方をあまり主張しない人間だ。その意味では現在の教育は子供のデコボコな自然の感性を型に嵌め、デコボコで自由な生き方を選択する余地を無くしている。昔の階級社会から社会的に進化した人類は、為政者や社会が決める生き方に縛られることなく、自分が好む生き方を選ぶことが出来るようになり、さらに社会保障制度により最低限の生活が保障証されているにも関わらず、である。

 

物学者の小原秀雄氏によれば、現代社会のいじめ、管理教育、環境問題などの根本にも、この自己家畜化の問題があると述べている。人間は社会性を持った生き物なので、本来、同じ様な年の子供との集団生活は好きなはずだ。しかし、学校に行きたくないことは、何かを強制されているからであり、その強制は、ある一定の像に合うように子供を枠に嵌めることである。それよりも、自分の思うことを存分に考える自由、自分のやりたいことを自由に行う行動力などを伸ばす教育が求められる。現代は他者から強制された仕事を行う必要はない。収入は少なくなるかもしれないが、それで餓死することはないだろう。

 

子供は本来学校が好きなはずである。好きな学校で疎外され、そして登校拒否となるのは、本来的な学びを離れ、社会が求める能力を押し付ける場所になっているからであろう。映画監督の羽仁 進氏によると、アフリカで見られる現象に、遊牧民の子供は学校へ逃亡するといわれる。遊牧民が学校へ行ったとしても良い遊牧民には、なれない。


労働力の一部として期待を寄せていた子供が、学校で同年輩の子供と親しみ(家庭労働をしている場合はその様な機会はない)、本を読み、字を書き、計算を行い、絵を描き、劇を演じて楽しむことは親にとっては都合が悪い。しかし、ほとんどの子供が、学校へ行くことを楽しんでいる。したがって遊牧民の親は、家庭労働を阻む学校を憎むのである。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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