人手不足が深刻な日本で、賃金が上がらないのは不思議な現象である、と他国からは思われている。アジアにおいても、中国、韓国、東南アジアなど、多くの国で人手不足は賃金の上昇を招き、庶民の暮らしを改善させて、その結果、消費が盛んになるというパターンを取っている。過去の日本でも同様だった。しかし、現在の日本では、激しい人手不足にもかかわらず、さほど賃金は上がっていない。何故このような現象が起こっているかは不明である。しかし、悪いサイクルに陥っていることは確かだろう。原因として、日本独特の雇用制度(解雇が難しく、賃金の引き下げも困難)、企業の生産性が上がっていないこと、労働組合の弱体化、中途雇用市場が貧弱、などが挙げられる。これらの要因は、日本の社会構造に組み込まれているので、改革は非常に困難である(しかし改革は必要だ)。そこで、市場とは関係なく、公的に定められた最低賃金を引き上げることが議論されている。
但し、賃金が低いことと貧困とはイコールでないことに、注意しなければならない。賃金が個人の労働の対価であるのに対し、貧困は世帯所得の問題だ。貧困か否かには、賃金のみならず世帯内の就業者や扶養家族の人数が密接にかかわってくる。さらに個人の賃金分布と世帯の所得分布は一致しない(神吉 知郁子 立教大学准教授、日経新聞)。この点を把握しながら、賃金構造の改善を図るために、最低賃金をさらに引き上げることを提唱したい。
毎年見直されている最低賃金は、2019年10月から引き上げが行われた。全国加重平均は901円、最高額(東京)1,013円と最低額(790円)(鹿児島、熊本、山形など)になった。最低賃金法は社会保障の観点から、均衡賃金(自然に決まる賃金)が低い場合は、それより高い水準に最低賃金を設定される。しかし、現在の日本では、社会保障の問題ではなく、市場の失敗を正す視点から最低賃金を引き上げるべきだと考える。
日本において、多くの中小企業の時間給賃金は、ほぼ最低賃金水準に張り付いている。政府が決める最低賃金は、それ以上賃金を上げなくても良い免罪符のように使われている。労働力不足であれば、経済原則から考えて、当然のこととして、賃金の引き上げ競争が起こり、労働者の争奪合戦が生じると考えられるのに、労働者が足りない、しかし、賃金は上げたくない消極的な企業の体質によって賃金が上がっていない。賃金を上げないことの代替案として、外国人労働者の導入が加速されている。その結果、いわゆる正規職員と非正規職員の格差が問題となっている。この差別は、労働条件を管理すべき地方自治体にまで及んでいる。最低賃金を引き上げると、多くの中小企業や地方自治体では、人件費の上昇を来すのだ。
以下の表は主要国の法的に決められた最低賃金を示すものだ。
アメリカ合衆国の最低賃金は、公正労働基準法によって連邦最低賃金が定められているが、この他に、各州が定めている最低賃金もある。州の最低賃金が連邦最低賃金よりも高い場合には、州の最低賃金が適用される。アメリカ合衆国の連邦最低賃金は7.25ドル(日本円で783円 )であるが(以下いずれも1ドル108円で換算)、連邦政府契約事業者に課せられる最低賃金額は2019年1月時点で時給10.60ドル(1145円)である。
通信販売大手のアマゾンは2018年11月1日より、初任給を11 - 12ドルから15ドル(1620円)に引き上げた。アメリカ最大の小売店ウォルマートは、2018年1月にアメリカ従業員の初任時給を11ドル(1188円)に引き上げた。
これらはいずれも「最低賃金」である。概ね、現在の日本の最低賃金は、他の先進諸国に比べ20%~40%も低い。かつてない人手不足にもかかわらず、である。企業は、人材の需要が高く、供給が少なければ、賃金を引き上げる当然と思われる行動をすべきであるが、何故か日本企業は、賃金の引き上げに消極的だ。賃金を引き上げると利益がなくなるような企業が多いからだろう。いわゆるオーバーストア状態なのである。
過去10年間に時間給賃金の引き上げは僅かであったために、時間給賃金は公定の最低賃金に張り付いている状態だ。企業が賃金を引き上げないなら、公的最低賃金の引き上げは、企業の選別を強制的に行う状態を引き起こす。そして、生産性に優れた企業のみが生き残り、オーバーストア状態の解消に寄与するだろう。この点で、現政権の政策は正しいが、引き上げ幅をさらに拡大すべきである。
但し、急速な変化についていけない業界もあり、一度に20%の引き上げは現実的でない。しかし、現状の最低賃金の引き上げ幅を加速すべきであるとすれば、年間5%以上の賃金引き上げ(現状は2%~3%)が必要だ。現在加重平均で901円である最低賃金が年間5%ずつ引き上げられれば、3年後には1043円、5年後には1150円になる。やっと「現在」の先進諸国並みになるのだ。
研究助成 成果報告の記事を見る
小林 天音の記事を見る
秋谷 進の記事を見る
坂本 誠の記事を見る
Auroraの記事を見る
竹村 仁量の記事を見る
長谷井 嬢の記事を見る
Karki Shyam Kumar (カルキ シャム クマル)の記事を見る
小林 智子の記事を見る
Opinions編集部の記事を見る
渡口 将生の記事を見る
ゆきの記事を見る
馬場 拓郎の記事を見る
ジョワキンの記事を見る
Waode Hanifah Istiqomah(ワオデ ハニファー イスティコマー)の記事を見る
芦田 航大の記事を見る
岡﨑 広樹の記事を見る
カーン エムディ マムンの記事を見る
板垣 岳人の記事を見る
蘇 暁辰(Xiaochen Su)の記事を見る
斉藤 善久の記事を見る
阿部プッシェル 薫の記事を見る
黒部 麻子の記事を見る
田尻 潤子の記事を見る
シャイカ・サレム・アル・ダヘリの記事を見る
散木洞人の記事を見る
パク ミンジョンの記事を見る
澤田まりあ、山形萌花、山領珊南の記事を見る
藤田 定司の記事を見る
橘 里香サニヤの記事を見る
坂入 悦子の記事を見る
山下裕司の記事を見る
Niklas Holzapfel ホルツ アッペル ニクラスの記事を見る
Emre・Ekici エムレ・エキジの記事を見る
岡山県国際団体協議会の記事を見る
東條 光彦の記事を見る
田村 和夫の記事を見る
相川 真穂の記事を見る
松村 道郎の記事を見る
加藤 侑子の記事を見る
竹島 潤の記事を見る
五十嵐 直敬の記事を見る
橋本俊明・秋吉湖音の記事を見る
菊池 洋勝の記事を見る
江崎 康弘の記事を見る
秋吉 湖音の記事を見る
足立 伸也の記事を見る
安留 義孝の記事を見る
田村 拓の記事を見る
湯浅 典子の記事を見る
山下 誠矢の記事を見る
池尻 達紀の記事を見る
堂野 博之の記事を見る
金 明中の記事を見る
畑山 博の記事を見る
妹尾 昌俊の記事を見る
中元 啓太郎の記事を見る
井上 登紀子の記事を見る
松田 郁乃の記事を見る
アイシェ・ウルグン・ソゼン Ayse Ilgin Sozenの記事を見る
久川 春菜の記事を見る
森分 志学の記事を見る
三村 喜久雄の記事を見る
黒木 洋一郎の記事を見る
河津 泉の記事を見る
林 直樹の記事を見る
安藤希代子の記事を見る
佐野俊二の記事を見る
江田 加代子の記事を見る
阪井 ひとみ・永松千恵 の記事を見る
上野 千鶴子 の記事を見る
鷲見 学の記事を見る
藤原(旧姓:川上)智貴の記事を見る
正高信男の記事を見る
大坂巌の記事を見る
上田 諭の記事を見る
宮村孝博の記事を見る
松本芳也・淳子夫妻の記事を見る
中山 遼の記事を見る
多田羅竜平の記事を見る
多田伸志の記事を見る
中川和子の記事を見る
小田 陽彦の記事を見る
岩垣博己・堀井城一朗・矢野 平の記事を見る
田中 共子の記事を見る
石田篤史の記事を見る
松山幸弘の記事を見る
舟橋 弘晃の記事を見る
浅野 直の記事を見る
鍵本忠尚の記事を見る
北中淳子の記事を見る
片山英樹の記事を見る
松岡克朗の記事を見る
青木康嘉の記事を見る
岩垣博己・長谷川利路・中島正勝の記事を見る
水野文一郎の記事を見る
石原 達也の記事を見る
野村泰介の記事を見る
神林 龍の記事を見る
橋本 健二の記事を見る
林 伸旨の記事を見る
渡辺嗣郎(わたなべ しろう)の記事を見る
横井 篤文の記事を見る
ドクターXの記事を見る
藤井裕也の記事を見る
桜井 なおみの記事を見る
菅波 茂の記事を見る
五島 朋幸の記事を見る
髙田 浩一の記事を見る
かえる ちからの記事を見る
慎 泰俊の記事を見る
三好 祐也の記事を見る
板野 聡の記事を見る
目黒 道生の記事を見る
足立 誠司の記事を見る
池井戸 高志の記事を見る
池田 出水の記事を見る
松岡 順治の記事を見る
田中 紀章の記事を見る
齋藤 信也の記事を見る
橋本 俊明の記事を見る