少子化のペースが加速している。2019年11月の日経新聞では、「厚生労働省が26日発表した人口動態統計(速報)によると、2019年1~9月に生まれた子共の数は67万3800人と前年同期に比べて5.6%減った。年間の出生数が5%を上回る減少となったのは直近では1989年。2019年は30年ぶりの大幅減となる可能性がある。政府は土曜日の共同保育の推進など少子化対策の拡充を急ぐが、人口減に歯止めをかけるのは簡単ではない」。
2019年は、年間の出生数が90万人を切る可能性がある。日本で出生数が多かったのは1946年~1949年であり、年間260万人を超えていた。この時期に比べると、現在の出生数は当時の三分の一程度となっている。今や日本の最大の問題は、人口減少と経済成長の停滞に伴う社会保障費をどうするか、なのである。
人口問題(人口の減少)は、日本だけでなく先進国共通の問題だ。わずか200年余り前に、マルサスは「人口論」の中で、幾何級数的に増加する(倍々に増加する)人口と、算術級数的に(一定の割合でつまり年間一定の%で)増加する食糧の差により(結局食料の増産よりも人口増が勝る)人口過剰による食料不足、すなわち貧困が発生すると述べている。これは必然であり、社会制度の改良では回避され得ないとする見方「マルサスの罠」を提唱した。しかし、現代では、マルサスの見解とは反対に、生産は伸びているが、人口は増加するのでなく次第に減っている。
昔は人口が減少する理由として、大規模な戦争や感染症(ペストなど)によるもののみであった。避妊の知識もなく、中絶は違法であったので、女性は10人以上の子共を出産する場合も多かった。「人口で語る世界史」を著したポール・モーランドによると、現代において人口が減少する一般的な理由は、女性の教育と向上心への現代的な姿勢と、婚姻以外の出産を嫌う昔ながらの価値観が同時に存在していたことによるという。生産が増えて暮らしが楽になると、余暇が生まれ教育が行き渡るようになる。それまで家事労働を担わされていた女性の教育も、一般的になる。教育を受けた女性は向上心を持ち、多くの知識を吸収して社会に進出する。その結果、生涯に生む子供の数は大幅に減少する。
同じくモーランドによると、19世紀に世界を支配したイングランドでは、19世紀前半には5人から6人の子共を生んでいたが(この人口増はイングランドの力となった)、100年後の20世紀前半には2.5人未満となった。これは、近代になり、生活の向上と医療が発達して乳児死亡率(出生から1歳を迎えるまでの死亡)が低下したあと、出生率も下がる一般的なパターンに従っている。ちなみに、先進国の乳児死亡率は19世紀には1000人あたり100人を超えていたが、20世紀半ばには1000人あたり30人、現在は1000人あたり3人程度となった。ついでながら現代の日本では乳児1000人あたりの死亡率はわすか1.9人となっている。この様な乳児死亡率の減少と共に、その後から生まれる子供の数も大幅に減少している。
合計特殊出生率は、女性の出産可能な年齢を15歳から49歳までと規定し、それぞれの出生率を出して足し合わせることで、人口構成の偏りを排除し、一人の女性が一生に産む子供の数の平均を求める。医療技術や栄養状態が良好な現代先進国において、自然増と自然減との境目は、合計特殊出生率でおよそ2.07とされている。もちろん、戦争や貧困など様々な原因で乳児死亡率が高い地域で人口を維持するためには、より高い合計特殊出生率が必要となる。主要国の合計特殊出生率の推移が下記グラフに示されているが、先進国の中でも、アメリカ、イギリス、フランス、スウェーデンなどは比較的高い(2.0に近い)が、日本、ドイツ、イタリアは1.5を切っている(ドイツはやや上昇している)。
内閣府資料
この様に、乳児死亡率が低下し、その後に出生率が下がるパターンは、20世紀初期の先進諸国に限らず、その後の発展途上国にも出現する一般的なパターンである。そこで、人口減に悩む諸国にとっての解決策はどのようなものだろうか?
多くの場合、育児を公的に支援する政策が一般的だ。保育所を多く作り、保育料金を公費で賄い、育児休業を男女にかかわらず拡充することが普通の政策である。女性の社会進出によって出生率が低下するのは、発展途上国から先進国に至る過程には見られるが、一旦出生率が低下したのちには、女性の就業率と子供の数にはあまり関連性がなくなる。しかし、この様な政策を行ってもなお、合計特殊出生率が人口を維持する2.07に達することは難しい。
先進諸国において人口を維持するための方法は極めて少ないが、有力なものが2つある。1つは移民の導入を大幅に増やすこと、2つ目は婚外子の割合を上げることだ。この2つの政策は簡単に出来るものではない。社会の慣習や考え方の変更を伴う必要がある。日本は、この2つの政策にはかなり遠い位置にいる。出生率を高める政策が出来るかどうか疑問である。
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