新卒一括採用の崩壊

自動車業界では自動運転など「次世代技術」に対応するため、中途採用を拡大する動きが広がっているようだ。
日本経済新聞によると、トヨタ自動車は2019年度に総合職の採用に占める中途採用の割合を'18年度の1割から3割に引き上げ、中長期的に「5割」とする。ホンダの'19年度は採用全体の「約4割」に当たる約660人を中途採用に充てる。IT(情報技術)などの専門人材を中心に確保し、給与も実績に応じて評価する。日本の製造業の代表である自動車業界で中途採用が増え、日本型雇用は転機を迎えている。

日経新聞より

戦後から1990年代までの大量生産時代には、新しいイノベーションが業績を左右するのではなく、どのように効率的に生産するか、それによって価格を引き下げ、性能をどの程度上げていくかが企業戦略のポイントになっていた。新卒で採用された後には、基本的な考え方を一致させ、どのような「方法」で会社を運営するかが優劣を決めるポイントになっていたのである。その為に、価値観や哲学などはどうでも良いものとして扱われた。むしろ、価値観や哲学が異なっていると、大量生産時代には業績の妨げとなったのである。多様性は嫌われ、画一性が尊重されたのだ。その為には、新卒一括採用は誠に都合の良い方法だった。社会に出た若者に対して、多様な考えを持つ前に画一性を叩き込めば、会社の有用な社員となったのである。会社に入って「自由」に考えて行動することは、一部を除くと難しかった。

その代表が自動車産業である。

しかし、自動車産業も今や他のIT産業との競争にさらされている。イノベーションが大切であると言われても、新卒一括採用を基礎とする日本の会社でのイノベーションは初めから困難である。自動車産業をはじめとする中途採用の増加は、このような日本の状態を表している。

ジョブ型雇用に代表されるように、有能な人材を「市場」で調達できる環境が次第に整ってくれば、無理に新卒を雇用しなくても良くなるのである。その結果、集団の中に「多様性」が生まれる。「多様性」こそが、イノベーションの卵となるのである。ただし、その結果が、必ずしも社会にとって良いものとなるとは言えない。現在のような、若者の就職率がほぼ100%であるような時代は終わりを迎え、若者であっても能力がない場合は、就職に困難を来たす時代が訪れるだろう。一定の仕事をこなしていれば、地位に留まることが出来るであろうけど、少なくても会社に留まることは出来なくなるだろう。現在中途採用が採用計画全体に占める率は日本企業の場合28%程度であるが、トヨタのような企業が増加すると、この比率は次第に高くなり、50%近くに達する可能性がある。

日本独特の新卒一括採用が不必要となると、年功給制度も崩壊するだろう。その結果として「定年制度」は意味を成さなくなるかもしれない。なぜなら、能力によって給与が決まる世界になると、会社に長年勤めること自体に意味がなくなり、現在のように転職すると給与低下を招くのではなく、反対に転職によって給与は上がる可能性が高くなるのだ。また、連続した同じ場所での勤務継続でなければ、転職する際に半年間の休暇を取り、有意義に使う余地も生まれてくる。男性の育休の取得も促進されるだろう。
新卒一括採用が縮小されて中途採用が増加すれば、良くも悪くも、日本の社会に大きなインパクトを与える可能性が出てくるのだ。

 

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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