今や認知症は、年齢を重ねることの恐怖として人々に認識されている。つまり、高齢=認知症の図式が定着しつつあるようだ。
エイジズムを引き起こす最大の原因となっているかもしれない。高齢になると多くの人が認知症になり、何も出来なくなるとの認識が強まり、その結果、認知症に対する対処の方法が議論される。しかし、一部の例外を除き、認知症で生ずる認知障害は老化の一形態であり、皮膚にたるみが生じて筋力が低下することと同じ現象なのである、と考えるとどうなるだろう。
厚労省は認知症に対するキャンペーンの一環として、認知症の将来予測をしている。2017年の将来予測では、2012年には高齢者に対する認知症の割合は15.0%であったのに対し、2050年には21.8%(下位予測)から27.8%(上位予測)に達するという。そして、注意すべきは、認知症の割合あるいは数は、発表ごとに次第に増加しているのだ。
上述した2017年の予測では、2020年の高齢者に対する認知症有病率が17.2%で、認知症数が602万人(下位予測)に対して、下記に示す1994年の予測では、同じく2020年の認知症割合は8.9%、認知症数は大幅に少ない292万人である。わずか20年あまり離れた予測で、大幅に認知症割合と認知症数は上昇しているのだ。その間、環境変化や感染症等が無いにもかかわらずの結果である。
近年の海外においては、認知症の数あるいは割合の低下が報告されている。今年1月には米国ミシガン大学のグループが、認知症の有病率が2000年の11.6%から2012年には8.6%と有意に低下した(P<0.001)ことを報告した。米国で行われたFramingham Heart Studyでは、1977年から2008年の30年間で認知症の有病率が、10年当たり約20%低下したのである。
こうした報告は米国以外からも寄せられている。英国では、3つの地域の認知症有病率から、英国人口全体の認知症の有病率と認知症者数を推計している。2011年時点で英国全体の年齢性特異的認知症有病率(65歳以上)が、どの程度の水準になるかを推計したものと、2008~2011年の当該地域の実際の認知症有病率を比較し、実際の有病率は6.5%(67万人)となり、推計された8.3%(88万4000人)よりも認知症者数が減ったことが示された。その他、オランダ、ドイツ、スウェーデン、米国での調査でも認知症発症率の減少が報告されている(日経メディカル)。
この様な現象は、近年大手製薬企業が、認知症治療薬の開発を近年断念したことと関係するのかもしれない。認知症が将来大幅に増加することを前提として、治療薬の開発に多額の資金を投じて行われたが、結局、当面は治療薬の開発は中止された。この事と、認知症の将来像が変更されることとは関連の可能性がある。つまり、認知症は「薬で治す」類の病気ではないかもしれないのだ。
物忘れ(認知症の中核症状)と高齢とは確かに比例する。しかし、物忘れがあるからと言って、それを病的な状態と決めつける必要はない。もともと、老化は、皮膚のたるみや、感染しやすさ、呼吸機能の低下、関節の機能低下などを引き起こすことは間違いない。ところが、これらは、皮膚炎、呼吸器感染症、肺気腫、関節炎などの疾患とは異なるのだ。
高齢になって記憶力が低下することと、認知症という病気になることは、違う事象であると理解すべきである。その為に、認知症という疾患の数は、それを定義する人によってその都度異なる可能性がある。認知症は記憶力が低下する高齢特有の変化に、高齢者が生活している環境から影響されたり(周囲の人からの非難や無視など)、社会参加が減った為の廃用性症候群などが加わったものである、と判定される日もそう遠くはあるまい。一部の若年性あるいは急速に進行する「病的」な疾患を除き、認知症の疾患としての認識をそろそろ変えるべきであろう。
そのことがエイジズムを引き起こすことを、多少なりとも少なくすることにつながる。
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