進行がん患者の生存期間を5ヶ月延長した治療とは

進行がん患者の生存期間を5ヶ月延長する画期的な治療法が発表されました。 その正体とは?

最も権威があるとされているがん関連の学会の一つが、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)です。本年も6月の初めにシカゴで開催されました。その中で注目を集めた発表があります。ある方法でがん患者の全生存期間を5ヶ月延長することができたという報告です。

Ethan Basch et al, JAMA Published online June 4, 2017. doi:10.1001/jama.2017.7156

 

何のためにがん治療をするのかというと、長く生きる(生存する)ためということに尽きます。全生存期間(OS)の延長は、がんの治療をする上で最も重要な目的です。あまり知られていませんが、抗がん剤の有効性を確かめる試験で、全生存期間を延長することができたお薬は数えるほどしかありません。また延長できたとしても2ヶ月程度にとどまっています。ほとんどの抗がん剤は、PFS(無増悪生存期間)の延長をもって認可されています。簡単に言えば、がんが悪くなるまでの時間が今までより長ければ、全生存期間を伸ばすという証拠がなくても認可されていました。
今回の報告は、がん治療の最大の目的である全生存期間を5ヶ月延長したというものです。今までの薬と比較すると、全生存期間を5ヶ月延長することができたのですから、直ちに承認されその値段も数千万円の価値があると言えるくらいインパクトのある結果でした。

 

その方法とは?

それは、患者さんが自分の症状を、1日24時間、いつでもすぐに医療者にインターネットで報告できるタブレットを使うという方法だったのです。

ニューヨークのメモリアルスローンケタリングのチームは、転移のある患者さんを2つの群に分けました。インターネットで症状を相談できる群(441人)と通常のがん治療をおこなった群(325人)に分けて生存期間を調べました。
患者さんは乳がん19%、肺がん26%、泌尿器がん32%、婦人科がん23%でした。

驚いた事にインターネット相談を行った群では、生存期間中央値が31.2ヶ月と、通常の治療群(26.0ヶ月)と比べて5ヶ月も長く生存した事が、明らかになったのです。(P<0.03)

 

インターネットで症状を報告するだけで、5ヶ月長生きできた

インターネット群は、抗がん剤投与の期間が8.3ヶ月と通常群の6.3ヶ月に比べて長くなっていました。これは抗がん剤による副作用が良好にコントロールできたからではないかと、考えられています。
さらに、6ヶ月の時点でインターネット群では身体機能を含む生活の質(QOL)を高く保つことができたことを報告しています。

 

「我慢しない」

がんの患者さんは症状を伝えずそれをじっと我慢して、がんと闘うのが患者の使命であり、そうすることが生存期間を永くする事につながると考えがちです。ある研究によるとがんの患者さんの痛みがコントロールできない原因の3分の2は、患者さんが医療者に痛みを伝えず我慢することにあると言われています。しかしながら、体に不快な症状はQOLを低下させるだけでなく、生存にも悪い影響を与えるという事が、次第に明らかになってきています。

がんの治療を行う際には痛み、吐き気、発熱、下痢、全身倦怠などの様々な症状がみられます。これらの症状を適切に治療するのが緩和医療です。緩和医療は診断の時から提供される医療で、つらい症状をコントロールすることによりQOLを改善し生存も延長する可能性があるのです。がんの治療を行うことと症状のコントロールを同時に行うことが大切なのです。

インターネットでいつでも医療者に相談できれば、症状が悪化する前にすぐに処置ができます。今回も相談の77%がすぐに適切に処理されています。早めの処置は症状の悪化を防ぐ事ができ、良い状態で治療する事ができたと考えられます。さらには効果のない治療を体に害を及ぼす前に中止する事につながったと考えられます。

 

「伝える」

インターネットがなくても同じ効果が得られるのではないでしょうか。
我慢しないこと、症状を伝えること、無理な治療はしないこと、体の調子を整えること。
大切なことは体の調子をよく保つために医療者と良いコミュニケーションを保つことです。

私たちは毎日を穏やかに過ごすために治療をしているのですから。

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科教授松岡 順治
岡山大学大学院医学研究科卒業 米国留学を経て消化器外科、乳腺内分泌外科を専攻。2009年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、緩和医療学講座教授、第17回日本緩和医療学会学術大会長。現在岡山大学病院緩和支持医療科診療科長、岡山大学大学院保健学研究科教授 緩和医療、高齢者医療、介護、がん治療の分野で研究、臨床、教育を行っている。緩和医療を岡山県に広める野の花プロジェクトを主宰している。
岡山大学大学院医学研究科卒業 米国留学を経て消化器外科、乳腺内分泌外科を専攻。2009年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、緩和医療学講座教授、第17回日本緩和医療学会学術大会長。現在岡山大学病院緩和支持医療科診療科長、岡山大学大学院保健学研究科教授 緩和医療、高齢者医療、介護、がん治療の分野で研究、臨床、教育を行っている。緩和医療を岡山県に広める野の花プロジェクトを主宰している。
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