アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが示した欲求階層は下図のピラミッド型のようである。
下から順に、生理的欲求(食欲、睡眠欲、性欲など)、安全欲求(危険な人物や物を避けたい)、所属欲求(孤立しないようにしたい)、承認欲求(他者から認めてもらいたい)と続く。
これらは欠乏欲求と言われ、欠乏欲求を満たすと自己実現の欲求が生まれるという。ただし、下位の欲求が満足されないと上位の欲求が出てこないわけではない。欠乏欲求を満足して、初めて自己実現が出来るとは誰も思っていない。欠乏に対しての欲求は常に存在し、その状態で多くの人は自己実現を試みる。また、欠乏欲求も当然ながら、下位の欲求が満足されて上位に移行するのでもない。生理的欲求と承認欲求とは並立するし、多くの人にとって飢えを満たすことと、安全とは並立している。そして、欠乏欲求は哺乳類の多くの種で見つけることが出来る。
人間は、グループに所属することによって、生理的欲求、安全欲求、承認欲求を満たすことが出来た。数万年前の狩猟採集社会(バンド社会)から、農業生産社会や産業革命を経ても、人間は何らかのグループに所属することによって、欠乏欲求を満たすことが出来たのだ。少人数単位の狩猟採集社会(バンド社会)であれば、集団に所属するだけで、欲求は満たされた(所属欲求、生理的欲求、安全欲求など)。
しかし、農耕が発達し、集団が大きくなると、その集団自体では所属欲求は満たされなくなり(所属欲求を満たすには、集団構成員が一定以下の人数でなければならない)、特定の宗教集団、もしくは地域集団に加わることによってアイデンティティを満たすようになった。ところが近世になり、技術革新と民主主義によって、もはや、生理的欲求や安全欲求を満たすために、必ずしもグループに所属する必要が無くなったのである。にもかかわらず、所属に対する欲求や承認欲求は、それ自体が心理的に独立した欲求として認識されるようになった。
民族や地域によって、所属する余地がある場合と、既にその余地自体がなくなっている場合がある。例えば、日本において、家族、地域、会社などの所属先の内で、近代になり社会が変化するに従って、地域への所属感が乏しくなると、それに代わって会社が所属感を満たすための機能を果たすようになった。高度経済成長が終わると同時に、会社は所属先とは見なされなくなった。地域もすでに多くのコミュニティは解体している。しかし、日本では現在でも家族を含め所属できる団体は、完全にはその機能を失っていない。
先進諸国では、コミュニティの最小単位である家族さえも次第に所属先とは見なされなくなっている。日本では、会社と地域が所属先として不安定となったが、家族は引き続き個人の所属先になっているようだ。その結果「引きこもり」があり、それは、家族内に逃げ込むことが出来る余地があるということだ。コミュニティの最小単位である家族の位置づけは日本においてあいまいさを残しているし、それなりに機能もなしている。所属先としての家族は今でも有効に作用していると考えられる。だが日本でも家族機能は次第に低下する宿命にある。家族に引きこもることが出来る期間も、やがて限られるだろう。
所属欲求を完全に断ち切ることが出来るかどうかは疑問であり、無くすること自体が無理かもしれない。所属欲求は同時に承認欲求をも満たすことが出来る。所属先が無くなり、人間が孤立してくると、それなりに自立心は高くなるが、自立できない人たちの逃げ込む先が無くなるという現象も生まれる。西欧諸国において引きこもりがあまり問題にならないのは、家族に自立できない人を取り込む能力が失われた結果であるとも言えるのだ。アトム化した社会においては、国家によって生理的欲求や安全欲求は満たされるだろうが、欠乏欲求の内、所属欲求や承認欲求を満たすことが問題となるだろう。個別に存在しなければならなくなった社会で、個人が欠乏欲求を満たす方法は、今までとは異なる様相を示しているようだ。
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