小中学生だけで、全国に約14万人(2018年文部科学省調査)もいると言われる不登校の児童・生徒。全体の児童・生徒数の約1.5%(同)にも相当しますが、これは、あくまでも統計の定義に合致した数で、“隠れ不登校”と呼ばれる子どもは、その3倍存在するとも……。また、高校生を加えると、この数字はさらに増えることになります。一方、昨今の様々な事件報道の中で、“8050問題”など、大人の引きこもりの問題もクローズアップされていますが、その予備軍とも言えるのが、やはり不登校の子どもたちです。今回は、自らも不登校の経験があり、現在は、そんな子どもたちの“居場所”づくりに邁進されている特定非営利活動法人あかねの代表理事、中山遼さんに、社会の歪の中で揺れ動く不登校の子どもたちの現状と支援策への提言をお聞きしました。
今、不登校の子どもは、確実に増えています。昨年の調査で、全国で14万人もの不登校児童生徒がいるとされていますが、これは、小中学校だけの数字。さらに、「不登校」の定義にからくりがあって、学校に在籍しながら、年間30日以上欠席した場合に長期欠席となるわけですが、その理由が、病気、経済的理由、不登校、その他という4つに分類されます。ここで言う「その他」は、他の理由の複合状態を指すことになるので、実際には、ここにも不登校の児童生徒が含まれるわけです。不登校と分類される数だけを見ても数は年々増えてきています。岡山県ではおよそ1500人、岡山市で約750人といったところで、その昔、中学校でも、学校に一人〜二人だったものが、今では各クラスに一人といった印象です。
不登校というのは、発熱のようなもので、そのものが"病気"なのではなく、何かから自らを防衛するための"症状”のようなものです。近年の増加の背景には様々な要因があります。発達障害の増加、いじめの陰湿化、核家族化の進展、ネット社会の浸透、貧困など…いずれかの要因が急増している訳ではなく、原因そのものが多様化しています。言い換えれば様々な社会の歪みや課題が子ども達に投影され、それに対する防衛反応が不登校とすら言えるかもしれません。ある調査で大人の引きこもりの人にアンケートすると、その3〜4割が、学生時代に不登校を経験しています。それが、あまりにも不幸な“8050問題”を引き起こしかねないわけです。
最近になって、この“8050問題”が取り上げられるようになってきましたが、これは、ずっと以前から分かりきっていたことです。小中学校の不登校なら、教育委員会が把握しています。ところが高校になると、在籍していれば、その高校で把握しているでしょうが、中退したり、あるいはそもそも進学しなかった子の場合、どこにも“籍”が無くなるのです。これを、社会的行方不明者と呼んでいますが、不登校の子どもたちが高校を中退する確率は、ものすごく高いし、通信制に至っては、もっと酷い。そんな中、どこにも“籍”が無いまま大人になっていって、気づいたら中年に……ということです。
そんな不幸を防ぐためには、やはり支援の手が必要になるわけですが、現在、行政が打ち出している施策には、3段階の支援が規定されています。即ち、一次支援が未然防止。学校へ行きたくないと思わないような、楽しい学校にしていこうということです。そして、二次支援が早期対応。週に3日休んだら、家庭訪問するといった対応になりますが、ここまでは、行政側、学校側で重点的に予算がついています。ところが、三次支援。これは不登校になってしまった子に対する支援になるのですが、ここは行政と民間とが連携して対処すべきでしょう。なぜなら、行政側では、子どもたちの後追いがしにくいということです。。民間だけだと、やはり費用を利用者に負担してもらわなければならず、家計にゆとりのある家庭しか利用できないといったことにもなるわけです。
もう一つ、疑問を感じるのが、公教育としての不登校支援のあり方。今、公立の高校では、不登校の生徒を受け入れる枠が、どんどん無くなっているという現状があるのです。これは推測ですが、不登校の子は、やはり中途退学する確率が高い。そうすると卒業率が下がるので、公立高校としてはよろしくないということではないでしょうか。その代わり、私立の通信制高校は、ものすごい勢いで増えています。ただ、いかんせん、とても高額な学費が必要になるわけです。
不登校を脱して後の受け皿として、北欧では、それぞれのエリアの中で、様々な特徴をもった民間の学校が選択肢となります。ところが、日本では、公立の小中高と進んで大学という流れが基本。もっと自由で、いろいろな選択肢から選べるようになればいいのですが、大阪など一部の地域を除けば、適応指導教室の民間委託でさえ、なかなかハードルが高いのが現状です。
私自身が、かつて不登校を経験し、そこでようやく居場所を見つけられたのが、ここ、あかねでした。その後、ボランティアで手伝うようになり、気がつけば、創立者である先代から代表を引き継ぐことになっていたのです。ここでは、今でも肩書をつけることなく、お互いをファーストネームで呼び合います。私も、子どもたちから「遼くん」と呼ばれていますが、そのような温かな人間関係の中で、私自身も心がほぐれていったわけです。
そんな根本のコンセプトを継承しつつ、私なりに進めてきたのは、まず学習支援。そして、アウトリーチ、つまり家庭訪問など出掛けていく支援です。そこでは、関係づくりから始めるわけですが、親御さんがクライアントなのではなく、その本人こそが、私たちのクライアントなんだよという関係性を構築できるかどうかが、成否の分かれ目になります。彼らの得意なことから導き出した目標を設定し、逆観分析の手法で、そこへ至るには、学校へ行くことがどれだけ有益でコスパのいいことかを気づいてもらう。そんな取り組みをしています。
こうして、私たちは彼らに居場所を提供するわけですが、単に空間を用意するだけでは、誰の居場所にもなりません。本当の居場所は、人と人との繋がりの中にしか用意できないと考えています。
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