1970年代からの生産現場での機械化は、専ら、人間の手足の代わりを機械が代替したものだった。例えば、自動車工場の生産ロボットはその代表格だ。作業の機械化は、製造現場では比較的容易に実現する。行動が一定の手順に沿って行われるからだ。その結果、日本の製造業における就業者数はこの20年間で次第に低下し(2050万人→1566万人)、サービス業を含む第三次産業の就業者が増加した(4121万人→4870万人)。サービス業を含む第三次産業では作業を機械化することが難しく(製造業に比べ動作が複雑であるうえに、コミュニケーションが必要)人間が必要だったからである。
資本主義社会の大原則である生産性の向上のためには、製造業の機械化はこれ以上進化できないわけではないが、今までより進化の速度は低下し(その為に経済成長率も低下している)、サービス業を含む第三次産業のIT化が必要となっている。
第三次産業とは、金融業、小売流通業、運輸業、飲食、宿泊業、介護、看護、保育、家事サービス、理容美容、そして教育などである。先進国では、日本を始めとして、少子化が進んでいるために、今までのようなサービス業を含む第三次産業に対しての労働者の獲得が難しくなっている。しかし、この状態はIT化を進めるための環境として適していると言える。では、サービス業を含む第三次産業のIT化はどのようにすればよいのか、それは、今までの製造業的なIT化の考え方からの脱却が必要となるのである。
今やGDPの多くの部分(約70%)を占めるサービス業を含む第三次産業は、二つの分野に識別できる。一つは、物の交換が主たる目的で、それに人が部分的に関わるものである。例えば、金融業、小売流通業、運輸業、旅行、飲食宿泊業などだ。物の交換を目的とする第三次産業に対するIT化の方向は、その業務から人的要素を排除することだ。それにはサービスの形態を変化させる必要もあるが、多くは製造業のIT化の延長線上で処理することが出来る。それは金融の窓口業務の無人化は容易だろうし、さらには投資、融資業務の自動化も可能である。小売りの省人力化は、現在進行中である。飲食業では、カフェテリア方式の低価格店と、テーブルで注文を受ける高価格店の区別も行われるだろう。運送業も宅配方式の変更が必要であり、さらに10年以内には自動運転が普及するだろう。これらはすべて、従来の製造業が自動化された延長線上に位置する。
二つ目は、介護、看護、保育、家事サービス、理容美容、教育など人的サービスを主体とする第三次産業である。この様なサービス業は、生活行動自体の補助である。生活に必要な物以外のものを補完するのである。自給自足の時代であれば、すべての事は自分で行っていたが、近年進行した生活業務の分業化が、サービス業を発達させたのだ。その点、サービス業は人間の思考と感性がIT化の選択を行う。
人間の思考と感性を支配しているのは、理性ではない。動物としての人間の情動だ。そして、人間は記憶能力を発達させた結果、情動に記憶を加えた感情を豊かに持っている。感情は、人間の生活活動に大きな影響を及ぼす。例えば、食事を取りたい場合(空腹に伴う情動だ)それだけでは行動に至らず、何を食べるかは、記憶に伴い蓄積された感情がその行動を左右する。レストランで食事を取る場合も、空腹という情動と同時に、記憶を伴った感情が行く先を決定する。どの様に行動するかは理性に基づいた自由意志でなく、感情が左右するのだ。行動は人間の「自由意志」によって決定されているようだが、人間の行動の決定要素はあくまでも情動が基になる感情なので、それは、アルゴリズム(順次進行するプログラム過程)によって決定されるものであると言っても良い。
この様な情動に基づく感情を体系化し、ITで代替することは出来ないわけではない。しかし、その結果として、自由意志が阻害される可能性がある。何事もITで決められたように行動する世界が訪れた場合、例えば、朝食は、健康と朝食に費やす時間と費用と過去の嗜好を考えると、1か月の献立はこのようになっているとITが判断した結果、人間はその判断に従うようになるかもしれない。
情動に基づく感情を考えて合理的に判断された生活に、人間の自由意志が入り込む余地があるのだろうか? 製造業と異なり、サービス業のIT化には、この様な問題が生じるだろう。さらに、技術的な問題としては、動作を伴う行動についてのIT化は甚だ困難だ。
例えば、理容整髪を機械が行うようになるのはいつの事だろう。あるいは、起立できない高齢者に対して、手を差し伸べて援助することが出来る機械はいつできるのだろう。出来ないわけではないが、その動作を実現することは、自動運転や工場の機械動作よりはるかに難しいことは容易に理解出来る。さらには、その様な複雑な機械を採用するに当たって、現在の理容師や介護士の給与が障害となるだろう。割安な給与であれば、高価な機械で代替する必要はない。しかし、現在のような人手不足が続くと、サービス業の労働に対する対価が上昇して、現在は低賃金の分野の賃金が上がるだろう。結果的に、サービスの対価を支払うことが出来ない場合は、自分で行う人が増えるだろう。その延長線上で、ITの導入が可能となるかもしれない。
結論としては以下のようになる。
サービス業を含む第三次産業は、2つの分野に識別され、一つは、物の交換を目的として、それに人が部分的に関わるものであり、金融業、小売流通業、運輸業、旅行、飲食宿泊業などではIT化は進むだろう。そして、IT化の進歩の度合いが、日本の将来を決定するだろう。
その反対に、人的サービスを主体とする第三次産業である介護、看護、保育、家事サービス、理容美容、教育などでは、業務自体のIT化は不可能あるいは困難であり、人間が関わることが続くだろう。そして、人手不足が続けば、これらのサービスでは賃金が上がる結果、価格が上昇してサービスを受けないで自分で行う人が増えることになるかもしれない。
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