高齢者の看取りが心配である。後期高齢者は2025年には約2200万人までに増加し、30年から40年にかけては「多死時代」に突入する。2040年には2010年と比較して46万人もの死者数が増えるとされている。病院で死ぬということを前提にすれば、看取り難民を生むのではないかと不安が広がっている。というのは2015年の政府の方針によると、病床数は増やすどころか、現在よりも16万~20万床減らす計画だから深刻である。しかも、その多くは、高齢者が大幅に占める介護療養病床らしいのだ。
人はどこで死ぬか。改めて諸外国を見ると、アメリカやオランダでは、病院、自宅、施設それぞれが30%ずつである。日本では病院が81%と大半を占めている。今後看取りの場を確保するならば、自宅、施設を対象とした在宅医療にその可能性がある。現に介護老人保健施設、老人ホームなど施設での看取りは、2005年にはわずか2.8%であったが、2016年には9.2%にまで大きく伸びてきている。
施設での看取り数が増えている要因として、近年の老人ホームの定員数の増加と在宅医療との協力体制が整ってきたことが挙げられるであろう。在宅療養支援診療所の届出数を見ると、2014年時点で1.4万件、全診療所件数の約14%を占めている。ただ、その増加はこのところ横ばいだが、在宅支援診療所ではない普通の診療所によっても看取りは行われているので、これらの診療所を含めて在宅医療を拡充することが急務である。そこで期待されるのが次に述べる「主治医」制度である。
2014年4月にスタートしたこの制度とは、複数の慢性疾患を有する患者を再診する際に「地域包括診療料」か「地域包括診療加算」を算定した医師を、継続的かつ全人的な医療を行う主治医とみなすものである。海外では、「家庭医」という資格を有する医師が地域医療を担っている。けれども日本の主治医制度は、そのような医師の資格を前提にしたものではなく、担当医は、慢性疾患の指導に係る適切な研修を修了した医師とした上で、一定の施設基準を満たした診療報酬上の評価である
診療所がこれらを届け出るための施設基準は、慢性疾患の指導、健康相談実施、薬局との連携、時間外対応、常勤医師3名以上の配置、在宅療養支援診療所の申請―などと厳しく設定された。しかし、地域包括診療料(加算)の届出割合は全診療所の7.4%にとどまっている。その理由として、「在宅患者に対する24時間対応」の負担が挙げられており、2017年中医協では、かかりつけ医の夜間・時間外の負担軽減に資する、地域の医療機関の連携による救急応需体制、複数の診療科の医師が協働して行うことなど、グループ診療や後方支援体制が提案されている。さらに、2018年度の改定では、常勤医師3名以上を2名以上になど、一部の条件が緩和されると共に、外来診療を提供しながら患者の状態に応じて訪問診療に移行した患者の割合で診療報酬を評価することにより、在宅医療のすそ野を広げる施策を講じている。この制度の今後の発展のため、次の3点について注力が望まれる。
① 主治医の能力の向上と互いの補完
主治医が慢性疾患の指導に係る適切な研修を修めた後、診療に当たるということだが、この制度では欧米の家庭医と違って、資格としての総合的な診療能力は問われてはいない。したがってこの弱点を補完するために次に述べる医療情報ネットワーク、複数医師・機関の協力体制が必要となるであろう。
② 医療情報ネットワーク
プライマリ・ケアに必要な患者の医療情報は、「地域」という空間、「高齢化」という時間からなっており、これらの医療情報を患者中心に一元管理する情報システムを、地域単位に構築すること。全国各地に構築されつつあるが、医療情報連携ネットワークその萌芽と考えられる。
③ 地域の協力体制
在宅、ホームでの看取りのためには24時間対応が可能なことが必要である。それには、複数の診療所間をつなぐ医師チームの活動が必要であり、専門医が複数で協力することで総合的な対応が可能になるものと考える。地域医師会のリーダーシップを期待したい。
介護療養病床については廃止が予定されているが、病床数削減が介護難民を作ってはならない。その解決方法として現にこれらの病床を利用している方々を介護サービスの中で受け入れるための新たな施設が、介護医療院である。
現行の介護療養病床は約1年半の平均在院日数となり、その約4割が死亡退院である。そのことからも分かるように、特養や老健よりも、医療必要度や要介護度が高く、また、平均年齢が80歳を超えている。介護医療院は、これらの要介護者に対し、「長期療養のための医療」と「日常生活上の介護」を一体的に提供するもので、「日常的な医学管理が必要な重介護者の受入れ」や「看取り・終末期ケア」等の機能と、「生活施設」としての機能を兼ね備えた新たな介護保険施設を目指す。それらの今後を期待したいところだが、従来の病棟を改造して生活環境を整えたという形だけのものになるのを危惧している。改めて高齢者の看取りを病院ではなく、介護の場で行う意義を確認しなければならない。そのためには・・・・
日本では今、在宅医療・介護の努力により、施設を含む生活の場における死亡が増え、その反映として「老衰」という死亡診断が急速に増えてきている。2017年の全死亡者に占める「老衰」の割合は7.6%、死因の第4位をしめ、まだまだ増える勢いにある。これは生活の場である在宅、居宅、施設で年余をかけて介護し続けた結果として、ケアスタッフはその人の死を自然なこととして捉えられるようになり、さらには、そのような態度で看取りケアを行うスタッフに対する本人・家族の安心と信頼の表れと考える。がん、非がん疾患を問わず、高齢者のための多職種協働による医療介護を期待したい。
先日、「岡山のうた ~詩人のこころを求めて~」と題したコンサートが開かれ、矢内直行氏作曲、松井順子・田中 誠氏の二重唱が演奏された。岡山ゆかりの詩人で、60年間を玉島で過ごされ、良寛さんの再来と慕われた牧師 河野 進先生の詩集「母よ 幸せにしてあげる」の中に、私の願う看取りの場におけるケアのまなざしを認め、心を打たれた。
その詩 「葉」 の一節・・・
秋 しずかな陽ざしに
すきとおった紅葉は風もないのに散り続けた
樹はやさしく見送っていた
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