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老衰死多いほど医療費低く、老衰死増えても介護費増えず

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2017年12月、日本経済新聞社は後期高齢者1人当たりの年間医療費と、老衰死比率のデータ(厚労省2008~2012年)の分析結果を発表した。それによると、老衰と診断されて亡くなった人が多い自治体ほど高齢者の1人当たり医療費が低くなる傾向があり、老衰死が多くても介護費に増加傾向はなかったとのことである。

老衰死と医療費 
記事の関心は、老衰死が多いほど医療費が低くなったことにある。人口20万人以上の市区で、男性で老衰死が最も高かった神奈川県茅ケ崎市では、がんと脳梗塞が平均より1割、心筋梗塞が3~4割低く、老衰死の割合を押し上げていた。75歳以上の1人当たり医療費は4年間平均で国全体の平均より14万円低く、もし国全体なら、2兆3千億円の医療費が減ることになる。国全体の医療費は30年前に比べ1人当たり2.5倍に増えており、増加分の半分は高齢化の影響なのだから、健康長寿で老衰死が増えれば医療費の抑制が望めると結んでいる。さて、この記事で私が気なったのは、老衰死が増えても介護費が増える傾向は無かったという件である。

老衰死とは
ここで老衰について説明しよう。老衰とは全身の機能が老化によって衰弱した状態だが、一般には、十分に生きた末、自然に死を迎えるという肯定的な響きがある。これに対し、死因としての「老衰」は、厚労省のマニュアルによると「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合」と定義されている。以下、老衰死を「老衰」と記す。

 

この「老衰」は1970年代までは死因の第5位を占めていた。その後、病院医療の普及と共に順位を下げていたが人口の高齢化とともに増加に転じ、2009年になって再び5位を占めるに至っている。死因のトップは悪性新生物(がん)だが、高齢になると次第にがんの比率が低下し、心疾患や肺炎が多くなる。80歳代に入ると「老衰」が増加し始め、90歳代前半11.0%、後半18.7%と上昇する。死因としての「老衰」の増加は健康長寿によるものと素直にうなずきたいが果たしてそうだろうか。

「老衰」と在宅死
「老衰」の増加は高齢者の終末期を過ごす場所、さらには死亡の場所の変化と関連がありそうである。戦後1950年ごろまで80%を占めていたのは自宅死であったが、その後は病院での死亡が増え、2000年過ぎには病院死が80%台に達した。しかし、その後は、介護老人保健施設、老人ホームなど施設での看取りが増加し、2005年にはわずか2.8%であった。それが2016年には9.2%にまで大きく伸びている。これには在宅での看取りに対し2006年度から設定された「看取り加算」の影響があるものと思われる。全国で最も病院死亡の比率の低い鳥取県(2016年)では、死亡の場所に占める「介護老人保健施設や老人ホームの割合は15.3%と、年々増加しており、全国平均の9.3%に比べ6.0ポイント高い割合である。それによると、老衰死に占める病院死の割合は32.3%であるのに対し、在宅死の割合は59.3%であり、「老衰」の増加と終末期の場所との関連性を裏付けている。

限りある時を御大事に

このように2000年代に入って、より病院以外の場所つまり在宅での死亡が徐々に増加しており、在宅であれば実施できる医療に限りがあるので、在宅死の増加と医療費の低減は密接に関連することになる。という訳で、冒頭の記事、「老衰死が多いほど医療費が低くなる」ことが説明できよう。ただ、それは結果的にそうなったというだけであって、医療費を下げるために在宅が選ばれるのではないし、在宅ゆえにその人にとって必要な医療が必ずしもできないというのでもない。限りある時を大事に過ごすために病院での医療を選ばず、在宅を選び、その結果としての在宅での死亡である。容態が急変するとすぐ救急車を呼び、病院へ送るのではなく、あらかじめ入居時に本人や家族と看取り時の対応をきちんと話し合っておき、回復の見込みがないと医師が判断した場合には看取り介護の体制、容態の変化に応じた介護の内容など説明し、入居者の家族から看取り同意書をもらう。こうして本人・家族からも、「とりあえず病院」という気持ちから「最後までここで」と、在宅、ことに施設での終末期介護が評価されてきているのである。

看取り加算  安すぎる、短すぎる
さて、施設での死亡が増えた結果、病院医療費が減少したのであれば、その分、介護費はそれなりに増えるものと考えられる。しかし、記事では老衰死が増えても介護費は増えなかったというのだから、これは意外である。というのは、2006年度の介護報酬改定において、看取り加算が設けられているのである。改めてその加算の額を見ると、施設における看取り加算は、増額された現在でも1か月6万5千円~7万6千円である。これに対し、病院での終末期1か月の医療費は112万円(2007年に財務省がまとめた資料)で、死亡月は生存月の2倍以上、増加分は54万円となり、これに比べると施設での看取り加算は極めて小さいと言えよう。

 

また、加算の期間も問題であろう。全国老人福祉施設協議会の看取り介護指針・説明支援ツールでは、看取り期とは、その前の段階で顕著な衰痩、食事量の低下、体重減少があって、その回復が望めない状態になった時期とある。回復不可能の時期を経口摂取が必要エネルギーを下回った時とすると、そこから死亡まで、私の調査では平均3か月であった。この間、経口摂取のための介護は一層の努力と注意を要するわけで、現行の看取り加算評価期間の1か月はあまりに短いと考える。

「老衰」とかかりつけ医
最後に、「在宅では種々の検査ができず、正確な死因が不明で、結果として老衰死が増えたのではないか」という意見があるが、これは当たらないと思う。病院では比較的短期間しかその人を診ないから、その時点で問題になっている疾患が注目されてそれが病院の死亡診断書となっている。自宅・老人ホーム・施設に関わるかかりつけ医は、その人の年余にわたる療養の期間、複数の並存疾患の経過を診てきており、個々の疾患よりも複数の疾患が慢性に経過したことの積み重ねを評価し、老衰を死因の筆頭としているのである。これについては、また稿を改めてお話ししたい。

鳥取市立病院 名誉院長田中 紀章
昭和43年大学卒業後、平成8年から大学にて、がん医療、肝移植、再生医療、緩和医療分野で活動。その後、鳥取での勤務において高齢者医療・地域医療の問題に直面し、病院の組織改革に取り組んだ。現在は、鳥取と岡山の二つの介護施設で臨床に従事する。
昭和43年大学卒業後、平成8年から大学にて、がん医療、肝移植、再生医療、緩和医療分野で活動。その後、鳥取での勤務において高齢者医療・地域医療の問題に直面し、病院の組織改革に取り組んだ。現在は、鳥取と岡山の二つの介護施設で臨床に従事する。
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