進化論で強調されていることは多様性である。同じような種でも、その小さな差異は競争によって長い間に進化を促し、種に発展をもたらす。さらには、ドーキンスによって提唱された「ミーム」の考え方でも、文化の多様性は「ミーム」の進化を引き起こすとされる。「ミーム」とは遺伝子のような物理的存在ではないが、文化的に遺伝子と同じような行動をとるもののことである。言語は「ミーム」の代表格と言える。人間にとっての多様性は人種の違いと共に、文化の多様性でもあり、さらには、個人ごとの多様性でもある。国が一律に国民の行動を決めるのは、文化的多様性を阻害する。
その典型を「国民の祝日」に見てみよう。
労働形態の多様性は、労働時間や労働日の多様性を含んでいる。理想的に言えば、時間当たりの給与の下限(最低賃金)、週あたりの労働時間の上限を規定し、その範囲内では、どの曜日の、どの時間に働くことは自由であると考えればよい。それに対して、日本で、一斉に働き、一斉に休む慣習が続いている。労働の多様性が著しく低いと言えるのだ。一斉に休む「国民の祝日」は、1948年から2016年を比較すると、グラフの様になる。戦後間もない頃の祝日からは7日増加して、1966年と比較しても4日増えて、現在では16日となっている。さらに「国民の祝日」が日曜日に当たる際には、その日の後の最も近い平日を休日としている。前日と翌日の両方を「国民の祝日」に挟まれた平日も休日に定められている。
それに対して、有給休暇の日数と取得率は次のようになる。
平成5年(1993年)からの統計でも、取得率は全く上がらず、むしろ下がっている様に思われる。祝日の増加と有給休暇の減少は、国民の祝日、特に連続休暇である年末年始、お盆休み、ゴールデンウィークなどで、「一斉に」みんなが休むので、交通の渋滞を招き、行楽地が混雑する。かつては、4月末から5月にかけての連休を、地域ごとに順に取るようにするとの提案もあったようだ。この様な問題外の提案が出てくる要因として、日本では、「一斉に」行動することが普通であるとの考えが多いのだろう。
国民の祝日は、昔から他国に比べ多かったが、平成28年に、山の日(8月11日)が加わって年間16日になった。G7の国では、アメリカ10日、イギリス9日、ドイツ10日、イタリア13日、カナダ14日なので日本が一番多くなっている。
一方で、いわゆる有給休暇は国としてその制度が無く、会社と社員の相談で決めるアメリカを除くと、主要国では、フランス30/30(30日の年間有給休暇に対して、取得日数が30日)、イタリア26/30、ドイツ30/30、などとなっている。アメリカは、日数が法令では決まっていないが、消化率は、80%だ。これに対して、日本は、OECD主要国中最低の消化率(50%)なのである(10/20)。つまり日本は「一斉に」休日があり、個別に休む日は諸外国と比べて最も少ない傾向となっている。そのせいで交通機関は混雑し、行楽地は満員となるのである。年末年始に里帰りすることは普通なのかもしれないが、正月休みに「一斉に」海外に旅行に行くのは、この様な休日のいびつさに起因しているのだ。
そういえば、もう過去のものとなった感があるプレミアムフライデーというものが思い出される。これも「一斉に」休むことを奨励していたのだが、さすがに定着しなかった。また、ノー残業デイなどの取り組みも同様に、「一斉に」休むことを促している。
この様な日本人の行動あるいは思考は、何が原因なのだろうか。幼児期の教育か、あるいは、社会に出てからの行動規制から生まれるのだろうか。そうであれば、学校にも「欠席扱いにならないお休み」を一定の日数(例えば5日間など)取り入れてはどうか。そうすれば多少は、幼年期に個別性が養われるかもしれないし、親も学校を休ませる罪悪感から逃れられるであろう。
老人ホームの個別ケアマネジメント(一人一人のケアを個別に考え、その集合が施設でのケア―つまり、仕事の行程となる)が普及しないことも、「一斉に」行動することと関係しているかもしれない。「施設」は、それ自体で集団行動を強制し、個人の尊厳を破壊する性格を持っている(アーヴィング・ゴッフマン=アサイラムなど)。そうすると、日本全体が一種の施設化しているかのようである。
日本人に求められるのは集団の行動を規制することではなくて、個別性を要求し、個人が自立した社会を作ったその上で、社会の連帯を図るような行動の順序が必要だと思われる。集団行動化した状態での個別性をいくら要求しても、甚だ困難であることは明らかである。
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