大企業の利益率を超える社会福祉法人が多数!?~社会福祉法人 財務諸表全体集計からわかったこと~

本年11月1日付 日本経済新聞「経済教室」欄に、社会福祉法人全体の財務諸表の集計結果を発表した。社会福祉法人制度の発足は1951年であり、高齢者ケア、保育、障害者支援などで大きな役割を果たしている。しかし、そこに巨額の公費を配分しているにもかかわらず、政府は社会福祉法人全体の財務データ集計を一度もしたことがなく、市場規模すら分からない状態にあった。そのような状態を私が2011年7月に経済教室で問題提起したのが契機となって、2016年3月に社会福祉法が改正された。

この改正で2016年度決算から全ての社福の財務諸表のデータベースが作成されることになった。その集計結果を厚生労働省が独立行政法人福祉医療機構のWEBサイトで公開している。しかし、財務データの集計対象となったのは社福全体20,645法人のうち11,488法人にすぎず、社福全体の収入や経常利益の合計さえも明らかにされていない。事業種類や地域の差から生まれる財務構造の特徴を分析していないため、折角のデータベースが政策判断に役立つとも思われない。厚生労働省は標準化されたエクセルベースのファイルを持っているので、短時間で集計できるはずである。にもかかわらず2016年度決算の集計作業を途中で止めている。そこで、私が今回の大作業にチャレンジしたのである。

集計作業を開始してまず驚いたのは、約750の社福がデータベース作成に必要な財務諸表を提出していないのである。それに加えて、724の社福の貸借対照表が貸方と借方が一致しないアンバランスシートであったことである。アンバランスシートの社福では、経理ソフトを使っておらず資金管理が公私混同で使途不明金があるということだろうか。このような事態が提出期限から1年以上も経った現在でも是正されていない現状に対して、所轄庁にも法律を順守する意識が低いと批判が出てもおかしくない。なお、貸借対照表が左右不一致の社福であっても事業活動計算書(一般企業の損益計算書)に問題がないと思われるものは集計対象とした。これら全てを除外することで社福全体の収入規模が過小に算出されるのを避けるためである。除外したのは、純資産額が総資産額より大きい、当期活動増減差額(一般企業の当期利益)が事業活動計算書と貸借対照表で不一致といった明らかにデタラメな財務諸表である。

表1 社福の事業活動収支計算書(2016年度)の集計結果 (単位:億円)

 

表1の通り、集計した社福19,855法人の2016年度の収入合計は10兆円、経常利益合計3,484億円、平均経常利益率3.5%であった。なお、社福の業績を考察する場合、事業規模が格段に大きい「済生会」と「聖隷福祉事業団」を除いた数値も重要である。この2法人を除いた場合の平均経常利益率は社福全体で3.8%、複合体の平均経常利益率も3.0%になる。

表2 (高齢専業)社福の都道府県別平均経常利益率 ( )内は集計法人数

 

表3 (保育専業)社福の都道府県別平均経常利益率 ( )内は集計法人数

 

表2に、高齢者専業社福の平均経常利益率を都道府県別に示した。マイナスの県も有る中、徳島県の7.5%、愛媛県の6.1%は突出して高い。表3は、保育専業社福の都道府県別平均経常利益率である。全国平均の6.6%も高いが、富山県、兵庫県、大分県、宮崎県は9%超である。これは保育士の給与引き上げのため2017年4月に国が補助金を増やす直前の数値である。つまり、保育士給与引き上げ財源は社福自身にも有るのである。

今回、社福全体で金融資産5.8兆円、借入金3.7兆円、純金融資産(金融資産マイナス借入金)2.1兆円であることが確認された。なお、退職給付目的の積立金、基本財産内の定期預金等は金融資産から除外した。全く予想外だったのは、純金融資産が最も大きいのが地域別業界団体である社会福祉協議会(金融資産6,253億円、借入金234億円、純金融資産6,019億円)だったことである。

政府は、2025年までに全国に地域包括ケア体制を構築することを目指している。地域包括ケアでは医療や介護以上に生活支援サービスの提供が重要である。認知症患者の見守り、独居高齢者の孤食回避、貧困家庭児童の学習支援など公的保険制度の狭間に落ちた人々の問題が非常に大きく、これらを解決する仕組みがなければ地域包括ケアは完結しないからである。従って、私は地域包括ケアの主役は医療機関ではなく、社会福祉法人と考えている。

この生活支援サービスのモデルとなるのが、大阪府社会福祉協議会が実践している“大阪しあわせネットワーク”である。そのキーワードは社福による「協働」である。生活支援サービスは多種多様であり専門人材と資金も必要であるため多数の社福が協力し合うべき事業である。同ネットワークは社福の任意参加であり、年間事業規模も1.7億円とまだ小さい。一方、他地域の社福にも類似の取り組みが広がり始めている。この仕組みを全国に広めるためには財源が必要だ。そこで注目されるのが前述した社会福祉協議会の純金融資産6千億円であるが、一応積立目的が定められている。その目的変更による財源捻出が難しいのであれば、黒字の社福に低率課税することを提案したい。黒字社福の利益合計は4,649億円であるから税率5%でも相当な財源を確保できる。税務署の監視が入ることで財務諸表が正常化されるという副次効果も大きいと期待される。

一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹・経済学博士松山幸弘
1975年3月東京大学経済学部卒業。1975年4月~1999年3月生命保険会社勤務。その間、九州大学経済学部助教授(1988年~1989年)、日本銀行金融研究所客員エコノミスト(1991年)、厚生省HIV研究班員(1993年~1994年)等を歴任。1999年4月以降、富士通総研経済研究所主席研究員、民間医療法人専務理事等を経て2009年4月より現職。
主な著作:「米国の医療経済」(東洋経済、1990年)、「エイズ戦争:日本への警告」(東洋経済、1992年)、「人口半減:日本経済の活路」(東洋経済、2002年)、「医療介護改革の深層」(日本医療企画、2015年)、「財政破綻後」(日本経済新聞出版社、共著、2018年)、「Health Systems: Future Predictions for Global Care」(CRC Press、共著、2018年)
1975年3月東京大学経済学部卒業。1975年4月~1999年3月生命保険会社勤務。その間、九州大学経済学部助教授(1988年~1989年)、日本銀行金融研究所客員エコノミスト(1991年)、厚生省HIV研究班員(1993年~1994年)等を歴任。1999年4月以降、富士通総研経済研究所主席研究員、民間医療法人専務理事等を経て2009年4月より現職。
主な著作:「米国の医療経済」(東洋経済、1990年)、「エイズ戦争:日本への警告」(東洋経済、1992年)、「人口半減:日本経済の活路」(東洋経済、2002年)、「医療介護改革の深層」(日本医療企画、2015年)、「財政破綻後」(日本経済新聞出版社、共著、2018年)、「Health Systems: Future Predictions for Global Care」(CRC Press、共著、2018年)
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