自律性とは、自分の行動や思考に対して、自分自身でコントロールを効かせることであり、なお且つ、その結果に対しては自分自身で納得することだ。人間は一人ではなく集団で生活しているので、他者に対する配慮が必要であると言われる(ふれあい、思いやり、支え合い、協調など)。それは当然のことであるが、その前にまず、自分自身の問題を十分に考えて、自分で理解し自分で解決方法を決めることが大切だ。その上で、他者との協調はどのようにすればよいのかを考える必要がある。その反対ではない。
また、自分を取り巻く社会の慣習は、それが出来た時には合理的なものだったと考えられるが、時代を経て継続すると、社会にも個人にも合わなくなることが多い。そんな時も、まず、自分自身にとっての必要性を考え、それが慣習にそぐわない場合は、どの様に行動すべきかを自分で決める必要がある(自分の意見を通すか、慣習に従うかは自由である)。それが自律性なのである。
驚くべきことに、2500年前に、自律の重要性を説いた人物がいる。
ブッダである。
ワールポラ・ラーフラ著「ブッダが説いたこと」によると彼は次のように言っている。
彼(ブッダ)は弟子たちに、自らが自らのよりどころとなり、決して他人を頼らず他人からの助けを求めないように諭した。彼は、人間は自らの努力と知性によってあらゆる束縛から自らを自由にすることができるのだから、誰であれ自分を啓発し自分を解放するようにと、教え、励まし、刺激した。
また彼は、全ての悪の根源は無知であり誤解である。疑問、戸惑い、ためらいがある限り進歩できないのは否定できない事実である。そしてまた物事が理解できず明晰に見えない限り、疑問が残るのは当然である。それゆえに本当に進歩するためには疑問をなくすことが絶対に不可欠であると、説いた。
身体的な問題、精神的な問題、あるいは環境の問題が有って不遇な状態に陥る場合がある。その様な時には単に寄り添って助けるのではなく、自律を尊重し自律出来るように励まし、自律を助けるための援助を行わなければならない。自律心を持たなければ、他者に隷属する結果になるのだ。
しかし、自律にとって重要なのは、他者との関係よりも、むしろ慣習や権威との兼ね合いである。自分が所属している社会での階層や地位をそのまま受け入れたり、慣習を自明のものとして受け入れる場合は、その境遇から自律的な生活が出来ない。社会の慣習や権威から抜け出して自律的に生きて、初めて他者との関係を考えられるようになる。
他者との関係は、「自由の相互承認」の問題だ。自律的な生活をすると、自由を必要として、時として他者との衝突が起きる場合がある。しかし、自律的に生きているもの同士の衝突は、相互の自由を認め合うことが出来るのだ。自律的に考える人は、他者も同じように考えていることが分かるので、自分の自由と同じように他者の自由を認められるのである。その結果、自分の自由を制限するか、他者の自由を制限するかの選択が出来るのだ。
自律するためには、リスクの享受も必要だ。全くリスクを取らない場合は、他者に隷属するか、生活を制限するか他に方法が無い。人間の欲望は、それ自身の素直な情動的欲求よりも、他者との比較によるか(自分が持っていないものを他人が持っている、自分よりも他人が優遇されているなど)、あるいは、間違った認識から生じるものが多い。
自分自身の純粋な欲求に耳を澄ませば、自分が直感的に感じたほどの感情、つまり他者と衝突するような欲求は少ないことが分かるだろう。純粋な自分自身の欲求は、食欲、睡眠欲、性欲(子孫を残す欲求)、危険から逃れる欲求など、基本的で単純なものである。そうすると自分が感じている欲求の大部分は、自分自身から自然に発したものではなく、他者との比較や競争から生まれるものであるということに気付く必要がある。
ブッダは、自分自身の状態を正確に把握することこそが大切であり、自分自身の疑問を無くすることこそが、あらゆる束縛から自由になるための要点であると述べているのだ。
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