今、臨時国会で単純労働を含む外国人労働者の受入れを拡大する出入国管理法改正案が提出されるようだ。その骨子は、従来の方法に加えて新たに2つの資格を作り、外国人労働者の受入れを促進することである。新たな在留資格は「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類で、1号は企業などで即戦力となる「相当程度の知識または経験」とし、一定の日常会話ができる日本語レベルを条件とする。在留期間は上限5年で、原則として家族の帯同は認めない。2号は、1号で入国した外国人労働者が難度の高い試験などで「熟練した技能」を証明できれば移行が可能。在留期間の上限が撤廃され配偶者や子どもを呼び寄せられる。
これらは、日本での技能研修を本国での技術向上に役立てるとの名目で、単純労働力として受入れている「技能実習制度」や、留学の名目で事実的には、学生を労働力として使用している外国人留学生などのように、本音を隠して建前を優先させている制度の延長だ。しかし、今回の制度改正を行うと、従来からの政府の方針である、「単純労働」とされる外国人就労は原則禁止、移民は受入れないとの公約を事実上転換するものとなる。政策の転換は社会情勢に応じて必要だが、問題は、目的をあいまいにして、政策転換ではないと主張することに有る。それは政府の大きな役割である「説明責任」を果たしていない。
今回の実質的な政策転換には2つの問題を指摘したい。一つは日本人の単純労働者の賃金上昇を阻害することである。二つ目は、外国人の居留が日本社会に与える影響の問題だ(政策のあいまいさが、日本社会全体をあいまいにすることもあるが)。今回は特に一つ目の、単純労働者の賃金と外国人労働者との関係について考えてみよう。
人材不足は低賃金から生じている。企業は人材不足になるか、あるいは事業の拡大によって、人材が足りなくなった時、賃金を上げることによって人材の補充を行う。しかし、現在の日本では、賃金上昇はあまり起こっていない。すなわち、生産年齢人口の減少を、高齢者や女性、外国人が補っているのだ。そして、高齢者や女性の労働市場への転入が頭打ちになった現状での切り札としての、外国人人材なのである。仮に、労働力市場への人材投入が少なくなると、必然的に賃金の上昇が始まる。これは日本にとって良いことであろう。政府が民間の賃金に対してこの数年、賃上げに対する干渉を行っているが、それと外国人労働者の導入とは相反するのである。例えば、外国人労働者の必要性が高いとされる介護業界においても、介護報酬が上がらないと賃上げが出来ないような意見があるが、それにしては、利益水準がさほど低下しているとは言えないのである。つまり、賃上げが最も困難とされる介護業界においても、赤字覚悟で賃上げを行っている団体は未だ少ないのである(大部分の企業団体が3%~5%の利益を確保している)。いわんや価格が公的価格である介護業界以外の業種は、値上げを行うことによって、賃上げ分の利益を確保することは出来る。それと同様に、政府が2%の物価目標を未だ達成できないことに対する後押しになるのである。
危機を好機に変えることはイノベーションの基本である。危機を関係者が努力を必要としない、その場しのぎの政策で切り抜けようとすれば、関係者には心地よいかもしれないが、イノベーションを引き起こすことは出来ない。
現在はデジタル革命の真っただ中である。デジタル化、AIの普及が目指すところは、分業化、自動化であり、18世紀の産業革命と同様に、人の労働からITを中心とした作業への転換点にある。このことは、失業者を大量に発生させるかもしれないのだ。日本が人口の減少を迎えていることは、デジタル革命を進展させるうえで好機ともいえる(失業の心配が薄らぐ)。危機を好機に変えるためには、外国人の受入れではなく、企業が経済的合理性を持って賃上げを行い、その結果上昇する高賃金に対してIT等の設備投資と、より効率的な経営が自然に出来るような環境を整えることである(IT化は高賃金の職場に起こりやすい)。特に低賃金の労働者が担っている職場は、IT等の設備投資と、より効率的な経営の障壁となっている。
日本は、人口減を起爆剤にして、強力にIT化を進めることが出来る。その為には、人材不足⇒賃金上昇⇒物価の上昇⇒IT投資の進展、のサイクルを回すことが必要である。
スウェーデンで見られるように、賃金を上げることが出来ない企業、つまり、生産性の低い企業の市場からの退出を促し、その分仕事が生産性の高い企業に回るような政策を取るべきであり、現状を何とか保つような経営者寄りの政策を取るべきではない。外国人労働者の導入は、この様な賃金の問題と切り離し、長期的な社会の構成の問題(多様性の推進)として取り扱う必要があるのだ。
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