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続・妊娠した高校生の支援を考える

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昨年5月、妊娠した17歳の女子高校生を、交際相手が殺害するという痛ましい事件が起きました。東京地裁で開かれた事件の初公判によると、同級生である交際相手は、妊娠していた女子高校生に頼まれて殺害したということです。特異なケースとはいえ、高校生による妊娠を原因とする痛ましい事件、なぜこのようなことが起こってしまったのか。高校生世代の「同世代の妊娠」に関する意識の実態を見ながら考えてみようと思います。

今年3月末、文部科学省は妊娠した生徒本人に学業継続の意思があれば、「安易に退学処分や事実上の退学勧告等の処分」を行わないよう、都道府県や指定都市の教育委員会に通知しました。在籍する学校に通い続けるのが諸般の事情で難しい場合、転校や休学、定時制・通信制への転籍を支援するようにと要請しています。文部科学省が具体的にこのような要請を全国の学校に伝えるのは、その逆を考えると、今までは「高校生が妊娠したら、その高校に居ることはできない。」ということが学校社会の常識として通っていたことに他なりません。

では、文部科学省の方針を受けたことによって、今後のサポート体制はどのようになっていくのでしょうか。教育委員会が中心となり校内でも授乳・託児ができるようなハード整備・ソフト整備計画を作ったとしましょう。さらに教諭と養護教諭、スクールカウンセラーで対策チームを作り、学校と医療機関、福祉が適切に連携するためにスクールソーシャルワーカーが動くことにより、妊娠した高校生に対し、学業との両立が可能になる・・・。、などとうまくいくとは考えられません。いくら「大人」が問題意識を感じ、ハード整備や仕組み作りをしても、当事者とその周囲にいる高校生世代が妊娠に対しての認識をある程度きっちり持っていないことには、男性の育児休業取得率があまり伸びないのと似たように「ハコだけ作った。でも使う人がいない」という状況に陥ってしまうのではないでしょうか。適切な支援は、仕組みだけではなく、当事者が当たり前に支援を受けることができる「空気」を醸成する必要があると考えます。

私は、まだ上記のような「空気」は醸成されていないのでないか、という仮説を立て、現高校生世代が同世代の妊娠について、どのように考えているのかの意識調査を行っています。調査は全国の高校生を対象にwebアンケート方式で行いました。2018年9月末時点で、163の回答が寄せられています。まだ回答受付中のため、正式な集計はしていませんが、現段階のおおまかな傾向を紹介します。

アンケートの回答者のうち、79%が女性で、その内の75%が特定のパートナーとの交際経験があるとしています。「彼氏がいる(いたことがある)女子高校生」にとって「妊娠」は関心のあるテーマなのでしょう。「もし友人が妊娠したらどのような声かけをするか?」という質問に対し、35%の回答者が「出産すること」に肯定的な態度を示しています。「絶対に中絶すべき」と強く否定したのは1%未満でした。「高校生が妊娠した場合、誰に相談するのが良いと思うか?」という質問に対し、52%が親、パートナーが18%、友人が13%となっています。そして、「高校生が妊娠することについてどう思うか?」と漠然と善悪を問う設問に対し、「悪いことだと思う」という回答は30%、「良い悪いで判断できない」64%となりました。高校生が妊娠・出産するということについて「出産は美しいものである」というファンタジーからなんとなく肯定的な態度を示しつつ、実際のところは「よく分からないけど、高校生が妊娠するのは悪いことなの?」という傾向が出ています。高校生世代の経験則では同世代の妊娠について、はっきりとした価値判断が付かないということなのでしょうか。そのような時に相談相手になるのは親であり、次いでパートナーや友人というのは、家族や身近な人の存在の大きさが伺えます。

では、高校生にとって同世代の妊娠に対し、学校の対処はどのように認識されているのでしょうか。「もし妊娠したら、学校はどのような対応をとりますか?」という質問に対し、「退学になる」「転学を勧められる」とはっきり答えた高校生は少数で、78%は「分からない」という回答でした。実際、自分の周りに当事者がいない状況において、妊娠したら学校生活がどのようになるか具体的には知らない生徒がほとんどのようです。一方で、「もし妊娠したら学校生活をどうするのが良いと思いますか?」という質問には49%が「退学か転学」と答えていますが、30%は「子育てと学業の両立」が良いという回答も見られます。

自由回答も幾つか紹介します。

・今、彼氏が出来たらそういう流れになると思うし絶対すると思う。けど怖いから妊娠したくない。

 

・妊娠すると高校生のくせに…って言われるのが可哀想。大人でも虐待とか育児放棄とかしてるし高校生でもちゃんと育ててる人もいる。何でも高校生だからって決めつけちゃだめだと思う。大人が虐待してるより高校生が虐待してる方が叩かれるのが分からない、年齢じゃない。してることは一緒。あとは誰にも言えずに産んで捨てるっていうのはその子ももちろん悪いけどそういう環境作る社会がいけない。避妊してないのが悪い、高校生のくせにとか言われても…。なんか、頭固い人ばっかだから相談しても堕ろせって言われるし怒られる。怒っちゃだめだし堕ろせなんて簡単に言っちゃダメ。望んで妊娠したなら喜んで産ませてあげるべきだし、そのあとのサポートもするべき。もし望まぬ妊娠なら周りが堕ろすことの重大さをちゃんと言うべき、頭ごなしに叱るのよくない。たぶん捨てる道を選ぶ子は、こういうのを恐れてるんじゃないかなって思う。

まだ多くの自由回答が寄せられていますが、やり場のない悩みを書いてくれた高校生が多くいます。
 

全体をざっとまとめると、
・高校生は妊娠に対して「根拠のないファンタジー」としての肯定感をぼんやりと持っている。
・一方で、自分や身の回りの高校生が妊娠してしまうことに対しては「よく分からないけど、どちらかと言えば悪いことなんじゃない?」という認識。
・高校生の妊娠について、学校の存在はあまり重要視しておらず、「だめなら辞めるし、続けてもいいのなら続ける」と、消極的な雰囲気。
・相談相手は親やパートナー、友人であり、学校の先生ではない。
というものでしょうか。このことに対する、大人側、学校側の良きアドバイスが得られたという回答は、残念ながらほとんどありません。

今回のアンケートは母数が少ないといはいえ、高校生の妊娠、性に関する見識はまだまだ未熟であり、そのことを適切に学ぶ場もほとんどありません。また、高校生は妊娠や性に関しては学校に期待していないとも受け取れます。高校生の妊娠に対する支援を考えた時、制度や仕組みを整備するだけでなく、当事者世代への知識や理解を深めることが、教育の現場で必要なのではないでしょうか。引き続き、回答を集めながら高校生の声をまとめていこうと思っています。

一般社団法人SGSG理事長/中国学園大学子ども学部講師野村泰介
1977年東京都生まれ。1988年岡山へ転居。2000年から2016年まで高校教諭(地歴公民科・情報科)として約3000人の高校生と関わる。2017年より中国学園大学子ども学部講師(社会科教育法)、岡山シティFM「放課後スクールJACK」パーソナリティ、2018年2月、地域の高校生の自主活動支援を活動の中心にした一般社団法人SGSG設立。その他兼職多数。研究×実践×発信という遊撃的行動で教育に新しい風を吹き込むべく奮闘中
1977年東京都生まれ。1988年岡山へ転居。2000年から2016年まで高校教諭(地歴公民科・情報科)として約3000人の高校生と関わる。2017年より中国学園大学子ども学部講師(社会科教育法)、岡山シティFM「放課後スクールJACK」パーソナリティ、2018年2月、地域の高校生の自主活動支援を活動の中心にした一般社団法人SGSG設立。その他兼職多数。研究×実践×発信という遊撃的行動で教育に新しい風を吹き込むべく奮闘中
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