平成30年6月下旬から7月上旬にかけて、西日本の広範囲に降り続いた雨により大きな被害をもたらした西日本豪雨災害を経験し、被災地と隣接したエリアの開業医として、同じ郡市医師会の会員として、一人の市民として、今回の災害を振り返っています。
今回の豪雨災害によって、当クリニックの所在する岡山県総社市の一部と、隣町の真備町(岡山県倉敷市)が被災しました。岡山県は「晴れの国おかやま」のキャッチフレーズで、降雨量や災害の少なさをPRしてきましたが、今回の豪雨災害によりそれは覆されました。いつかこういうことがあるのではないか?と思いつつも、そのいつかに対するリアリティは乏しく、どこか他人事のように振る舞おうとしていた自分がいたことが思い出されます。
無情にも、現実はそれを許してくれませんでした。西日本一帯に降り続いた雨は河川の増水をもたらし、私達の町を流れる高梁川、小田川を氾濫させ、総社市の一部と真備町の大部分を飲み込んでしまいました。
なお、真備町の浸水で亡くなった方のほぼ9割が自宅で見つかっており、被害を受けたのは足が不自由な高齢者に集中してます。上階に逃げる「垂直避難」ができない災害弱者が犠牲になった可能性が高いと言われています。
被災地の在宅医療現場では何が起こっていたか
7月6日の夜半から、クリニックスタッフと協力して、在宅療養をしている身体の不自由な方々へ避難状況を含めた安否確認を行いました。訪問診療を行っている在宅患者さんの一部は、避難所の環境では療養困難であることが明らかなため、ご本人やご家族が避難を躊躇することもありました。そのような中でも、その患者さんがなんとか避難所へ移動され、ご無事だったと伺った際には、ホッとして体から力が抜けそうになりました。
ご連絡を差し上げた患者さんの中には、「老老介護で寝たきりなので、避難指示が出ているけど動くことができない、何かあってもどうにもできない。」という方もいらっしゃって、雨足の強まる状況でしたが、ご自宅へお迎えに上がって当クリニックへ一時避難して頂きました。避難指示エリア内にある当クリニックへの避難は正しい選択であったのかどうか、今でも自問自答しているところです。(たとえ2階への垂直避難が可能だったとしても)
7月7日の明け方には、報道で真備町の状況が次第に明らかになってきました。水没してしまったエリアに居住されている別の患者さんは、前日の豪雨の真っ只中に電話連絡をした際、「寝たきりなので避難は困難だ」ということでしたが、ご近所の方や支援者の方と一緒に高台へ避難し、無事であることが分かりました。私はホッと胸をなでおろしました。しかしながら、その患者さんは避難所へ入ることはできず車の中で過ごしていることが分かりましたので、支援者の方々とも相談し、ご夫婦で当クリニックへ一時避難して頂くことにしました。 お二人の患者さんは、クリニックのスタッフと交代でケアに当たらせて頂き、翌日にはそれぞれ介護事業所へ支援のバトンをお渡しすることができました。
7月8日は総社市と災害時の協定を結んでいるAMDA 1) の医療支援活動に参加しました。避難所には普段診療している患者さんがたくさん避難してきており、虚弱な高齢者が避難所でご苦労されているのを目の当たりにしました。
7月9日以降は当クリニックの業務も通常通り始まって、被災エリアの患者さんのうち手元に処方薬がないという方々のニーズにお答えしつつ、被災地の中でも直接の被災を免れた医療機関として最大の努力をしようと、スタッフと共に目の前のことに全力を尽くしていました。通常業務を維持しながら、災害に係る会議などに出席し、情報を得て、できることをただただ紡いできたように思います。あっという間の2ヶ月でした。
1)特定非営利活動法人アムダ。1984年に設立し岡山市に本部を置くNGO・国際医療ボランティア組織。
被災エリアでの医療支援を通して気付かされたこととは…
私が所属する吉備医師会は、総社市と真備町に会員を持つ郡市医師会です。真備町にある11の医療機関のうち、10の医療機関が診療不能になってしまった今回の災害では、災害支援などで活動されているNGO2)や、災害派遣医療チームをはじめとしてたくさんの支援をいただきました。被災エリアの医師会員として何ができるのかを自問自答しながら走ってきましたが、いくつかの気付きがあったので共有しておきたいと思います。
2)政府間協定によらずに設立された国際協力組織。市民や民間としての立場から、国境や民族、宗教の違いを乗り越え、利益を目的とせずにグローバルな課題に対して取り組む団体。
被災エリアの住民は、自身が被災しながらも支援を行う
行政の職員、医療介護福祉関係者、地域の消防関係者など、もともと地域の生活を安定化させるために日々の活動をされている方々は、自身が被災者でありながらも常に最前線で支援者としての活動を続けています。知人の中には、避難所で生活しながら医療活動を続けている人もいます。その方々に話を聞いてみると、それは特別なことではなく、当然のことなのだとおっしゃいます。これから先も、ずっとその活動は続いていきます。直接被災していない、同エリアの住民である自分には何ができるのか?これを常に考え続け、行動し続けることが自分自身の課題です。
周囲からの支援は、本当に助けになる
発災直後から支援を必要とする被災地では、周囲からの支援によって困難を乗り越えることができる瞬間がたくさんあります。支援する仕組みごと支援される(KuraDRO:倉敷地域災害保健復興連絡会議など)ということを今回目の当たりにしましたが、情報の集約やまとまった情報の発信などにおいて、難しい場面にも多く直面しました。しかし、問題点に着目すれば、いろいろあるかもしれませんが、「スピード重視の発災直後の急性期支援」から「つながりと安定感重視の復興期支援」へと移り変わっていく中で、私達に求められるのは現状を受け入れ、常に困難を乗り越えようとする「しなやかな心」なのだと気付かされます。
問題があると悲しんでいても、問題は解決しませんし、目の前の人の支援を行うことはできません。被災地の当事者である私達は、しぶとく、たくましく、あらゆる手段を調整して、したたかに支援を続けることが大切です。しなやかであり、泥臭くもあることも求められます。生まれ育った町にどんな関わりができるのか、一緒に育ってきた仲間が直接被災している隣町にどんな関わりができるのか、それぞれ個として何ができるのか?の集合体が復興なのだと感じている、今このときに、寄稿させて頂く機会をいただけたことに感謝です。
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