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誰が悪いのか―患者か、家族か、医者か

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高齢者の方々を診療していますと、時に戸惑うことがあります。こうした問題は、最近進められている「地域包括ケア」の運営にも支障をきたすのではないかとの心配が、湧いています。

何が問題かと言いますと、患者さんの病状悪化で入院して頂き懸命に治療した結果、入院前の状態までに軽快したとしても、元の生活環境に戻れない事態が間々起こっているのです。これは、他でも書いた「老々介護の現実」とも言えるのですが、一体誰が悪いのかという疑問が起きてきます。

90歳を幾らか越えた患者さんがいらっしゃいました。ご高齢になってから、免疫不全に関係する難病を発症され、大きな病院での治療を受けられ、何とか自宅に帰れるところまで回復していました。そうは言っても、何分にもそのお子さんも70歳過ぎのため、遠方の病院への通院は難しいということになり、当院の訪問看護を利用されることになりました。投薬はと言うと、免疫抑制剤やステロイドなど、高価で使い方も難しいものが沢山処方されていて、当方も驚いたことではありました。さらには、紹介状の中には日和見感染(普通の健康な方では問題にならないウイルスや細菌、カビなどで発病する感染症のことです)と思われる「サイトメガロウイルス肺炎治療後」の記載もあり、なかなか厄介なことだと思っていました。そして、案の定、寒くなり年の暮れになって、呼吸困難の訴えで訪問看護の看護師さんが呼ばれ、在宅ケアでは無理と判断されて緊急入院の運びとなりました。

入院後、私が主治医となり治療を開始したのですが、10日後には何とか軽快されました。問題はそれからです。「良くなったので退院を」とご家族にお伝えしたところ、「家には連れて帰れません」とのご返事を頂きました。勿論、入院中の10日間は寝て過ごされていたので、ご高齢に加えてさらに足腰が弱った感は有りますが、ご家族はその点(寝るばかりという点)を繰り返し取り上げて、「自宅に連れて帰っても、世話ができない」と仰います。そう言われると、入院していたことが悪かったのかということになり、ある種の矛盾をはらんでくることになります。

また、確かにご家族もご高齢で、「先に私の方が倒れそうです」とまで言われると、こちらの「折角元の状態に戻ったのだから、慣れたご自宅の部屋に戻して差し上げたい」という気持ちに水を差されたようで、一体どうしたら満足してもらえのかと、沢山の疑問符が頭の中を飛び交います。

その後、在宅ケアを行う際の支援である訪問看護ステーションや、担当のケア・マネジャーさんの協力を仰ぎながら相談を行いましたが、いくつかの支援策を提案しても、頑なに「無理です」を繰り返されました。まさか、「預けている方が楽だったということではないでしょうね」と訊きたくなりはしましたが、これは当方の思い過ごしであってほしいと、胸に仕舞うことにしています。

ここまできて、このご家族が身勝手で悪いのか、あるいは(これは、人類すべての問題ではありますが)患者さんが長生きをし過ぎたことが、しかも「病気」になってしまったことが悪いのか、はたまた、無理やり(?)退院を迫っている医者(である私)が悪いのか・・・。さらには、こうした高齢者に病気があるのは仕方ないだろうに、それに診断を付けて教科書通りに(高価で複雑な)治療をし始めた前医が悪いのか・・・。その上で、「折角、良くなったのに」と思うのは、医者の身勝手な考えであってそれが悪いのか。さらには、こうした現場では解決できない問題を放置する行政というか、政策が悪いのか・・・??

頭の中で、問題がぐるぐると止めどなく巡りはするものの、一向に解決策は見えて来ず、結局のところ、ご高齢の方はあの世とやらへ逝かない限り、安住の地は無くなってきているという最悪のシナリオが見え隠れしてきていました。

今も、患者さんは病室で過ごされています。三度の食事を摂り、いつか住み慣れたお家に帰れると信じてリハビリも受けていらっしゃいます。そうした様子を観る度に、一体誰が悪いのかと、また同じ疑問が湧いてくるのを止めることができないでいます。

今年の4月の医療保険と介護保険のダブル改訂で、「終末期医療」という言葉から「人生の最終段階における医療」という言葉に切り替えられ、3月にはガイドラインも改訂されましたが、最前線の現場でのこうした問題への解決策は明示されていないのが実際です。一体どうすればよいのか五里霧中でもがいています。

※この方は、結局、この原稿を書き上げてからしばらくの後、地元の施設に入ることで決着しました。ご本人、ご家族、そして病院と三者の納得ができた結末で安堵したことでしたが、毎回こうはいかないと思われて・・・。

医療法人 寺田病院 院長板野 聡
岡山県倉敷市出身。
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
以来、消化器外科、消化器内視鏡を専門として地域医療に取り組んでいます。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職に。
「臨床外科」(医学書院)にエッセイ「1200字通信」を連載中。
2016年11月15日に短編小説集、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)を上梓しています。
2018年5月9日に「看取り請負人 死なせ屋ゴンがゆく」(ルネッサンス・アイ社)を新たに上梓しました。
日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本大腸肛門病学会指導医、日本消化器病学会専門医、
がん治療認定医、日本医師会産業医、ICD認定医、三重県警察医ほか。
趣味は映画、読書、クルマ。小型船舶1級免許取得。
岡山県倉敷市出身。
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
以来、消化器外科、消化器内視鏡を専門として地域医療に取り組んでいます。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職に。
「臨床外科」(医学書院)にエッセイ「1200字通信」を連載中。
2016年11月15日に短編小説集、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)を上梓しています。
2018年5月9日に「看取り請負人 死なせ屋ゴンがゆく」(ルネッサンス・アイ社)を新たに上梓しました。
日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本大腸肛門病学会指導医、日本消化器病学会専門医、
がん治療認定医、日本医師会産業医、ICD認定医、三重県警察医ほか。
趣味は映画、読書、クルマ。小型船舶1級免許取得。
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