医療現場を知らない霞ヶ関は、「施設基準に見合った人員配置をすれば経営とサービスが安定する」と考えている。実際の医療現場にいる私たちは、「安心安全な医療を提供するためには、国民医療費の増大は必須である」と考えている。いずれも、「国民第一」と考え、自分の仕事を愛していることに変わりはない。霞ケ関の方針に従えば、安心安全な医療は危機に瀕し、現場の要求に従えば、国の借金は増大する。いずれの方針も、国民が利するとは言い難い。いずれにも「正義」はなく、いずれも「悪」であると言い得る。
人生最大のイベントは人それぞれだが、結婚により家族を持つことではないだろうか。愛する異性と家庭を築ければ、「貧しくても幸せになれる」と夢見る。しかし、現実は、『夢』を許してはくれない。子供が成長するにつれ教育費は増大する。両親が年老いて病に伏せれば、治療費・介護費も増大する。「愛さえあれば貧しくても・・・」との若かりし頃の夢は、経済的事情で散ってしまう、というのが現実ではないだろうか。
地域に質の高い医療を提供するには、安定した経営基盤が必要条件である。盤石な経営基盤が無ければ、最新の医療機器の導入は不可能となる。当然のことながら、医師のモチベーションの低下は避けられず、質の高い医療の提供は不可能となる。医療の提供によって得られる対価を超えたサービスを長期的に続けることは不可能であることは、自明の理である。例外として、政策医療が挙げられるが、不採算部分を補填する制度でしかない。未来永劫、この補填制度が続行されるかは、国の財政状況を踏まえれば、保障の限りではない。
ここ数年、国立病院機構の急性期病院のほとんどが赤字経営に転落し、赤字を補填する余力が底を突きつつある。そのため、全体の投資を控えるという由々しき現況にある。今後も赤字経営を続けるのであれば、税金投入とならざるを得ないと予測するが、国民の政策医療を担っているという、「国民に対する愛」の名の下に、国民は税金投入を『是』としてくれるだろうか。因みに、国立病院機構は「愛」を叫んでも、職員給与削減、地域手当の廃止等々を認容する施策をとっていない。赤字の病院においても、給与は従来通り維持されている。国立病院機構は、既に非公務員化されているが、待遇面は公務員並を維持している。このような状況であれば、税金投入に、国民の理解は得られまい。
平成30年度診療報酬改定により、一般病棟入院基本料(7:1、10:1)が、急性期一般入院料(1-7)に再編され、従前の7:1を維持するには「重症度、医療・看護必要度」は30%が必須条件となった。当院は、経営企画室の資料を下に看護部が早期退院を実施し(平均在院日数:9.5±0.3日)、31%前後を維持している。後方連携を少しでも緩めると、直ぐに基準を下回る。この場合の損失金額は一月に約2千万と推計されるが、純益であるので、いわゆる10:1基本料となると、患者数増で取り戻すのは100%不可能である。
計算上は、看護師数を下位基準に見合った人数にすれば相殺されると考えがちであるが、そうではない。看護師の配置数は施設基準ではなく、提供する医療行為(患者サービス)の総量で規定されるからである。現在の患者サービスの総量が100とすれば、7:1であろうが、10:1、13:1であろうが、100は100であり、診療機能を根本的に変更しない限り80にはならないのである。穿った見方だが、今回の診療報酬改定は進まない地域医療構想(過剰な急性期、不足の回復期)に対する前哨戦であるとも見做し得る。
今後、国立病院機構の(旧7:1)急性期病院において、看護必要度30%を確保し得る病院が幾つあるのか危惧される。仮に抜本的な施策を考案できない場合、返済不能の借金で今の自堕落な生活を続けるのか、国民の自己犠牲による慈悲の心に依存するのか、それとも身の丈に合った方向転換を余儀なくされるのか、いずれにしても、半年以内に答えを出さなければならないだろう。国立病院機構に残されている時間は、機構職員が思っているほど、無いのかもしれない。かかる意味で、国立病院機構にとって今回の診療報酬改定は、新世紀エヴァンゲリオンにおける『使徒襲来』である。
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