最近の国の調査によると、子供の数は年々減少しているのに、不登校の中学生の数は、年間12万人で推移しています。高等学校でも、不登校の生徒は4万8千人で、中途退学の生徒は4万7千人にのぼり、両者を合わせると9万人を超えています。ひきこもり(15~39歳)と言われる若者の数は50万人以上と推測されています。これだけの数字にもかかわらず、国民全体の問題意識はあまり高くないのではないでしょうか?
私は、25年前から倉敷市で、不登校や高校中退の生徒及び保護者を対象に、親の会や居場所づくり、さらに進路相談会の開催などを行ってきました。その結果、保護者からの様々な相談を受けるようになりました。彼らの多くが、発達障害の診断を受けていたり、その特性が強く感じられる児童生徒でした。
発達障害児の多くは通常の学級に在籍し、健常と言われる児童生徒と同様の処遇を受けている場合が多く、その症状の状態像が、個性として判断できるようなレベルから障害として認識するべきレベルまで連続性があります。診断名は付かなくても、その子の生きづらさや困り感が明確な場合は、それを解消する手立てが必要となります。しかし、対応が不十分で、不登校などの二次障害を起こし、生きづらさが増している生徒がいます。実際に、中学卒業時点での高校選び、入学後の学習や学校生活、転学、高等学校卒業時の進路選択など、苦戦を強いられている若者が少なくありません。
例年、50組程度の相談があり、相談内容の大半が義務教育後の進路に関することです。ここ数年は、支援学級や発達障害児の親の会などからも、進学や進路について情報提供を要請され、説明会や相談会を開催しています。学校側も十分な情報を持っていないので、保護者に必要な情報が伝わらない状況にあるようです。
特に、高校での取組みに関する情報が伝わってきません。国の施策としては、高校でも特別支援教育に取り組むことになっていて、通常学級でも発達障害児の対応ができるよう特別支援教育コーディネーターが各高校に配置されることになりました。岡山県では、今年度から県内4つの高校では通級による発達障害の生徒に対する指導が始まりました。高校での本格的な取組みは、まさにこれからと言った状況です。せめて、発達障害等の診断が対いた生徒の在籍数や、卒業、進学、就職状況など県単位ぐらいでも、公表してもらえないかと考えています。自分と同じような人が、無事に卒業して、進学や就職ができているということが分かっていれば、安心できると思います。発達障害のある人たちは、想像性に課題を持つ人が多く、入学後の青写真が具体的に描けないと不安が大きくて、次の一歩を踏み出すことは出来なくなります。
我々はそういった相談支援とは別に、本業として、広域通信制高等学校の卒業をサポートする場所を作り、活動を行っています(NPO岡山高等学院)。本学院の生徒は、義務教育で不登校を経験したり、高等学校を中途退学したりして全日制の高校に入学するのが難しい、もしくは卒業するのが難しい生徒で、ほとんどの生徒が発達障害や軽度の知的障害を伴っています。そういった生徒たちの義務教育後の教育の場、居場所として、県内でも同じように通信教育での高卒資格取得をベースに支援を行っている教育機関がいくつかあります。知能や障害の程度によって、それぞれ特徴をもって運営をされています。社会性の向上を目的に高い登校率を目指す所や、知能が高めの生徒に対して大学進学までを目指した指導を行う所等、様々です。
本学院では、比較的障害が重い方に対しても、少人数を対象にじっくり丁寧に向き合える場所作りを目指しています。彼らが、本当に困っていることは何なのか?不登校や引きこもりの原因は何なのか?はっきり言って分からないことだらけです。でも、日々彼らから貴重なヒントをもらっています。
子供が、「学校なんか嫌いだ。もう行きたくない!」と口にしたとき、「お母さんが付いて行ってあげようか。」これぐらいならまだましですが、無理矢理車に乗せて、学校まで連れて行く。なんてことが良くありました。「なんで?」「どうして?」と聞くのではなく、「そうなんだあ」「よく話してくれたね、話してくれてありがとう」。
学校へ行くとか行かないとかより、自分のその時の気持ちを素直に受け止めて欲しかった。まずは、耳と心で聞いて欲しかった。口や行動はその後で、まずは「どうしたいのか」「どうして欲しいのか」を聞いて欲しかったなど、「して欲しくないことは、いっぱいしてくれたが、して欲しいことはほとんどしてくれなかった。」と不登校や引きこもりを経験した若者が、教えてくれました。対話を通じて彼らから学び、一人一人の思いや願いに寄り添いながら指導を展開していきたいと考えています。
また、本学院では、高校卒業資格の取得を目的とした学習面のサポートをするだけなく、将来を見据えた様々な教育活動を自主的に取り入れ、特に「働く人づくり」にも力を入れています。「働く人づくり」では、週に一回、1時間からのアルバイトをしています。最初は、先輩と一緒に行き、慣れてきたら一人で行きます。自信が付いたら時間や回数を、少しずつ増やしていきます。フルタイムに近い形で働くことを経験し、上手くいきそうであれば、両者が合意のうえ就職という形にまでもっていきます。ゆっくりきめ細かいサポートを行い、実際に一般就労する生徒も出ています。3年間の学校生活の中で、「働く人づくり」に注力していますが、卒業時までに就労が無理なケースもあります。ですが、卒業後もできる限りの支援をしたいと考えています。
しかし、これらの活動をすべて本学院だけで行うことには限界があります。職業安定所や障害者支援センターなど他機関との連携が必要になります。ただし、ここでも、本人たちの認識の問題だけでなく、専門機関と言われるところでも、彼らに対する理解不足と思われる問題が多く発生しているのが実情です。連携していく中で、焦らず、さらなる理解へ進めていけるように目指したいと考えています。
最後に、せっかく本学院への進学を希望しても、経済的理由から入学をあきらめる生徒が、毎年いることが大きな懸念のひとつです。本学院を希望する生徒の多くは、不登校、ひきこもりを経験しているなど、特に集団が苦手でコミュニケーションも不得意です。そのため通常の高校、特別支援学校などへの進学を希望しない場合は、本学院のような「私塾」でのサポートを受けながら、高卒資格を目指すわけですが、「私塾」部分についての公的な支援はありません。唯一自分が行けると思った最後の高校に行けないとなると、まさしく自立に向けて大きな壁になってしまいます。きめ細やかな指導とのセットでなければ卒業や就労につなげていくことは難しいのが現実です。こういった、公的な支援から漏れてしまう生徒たちに対しても、ぜひ公的・民間の支援が入ることを強く希望します。
困難を抱える若者や生活困窮者に対する支援策は、形の上では整えられつつありますが、当事者目線でないのが残念です。今後も一人ひとりに合った支援に向けて、我々なりのアプローチを考えて、実践し、彼らがあきらめないで進んでいけるよう努力していきたいと思います。
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