限界集落の未来を考える①「誰が、限界を決めるのか」

岡山県が位置する中国地方では「限界集落」と言われる小規模高齢化集落の割合が高く、世界的に見ても人口減少やそれによる機能低下が世界に先駆けて、生じています。日本における高齢化及び少子化は速度を増しており、特に、中山間地域と呼ばれる山間地等の周辺地域では、その変化が顕著であります。集落には、人が住んでいる家が数件あるけれど、そのすべてが80歳以上の高齢者の一人暮らしという集落も存在しています。こうした地域で起きていることは、今後、郊外にあるかつての新興住宅街や、都市部でも形を変えて起こりうる課題です。私たち「NPO法人みんなの集落研究所」はそのような状況の中、集落に近い立場で調査研究を行う組織として、地域の今と今後に求められる調査を行い、その結果を以てマッチングやコンサルティング、政策提言を行っています。今回は、活動をする上で、そもそも支援の対象となる限界集落の「限界」とは何か、を考えてみました。

最近、私たちが伺う地域で「小学校が複式学級になる」「統廃合される」という話をよく耳にするようになりました。まさに、地域消滅の危機感を象徴する出来事です。ただ、少子化とセットで問題とされる高齢化については、少し実状が異なります。私たちが訪れる集落では、いわゆる高齢者と呼ばれる年齢の方々は、地域の主役としてご活躍をされています。後期高齢者となる70代のリーダーは当たり前、80代でも意欲を持って新しいことにチャレンジを重ねられるなど、地域を支えてくださっている素敵な先輩たちにたくさんお会いできます。

そういった現状を目の当たりにし、改めて「集落の限界」って何?一体誰が「限界」を決めているのか、という点に疑問を抱くことが多くなってきました。「限界集落」はデジタル大辞泉ではこう定義されています。
「過疎などによって、65歳以上の高齢者の割合が50パーセントを超えるようになった集落。家を継ぐ若者が流出して、冠婚葬祭や農作業における互助など、社会的な共同作業が困難になった共同体。」

この中で特に、「高齢化率50%超」と「共同作業の困難」がポイントかと思います。しかしながら「共同作業の困難」については、実際には前述の通り、その担い手は65歳以上の方が多く、まだ困難な状況ではない、もしくは、共同作業の必然性が無くなっている地域も有るのです。
共同作業の代表的なものとして、水路の管理が有りますが、そもそも田んぼを手放す家が増えていたり、水路そのものの性能が上がるなど、管理自体が不要になっています。また近所ぐるみで執り行っていた冠婚葬祭(特に葬儀)も業者によってサービスが提供されるようになり、家族外の助けを必要としなくなっています。このように、環境の変化やビジネスモデルの発展と共に、近隣との共同で行われていた作業は姿を消しつつあります。現実はデジタル大辞泉の定義とは異なっているのです。

私たち「みんなの集落研究所」は、シンクタンクとして、山間部から都市部、離島まで様々な地域の課題解決のための支援を行っています。具体的には、町内会長など地域のリーダーと共に地域のこれからについての全住民のアンケートを行い、その結果を基に、住民間の話し合いを促し、実行することを伴走支援しています。例えば、高梁市の宇治という地域ではアンケートと話し合いの結果、行事よりも高齢者の生活支援が大切だ、移住者の受け入れが大切だという話になりました。そこで行事の棚卸しをして整理したほか、高齢者の寄り合いの場作りや移住者支援などの事業に転換をしています。

ここで私たちは、このアンケート結果から、何よりも住民の意思や想いを大切にしています。「ここは高齢化率が50%以上だから限界集落だ」「限界集落はこういった支援が必要だ」という画一的な考え方を押し付けるのではなく、それぞれが地域の将来を「自ら選ぶ」ことを優先にしています。またその「選択」を実現するためのノウハウを共に考え実行するのが、私たちの使命と考えています。

憲法第22条には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と書かれています。先祖代々の土地、住み慣れた土地に愛着と、そこを守るしなやかな覚悟を持つ方々がいらっしゃる地域は、変わっていくと信じています。それは移住者を呼び込み高齢化率の改善を図ったり、公共サービスが受けられなくなればその代替案を考えるか、不便さを甘受するなど、いずれにしても難しい選択ですが、何より『そこに住み続けたい』『助け合って暮らしていけるコミュニティを作りたい』という強い覚悟が「限界」を越えていけると信じています。つまり「限界」を決めるのは、他の誰でもなく、そこに暮らす人々ではないかと思えるのです。

そのことを前提と考えながらも、実際としては先の宇治のように地域で移住者も受け入れて持続可能な地域もあれば、そうしたチャレンジが難しい地域もあります。何が未来を分けて、また、その未来を与件と考えた場合には何をすべきなのか。続けて、一緒に考えていければと思います。

社会の仕組み屋、社会の編集者石原 達也
NPO法人 岡山NPOセンター 代表理事
NPO法人 みんなの集落研究所 代表執行役
一般社団法人 北長瀬エリアマネジメント 代表理事
PS瀬戸内株式会社 代表取締役
SDGsネットワークおかやま 会長
災害支援ネットワークおかやま 世話人
一般社団法人 高梁川流域学校 副代表理事
NPOで働く人の会 事務局長
NPO法人 岡山NPOセンター 代表理事
NPO法人 みんなの集落研究所 代表執行役
一般社団法人 北長瀬エリアマネジメント 代表理事
PS瀬戸内株式会社 代表取締役
SDGsネットワークおかやま 会長
災害支援ネットワークおかやま 世話人
一般社団法人 高梁川流域学校 副代表理事
NPOで働く人の会 事務局長
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