慎泰俊です。今回は読書と仕事に対する姿勢について少し書きたいと思います。
最近もっぱら読む本としては、大体4種類です。哲学や思想の本、小説(毎月英語小説を一冊ずつ読んでいます)、伝記や自叙伝、そしてデザインや芸術に関する本です。金融関連の本は、読むとしても理論書やレポートがほとんどです。
つくりたい世界を思い描く力こそが、起業家に最も重要な資質なのですから、哲学や思想は必須ですし、小説家らの人間洞察には組織のリーダーとして学ぶべきことが多いです。伝記や自叙伝は我が身を振り返るのに役立ちます。
デザインや芸術に関する本もよく読むのですが、これは個人的に好きであるということのみならず、仕事上も意義があると思って読んでいます。というのも、私の仕事である金融は、かなり分かりにくい仕事と考えられていることが多く、それを明快な形で表現するためには、言語能力と図解能力の高さを強く求められるからです。
最近は立て続けに亀倉雄策の本を読みました。今見ても全く色褪せない54年前の東京オリンピックのポスターを覚えていらっしゃる方も多いでしょう。
その亀倉雄策が1980年代の日本のグラフィックデザインの状況を嘆いているコラムが、身につまされる内容でした。
当時は企業の多くが日本のデザイナーよりも、西洋のデザイナーを有り難がっていた時代です。西洋のデザイナーには日本のデザイナーの5倍も高い手数料を払うのですが、亀倉雄策から見て、駄作や手抜き作が多いのが、西洋デザイナーの作品において目に付いたそうです。西洋デザイナーの多くは、金払いのいい日本企業を相手にしたお金儲けをするために来日しているように(商売としては決して悪いことではないかもしれませんが)、自分たちの代表作を作るためにやって来ている訳ではないことが、亀倉には透けて見えていたようです。
「問題というのは、欧米の一流の建築家やデザイナーが、果たして日本という土地の上に、本当に世界的な視点から見て一級の仕事を残してくれるのだろうかという、この一点に絞って私は注目しているのだ。日本の甘い市場をうかがう彼らの心理の一隅に、日本蔑視の潜在意識がまったくないとは言い切れないものを、私は感じてならなかった。日本は彼らにとって利益を吸い上げる市場でしかなく、文化を打ち立てるという気概がまるでないとしたら問題である。二流三流の仕事を適当にやって、本当の自分の代表作といわれるものは欧米の地の上でしか残さないとしたら、日本蔑視も甚だしいということになる。」(「亀倉雄策の直言飛行」90ページより)
ここで書かれている「日本」をどこかの途上国に置き換えた時、日本から途上国に働きに行っている人の多くが反省するべきではないかと感じるのです。本当に世界のどこに出しても恥ずかしくないと言えるような仕事をするべく、全身全霊を込めているのかと疑問に思うのです。もしかして、現地の人々のリテラシーが低いことに甘え、楽をしているのではないか。また、現地の人の生活を考えること無く(考えたとしても副次的なもので)、目的は自国に持ち帰る利益の最大化である場合が多いのではないか。残念ですが、途上国にやってきているプロフェッショナルたちの仕事ぶりを見ていると、亀倉雄策が嘆いた状況が再現されているように感じます。
この誘惑は理解ができます。手抜きが見抜かれない状況においても、自分を厳しく律して品質の高い仕事を続けられる人は、さほど多くないかもしれません。ですが、そういう手抜きの仕事をすることは自分自身の精神衛生上も、また仕事をしている国の長期的発展のためにも望ましくないことのように思えるのです。
途上国で働いている人にとって、職業人倫理に従い、最善の仕事をすること以上に重要な社会的責任は無いように感じる今日この頃です。こういう真摯な仕事こそが、その国の経済成長に最も重要な貢献をするでしょう。
当社の経営理念には「世界最高水準のプロセスと成果物を作ることに妥協しない」というのがあります。相手が先進国の大企業であれ、途上国現地の従業員であれ、その場その場で最高の仕事をしていい成果を出すという意味です。もちろん最高の物なんてそう簡単に作れませんが、妥協せずに毎日努力しない限り、最高とよべるものを作る可能性はゼロだと思います。これからも顧客に提供できる価値の最大化のために、全力で以て働きたいと思います。
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