【少子化の現状】
厚生労働省の人口動態統計(表1)によれば、「団塊の世代」の昭和23年(私の誕生年)の出生児数268万1,624人に対し、2015年は100万5001人と約6割減っている。2015年の合計特殊出生率(女性一生の推定出産児数)は1.45と報告されているが、子どもが生まれるためには男女二人が必要であり、人口維持のためには合計特殊出生率2.07が必要になる。
この状況では、一世代で四分の一の人口が減っていくことになる。「団塊の世代」の子どもたちの第二次増加以降、1975年からは出生児数は減少し続けている。少子化は今に始まったことではない。
(厚生労働省の人口動態統計)
【晩婚化と生涯未婚率の増加】
現在、男女お互いの対象者は「団塊の世代」と比べれば半数以下になっている。1クラスに50数人もいた頃と比べると、人数的にも出会いの機会が減少しているのだろうか?2017年の国立社会保障・人口問題研究所の報告によれば、初婚年齢は、男性30.6歳、女性29.1歳と晩婚化が進んでいる。また、50歳までに一度も結婚していない生涯未婚率も、男性23.6%、女性14.1%と増加傾向にある。平均交際期間(出会いから結婚まで)は4.26年で、恋愛結婚が87.9%を占め、見合い結婚は5.3%に過ぎない。ネットやゲームによって個人で過ごす時間が長く、複数で一緒に何かするといった機会は減っている。経済的な面から結婚や育児ができないという人もいるが、生活様式や価値観などの多様化の影響が大きいのではないか?とも思う。親も誰も婚姻関係に責任は持てず、口出しはできない。結婚はしたくないが、子育てはしたいという人もいる。フランスやスウェーデンのように子育てしやすい環境を作らなければ、出生児の増加は見込めないのだろうか?
生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚していない人の割合)
男性 女性
2005年 16.0% 7.3%
2010年 20.1% 10.6%
2015年 23.6% 14.1%
(国立社会保障・人口問題研究所)
【女性の社会参画】
結婚や出産時期が遅れてきたのは、女性の社会的参画と密接な関係がある。少子化で労働人口が減少している中、女性の労働力は欠かせないものとなっている。女性の労働能力は、男性と同じ、いや上回っているかもしれない。ある意味で仕事は愉しく、やり甲斐がある。仕事に没頭している内に婚期が遅れることもあるだろう。結婚しても仕事を続ける人も多い。しかしながら妊娠出産では、一旦、仕事を休まざるをえなく、キャリアを積むという意味ではハンディになる。また、育児は女性に限られるものではないが、現状は、ほぼ女性に依存している。仕事と出産育児を両立できる社会的環境の整備が喫緊の課題になっている。
【妊娠しにくい原因】
妊娠しにくい原因としては、女性に卵管閉鎖や子宮筋腫がみつかることがある。排卵障害など卵巣機能に問題があることもある。また、精子を受け付けない抗精子抗体を持っている女性も100人に2人程度いる。このほか腹腔鏡をしてみなければ分からない子宮内膜症などによる卵管癒着もある。男性側の原因としては、精液所見で精子異常が見つかることが多い。セックスレスや勃起不全EDで悩む夫婦もいる。
このほか約3割のカップルは、不妊原因がみつからないのに妊娠されない。この原因として女性加齢の影響が大きい。精子は思春期から造られ出すのに対し、卵子は胎児期に造られて次第に減少していくと共に、質的な低下も起こってくる。このため女性加齢により、妊娠しづらく、流産しやすく、児の染色体異常の発生頻度も高くなる。女性の妊娠出産適齢期は35歳くらいまでと言える。
【望妊治療】
通常の関係がありながら1年以上経っても妊娠していないカップルは「不妊症」との診断で保険診療を受けることができる。「不妊治療」という言葉は、当事者にとって適切な言葉でないと考え、私たちは「望妊治療」という言葉に置き換えている。検査で異常がみつかれば、先ず原因を取り除くことである。卵管の閉鎖や癒着などは腹腔鏡による手術も考えられる。男性も精索静脈瘤による精子異常では手術の適応がある。しかし残念ながら、手術すれば必ず妊娠できると言えるものではない。排卵を推定するタイミング法や人工授精(子宮腔内精子液注入法、受精の場である卵管膨大部に精子を近づける)を試みることもあるが、これらは、卵管に異常があったり、抗精子抗体強陽性であったり、精子異常の程度によっては行う意味がない。何らかの治療を行うことは、それ自体が検査的な意味合いもあり、同じ治療の繰り返しだけでは妊娠の見通しは中々立たない。みつかった原因や女性の年齢によっては、体外受精を急ぐことになる。
【治療環境】
2017年の国立社会保障・人口問題研究所の報告によれば、妊娠しにくいと心配したことがある夫婦は35%、中でも子どものいない夫婦では55.2%にも上る。子どものいない夫婦の28.2%が医療機関を受診したことがあり、現在も治療中と9.2%が答えている。望妊治療は、まとめて数日間の休みを必要とするものではなく、卵子の成熟に合わせての検査や治療が必要になる。一日数時間で良いのだが、およその見当はついていても月に2~4回程度の急な受診が必要になる。こういった理由から仕事と望妊治療の両立は難しく、退職や働き方の変更を余儀なくされている現実もある。労働力不足など、多くの課題を抱える日本において、子どもを希望する人が、仕事をあきらめることなく、治療に向き合えるような社会的な理解が進むことが望ましい。
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