人手不足の行く末

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今後50年間の人口の推移は、生産年齢人口の急速な減少(7728万人から4529万人へと約3200万人の大幅な減少)が明らかになった以上、それまでの議論(経済は拡大することや成長は良いことなど)は封印しなければなりません。また、労働力の不足をITやAIによって解消するような議論も1次、2次産業に対しては「今まで通り」通用しますが3次産業特に対人サービス業には通用しないうえに、その効果も限定的です。

重要な点は、人口減少に伴う労働力不足が重大な問題であるとの議論は、すべて「企業側」の考え方に沿って行われていることに注意する必要があります。企業にとっての良いことと、日本住民にとって良いこととは異なるのです。例えば、公害訴訟は、当時の企業にとって厳しい問題でしたが、結果的に直接被害を受ける住民だけでなく、一般国民にも恩恵がありました。自動車の排ガス規制は自動車産業にとっては受け入れることが困難な規制でしたが、住民には非常に好ましい結果でした。同様に、人手不足は企業にとっては大きな問題ですが、日本住民にとっては違った面が見えるのです。

ここで大切な視点は、人手不足が深刻なサービス業は、人に対するサービスであることを再認識しなければなりません。諸外国に比べて過剰な日本のサービスは、労働者の犠牲の元に行われていることを認識する必要があるのです。第一に、従事者の所得が低いこと、第二に、客の意向を過剰に意識すること、などです。第二の点は、日本的な「おもてなし」であり、それが美徳と考えられていますが、他の業界から対人サービス業へと移る場合は心理的負担となるでしょう。サービスについての感覚は、日本と諸外国では異なります。例えば、ロンドンの地下鉄が定刻に遅れた場合の不満に対して、企業側は大きなポスターを貼ります。それには、マハトマ・ガンジーの言葉を引用して次のように書かれています。「人生にはスピードを上げるよりも大事なことがある」と。(週刊ダイヤモンド記事より)。

人手不足に対して、現在のような外国人労働者の導入方法が良いとは、多くの人は考えていないでしょう。現在の技能研修制度を基にした外国人労働者の導入を中止すると、企業は人手不足に悩むかもしれません。しかし、この悩みは、売り上げを維持しようとする日本の企業の習性であり、また、GDPを重視する政府の姿勢に過ぎないのです。サービスを減少させるのは、習慣を少し変えるだけのことかも知れないのです。外国人労働者の導入を禁止すると、急速に人手不足感が高まり(女性、高齢者の労働市場参入は限界であるため)、それでも売り上げを保とうとする企業の姿勢から、サービス業に従事する日本人労働者の賃金は大きく上がります。特に3次産業を中心とした非正規労働者と言われる時給で働いている人の給与が急速に上昇するでしょう。そして、物価 特にサービスの価格は給与の上昇に伴って上がり始めます。この時点では、サービスの縮小は起こらず、利益が高く、給与を上げる余裕を持った企業のみが労働者を確保し勝ち残るのです。しかし、さらに労働力不足は深刻となって勝ち残った企業もその負担に耐えられなくなり、労働者の数に応じてサービス自体の縮小が始まります。

宅配は一定の時間にしか配達しないようになり、小売業は営業日の短縮(週に1回の休業日)や営業時間の縮小、飲食店はサービス形態の変更(カフェテリア方式がさらに広まり、従来型のテーブル注文方式での価格の上昇)や定休日を増やしたり、深夜営業の廃止や対人サービス(理髪店、美容院、エステサロン、風俗業など)の価格上昇、清掃業などの賃金の大幅な上昇に伴う価格の上昇、ネットを通じたサービスなどの料金の高騰が起こるでしょう。その結果、人々は、今まで普通に提供されていたサービスが、実は非常に貴重なものであることに気付くのです(自分で出来ることが多いことにも気付きます)。物の不足や、金融の問題によってのインフレーションでなく、賃金の上昇によるインフレーションは、まさに政府の求めるインフレーションにほかなりません。そして、今までの給与格差(製造業とサービス業の間)が急速に縮むことになるでしょう。

外国人労働者を制限し、自然な人口減少に沿って日本の構造を切り替えることは、考えられているほど難しいことではありません。その反対に、サービス量を維持したままでは、大量の外国人労働者が必要です。年間30万人~50万人の外国人労働者が流入すれば、20年後には、外国人労働者の数は、1000万人に届きそうです。これは、日本人口の10%に近づく数値です。

 

私たちの選択は、次のどちらかです。


① 外国人研修制度を廃止して、留学生の就労目的での訪日を制限する。そして外国人単純労働者の受け入れを、全体として一定数に制限すること、(但し高度な技能労働者や難民の受け入れを拡大する)。
サービス価格の上昇を受け入れて、サービス業に従事している労働者の賃金上昇を促すと共に、サービス自体の縮小や人口減少の現実を受け入れること。そして国際的に尊敬されるような外国人の受け入れを行うこと。

 

② 現在の外国人労働者の受け入れを企業の求めに応じて拡大し、サービス量を維持すること、但し技能実習という建前を外して実質的に外国人の移民を大量に受け入れることを国民が納得する。


① か②のいずれかです。

 

最悪のシナリオは、国民の納得無しに現状の留学生や外国人技能実習生を企業の求めに応じてダラダラと拡大し、気付いた時には意に反して日本独自の文化を守ることが不可能になることです。

フリーライター渡辺嗣郎(わたなべ しろう)
専門は社会福祉全般。日本が抱える様々な社会的課題について、歴史×思想×政治×経済×世界…様々な視点から独自の理論を展開する。

専門は社会福祉全般。日本が抱える様々な社会的課題について、歴史×思想×政治×経済×世界…様々な視点から独自の理論を展開する。

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