1995年から2015年までに、大幅な生産年齢人口の減少があったにも拘らず、女性の労働力率の上昇と高齢者数の増加によって、何とか労働力人口の減少を食い止めることが出来たのですが、今後は、過去のようにはいかないでしょう。
人口問題研究所は2017年7月、今後50年間の人口推移についての推測を発表しました。その出生中位集計では、日本の人口は2015年の段階で1億2,709万人ですが、50年後(2065年)には、8,808万人になると推計されています。3901万人の減少です。この間の生産年齢人口の減少は、7728万人から4529万人と約3200万人の大幅な減少です。1995年から2015年までの20年間でも、生産年齢人口は930万人の減少を経験して、その減少を、女性の労働力率の上昇と、高齢者の労働力数の増加によって何とか切り抜けてきました。その数(930万人)の3.5倍(3200万人)の減少となると、対応の方法がもはや無いことが分かります。女性の労働力率は欧米並みに上がっているし、高齢者の増加はありません(2015年3386万人から2065年3381万人)。但し、この数値は、出産数の増加などによって余り変化するものではないことに注意が必要です。ほぼ確定に近い数値なのです。
一方で、産業構造上の労働力の配置は次のようになっています。
図5;総務省統計局資料 1次2次産業の就業者数は30%程度、残りの大部分が3次産業
日本の産業構造は1次産業と建設業を加えた2次産業で、労働者の30%を占めていて、残り70%は3次産業が占めています。1次、2次産業の大部分は、合理化や省力化が可能です。同時に生活に欠かせない食糧や生活物質の生産です。これらの産業の比率は将来多少下がりますが、それ以上省略することが出来ません。そして特徴的な事は、これらの産業は、IT化に最も向いていることです。現状ではその努力が不十分ですが、今後は人手不足も加わりIT化が加速するでしょう。従って、2065年に向けて就業者数が大幅に減少しても、労働生産性を大幅に上げることによって対処は可能となるでしょう。それに対して3次産業特にその中でも対人サービス業ではどうなるのか。IT化が最も困難な物は、対人サービス事業です。現在人手不足が深刻な産業に一致しているのです。3次産業の中でも職種別分類で、事務職などはIT化が可能ですが、対人サービス職種はIT化が困難です。総じて、対人サービス業を含む3次産業は、金融業などを除くと1次2次産業よりもIT化は難しいのです。
ここで問題は、企業にとっての良いことと、日本住民にとって良いこととは異なることを認識すべきです。例えば、排ガス規制は自動車産業にとって厳しい規制でしたが、住民には非常に好ましいことでした。同様に、人手不足は企業にとっては大きな問題ですが、日本住民にとっては違った面が見えるのです。人手不足は、1次2次産業においては急速なIT化を促す原動力です。人件費とITに対する設備投資の比較では、人件費がIT投資を上回ることが条件なので、その点、人件費が比較的高い製造業は引き続きIT投資を行いやすいのです。
その結果、多少のタイムラグはあっても、賃金の上昇と労働者の減少が引き起こされ、それを補うべく、IT投資は盛んに行われるでしょう。かつての機械化に対する反対運動は、労働力の縮小を強いるものでしたが、現在の日本では、労働力の減少が先行するのです。これに対して3次産業特に、IT化の難しい対人サービスを主体とする分野では、どのように考えるべきでしょうか。
ここで大切な視点は、サービス業は人に対するサービスであることを再認識すべきです。サービスを減少させても、それは習慣を少し変えるだけの事かも知れないのです。具体的には、労働力の減少に伴って求められることは、営業時間の縮小あるいはサービスの縮小です。小売業は、就業人口の18%を占めていますが、深夜営業や営業時間の短縮によって労働力は30%程度減少するでしょう。これに対して、売り上げは多少の減少に留まることが予想されます。但しこの場合、労働力の不足が顕著でない場合、例えば現在の様に部分的な外国人労働力で補っている場合は、日本の売り上げ至上主義によって、変化を促すことが出来ません。宿泊飲食業も就業者数の7%を占めていますが、IT化を行うよりも、営業時間の縮小、営業形態の変更(テーブル注文からカフェテリア方式への変更など)によってIT化でなく、就業人口の縮小に対応するでしょう。
いずれにしても、生産年齢人口の大幅な減少を、かつての様に女性と高齢者によって補うことが困難である以上、規模の縮小こそが唯一の手段となるのです。そして、これは企業にとって短期的には難しい状態を招くことになりますが、この方法を取れば、人口減少に伴う少子化を乗り切ることが出来る可能性があります。運送業でも同様です。現在のような安価で、24時間サービスに近い、あるいは、コンビニに1日何回も出荷するような形態でなく、高いコストを前提とし、サービス量を縮小すれば、例え人員を縮小しても生活は十分成り立つのです。
この様に、現在のサービスを維持しようとしないで、賃金の上昇を容認し、サービスの縮小を行えば、頻回の使用をやめる動機づけを与えることが出来ます。労働人口を制限すると、製造業のIT化に伴う過剰人員のサービス業への移動を促進し、過度の低賃金での労働者の雇用が出来なくなり、賃金の上昇と共に、サービス量の適正化が図られるのです。
問題は、現在の目的無き外国人労働者の導入です。外国人自体の日本への在住は、多様化を促し、必ずしも悪いことではありません。しかし、現在の様に短期間の低所得作業に外国人労働者を多量に導入するのは最悪の方法です。現在は1年間に約10~15万人の外国人労働者の増加ですが、労働力不足が叫ばれ企業の論理で政治が進むと、より規制が緩くなり、現在以上に低所得作業への外国人労働者の導入が進む可能性があります(労働力不足を企業の都合で解消するには、年間40万人の外国人労働者が必要)。日本政府あるいは日本国民が外国人との共存を望んでいないにも拘らず、労働力としての外国人の導入は、あたかも人間性を欠いた機械としての労働を求めているに等しいと言えるのです。私たちは、決断しなければなりません。外国人労働者を制限して労働力減少を容認し、自国内で完結する体制を取るのか、それとも、門を開いて外国移民を歓迎し、多様化した社会を選ぶのか、その選択が求められているのです。
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