テレビ番組などで「人生の最後にどんな物を食べたいですか?」といった質問を聞くことがあります。多くの方は自分が本当に一番好きなものを挙げていきます。焼肉、とんかつ、すし、ラーメン…。しかし、残念ながら多くの人たちはそれらを最後に食べることができません。
なぜなら、ある日肺炎になって入院した場合、世界的にも珍しい「禁飲食」という指示が出され、その後一生食べられなくなる人もいます。つまり、入院前に何気無く食べたその食事が、人生最後の食事になるかもしれないのです。しかも残念なのは、このようなことは日本独特の「文化」として存在しているのです。
さて、昨年から地元新宿にて「最期まで口から食べられる街づくりフォーラム(略してタベマチフォーラム)全国大会」を主催しています。昨年は第1回目にもかかわらず500名近い参加を受けて開催しました。本年も9月2日に開催予定で、継続していこうと考えています。では、なぜ「最期まで口から食べられる街づくり」なのか。ここに日本を変えるキーがあると考えています。
口から食べられなくなる用件は次の3つです。
① 口から食べる機能が低下してしまう。
② 口から食べる意欲が低下してしまう。
③ 口から食べる権利が奪われてしまう
ことです。
①に関しては、脳血管障害や神経性疾患のようなものに起因し、咀嚼や嚥下機能が低下してしまうことがあります。私自身もこのような方にお会いする機会がありますが、誰もが理想的によくなることは少なく、毎回対応に苦慮します。また、②については、様々な理由から食欲が低下してしまう方が居ます。例えば末期がんのような状態で抗がん剤の副作用などもあり、食べ物を見るだけで気持ち悪くなるといった方も居ます。また、体力低下が激しく、食べる気にもならないというケースもあります。③は驚きなのは、医療者から食べる権利を奪われている方が多くいるということです。
現在、日本人の死因の第3位は肺炎です。実は肺炎で亡くなる方のほとんど(約96%)が高齢者です。現代日本社会で起きている方は誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者が増えているということです。誤嚥性肺炎を発症して入院してしまうとそれだけで「禁食」という指示を出される方が多く居ます。高齢で体力が低下した方が数日禁食されただけで、体力と共に嚥下機能も低下してしまいます。禁食を指示する医療者のほとんどは、食べるためのリハビリなど知らない方たちです。そして「一生口から食べてはいけません。胃ろうにしなさい」と言われます。本当に禁食していた方がいいのでしょうか。本当に一生口から食べられないのでしょうか…リハビリもしないでそのようなことが分かるのでしょうか。さらに「念のために禁食」だとか「誤嚥性肺炎予防のために一生食べてはいけない」」といった恐ろしい誤解が日本の医療界に浸透しています。口から食べないから誤嚥性肺炎のリスクが大きくなるというのに。
間違いなく言えることは、このような医療者の言葉で、食べる権利を奪われている方がたくさんいるということです。
さて、食べる権利を奪われないためにどうすればいいのでしょうか。もちろん医療職の意識改革が一番ですが、そこから始めるのは不可能です。食べさせない文化を作ったのは医療職ですから。食べる権利を主張しなければならないのは市民自身です。「食べたいのに食べさせてもらえない」のは権利を奪われているという他ありません。しかし、「禁食」の指示が出た時、本人や家族が医療者の指示を拒否できるのか…というと、それは不可能です。そうであるならば、専門職、一般の方たちを含め、皆が食べる行いの重要性を認識し、食べられるようになる可能性と食べられなくなってしまう両方の可能性があることを理解して頂きたい。そしてその上で代替手段もあることも知識として持っているコミュニティーを作っていくことが重要ではないでしょうか。食に対する社会教育を行っていくことこそ「最期まで口から食べられる街づくり」と考えています。
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