安倍内閣の特徴を言えば、マネジメントが優れていると言えるでしょう。具体的には、北朝鮮の脅威を逆手に取り、国民の支持を取り付け、消費税の増税を回避し、支持率を保つこと等が挙げられるでしょう。また、選挙に強いこと(選挙はマネジメントが最も発揮されるイベント)は会社に例えると、素晴らしいマネジメントを行って、業績が向上している状態です。しかし、一方では批判的な論調が示すように、構造的な問題を先送りしていると言えます。財政赤字の問題や貧困の解消、あるいは、その原因となっている所得格差などについては、言及をするけれども、対策は不完全なのです。対策が不完全になる原因は明らかです。これらの構造的な問題は、いずれも、大多数を占めるいわゆる「現状に満足している人」に対して負担を求めるからです。この様な「現状に満足している人」は、現在の社会制度に概ね満足しているので、制度の変化に対して保守的です(制度を変えたがらない、外国人に不寛容、個別主義を嫌う)。同時に、所得階層の中間部分を占めています。この範囲外にあるのは、障害者や外国人、さらに性的マイノリティの人たちや貧困層であり、国民の少数派で現状に満足していない人達で、人口のおおよそ10%~15%を占めていると思われます。制度の変化は文化の変化に伴うことが多いので、緩慢な変化にならざるを得ません。しかし、時には制度の変化が文化の変化を促す場合もあります。制度の変化を主導するのは、強い理念を持った指導層がいる場合です。
資本主義が進展していくにつれて、格差が生まれることは避けられません。保守的に行動しても、資本主義の中にいる以上格差に直面します。格差を是認する考えもありますが、多くの場合格差は社会の不安定要因となります。資本主義がその内部に格差を生じる機構を持っているとすれば、もはや、現状維持の考えを捨てて、格差の是正に動かなければなりません。この為には、①資本市場に介入して格差の解消を求める方法と、②再分配によって、格差を少なくする方法が考えられます。何もしない場合は格差が拡大します
歴史的に格差は、戦争、革命、疫病、飢餓などによってのみ是正されています。同時に、制度変化が不十分な場合、市場取引によっては、所得配分の是正が図られないので(本来は市場での配分によって平等化を図ることが望ましい)、国家による再分配機能が必要となります。再分配機能の必要性が増えることによって(市場機能では不平等を補いきれない)、国家財政の過半を占めるのは、今や、社会保障関連費用となっています。
この様な社会保障による再分配をどの様にするかが問われる場合、最も必要なことは、社会保障政策がどの様な考えに基づいて行われているのかです。基本的理念となるのが、普遍主義的社会保障政策か、選別主義的社会保障政策のどちらを取るかなのです。普遍主義的社会保障政策は、社会保険が代表格です。あるいは、最近少し話題になっている、ベーシックインカムなどです。普遍主義的政策は、一定の分配を所得と無関係に行います。選別する必要が無いので、不正や不公平さが起こる余地が無いのです。例えば、高等学校の無償化において所得と関係なく政策を実施すると、事務作業は簡単になるので、不正が起こる余地がありません。しかし、膨大な予算が必要です。反対に、選別主義を取ると、一定の所得以下の生徒のみに給付を行うので、どの程度の所得階層から無償化にするのか、あるいは、段階的に給付を増やすとすればどの程度で線を引くのかなど、非常に複雑な制度になるのです。しかし、予算の総額は自由に設定することが出来ます。給付のハードルを低くすると、多くの人が給付を受けることが出来るようになりますが、給付のハードルを高くすると、給付を受けることができるのは少数となります。
社会保障政策が概ね普遍主義となっているのは北欧諸国を先頭とした、ヨーロッパに多いようです。逆に、選別主義を取っているのはアメリカです。普遍主義政策を取る北欧をはじめとしたヨーロッパ諸国は、その代償として、多額の社会保障費あるいは税を負担しています。その反対に、選別主義政策をとるアメリカの国民負担は少額です。
日本の場合、この様な「理念」から発生した政策でなく、取り敢えずの場当たり的な社会保障政策が多かったので(医療保険や介護保険の創設時はしっかりとした考えがあったようですが)、普遍主義と選別主義が入り混じっています。かつては、中福祉中負担など訳が分からない事を平気で言っている政治家もいました。
この様に、日本においては、理念が不足していることが明らかです。制度の発足時は、概ね一般受けする普遍主義的な政策を取り、財政的負担が増えると同時に選別主義的政策に代わっているようです。これでは、国民にとって将来の不安がどちらに転ぶのか(自分が給付される方に回るか、負担する方に回るのか)、はっきりしないのです。日本の現状からは、消費税などを大幅に上げない限り(20%程度)、普遍主義的政策は不可能でしょう。注意すべきは、選別主義的政策は、容易に批判できるので(生活保護受給者に対する批判など)、考え方をしっかり確立する事、そして、国民に対する説明を丁寧に、何回も行うことが必要です。この様な手続きを丹念に行っても批判が多いようなら、それは「国民」の責任と言えるでしょう。
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