第2回懸賞論文募集 募集テーマ 日本の人口減少を考える~50年後の社会のシステムはどう変わる?~ 開催にあたって 最近の日本における論評において、少しずつ人口問題の重大さが認識されてきました。人口減少問題は短期的な変化ではなく、気候変動問題と同じように徐々に影響が強くなる出来事です。影響の大きさからは、日本で最も大きな問題であることは確かです。少子化対策を行っても、現在の生まれる子供の数は、20-30年後にならないと、社会に影響を与える段階にはならないのです。気候変動が小さな変化が積み重なり、やがて大きな気象の変化につながることと似ていると言えるでしょう。	国立社会保障・人口問題研究所の集計では、日本の2020年の人口は1億2,615万人でした。そのうち日本人の人口は1億2,340万人です。従って、2020年時点での外国人は275万人程度です。約50年後の日本の人口は8,700万人と推計されています。そのうち日本人は7,761万人、外国人は約940万人となります。総人口に対する外国人の人口比率は2020年の2%あまりに対して10.8%を占めます。このような状態は、多少の誤差はあるにしても、かなりの確率(多分50%以上)で生じるでしょう。この状態を条件として、日本社会がどのようにあるべきかを考えなければなりません。多くの論説は、このようにならないために、日本人の人口を減少させない方法、あるいは、総人口を減少させない方法(外国人の移民を受け入れること)を説くものが多いようです。しかし、確率的に最も多い上記の状態に対して、どのようにするべきかを提案するものはあまりないのが現状です。	今回の懸賞論文は、実際に高い確率で生じる、約50年後、2070年の日本社会(総人口8,700万人、うち外国人人口940万人の社会)を想定し、どのような社会システムを作るべきかを提案していただくものです。	提案されたシステムが、今後50年間で実行できるようなものとしてください。

Announcement 結果発表

多数のご応募ありがとうございました。
審査員による厳正な審査の結果、
入賞作品が決定しましたので、発表いたします。

  • 最優秀賞
    1名 賞金50万円
    該当なし
  • 優秀賞
    1名 賞金30万円
    該当なし
  • 佳作
    2名 賞金10万円
    入賞 2名

    池松 俊哉さん

    「農業の後継者不足解消へ向けて」

    東 大史さん

    「畜産牛のスマート放牧による、農地の粗放管理」

Judge comment 審査員コメント

山陽新聞社 論説委員会 論説主幹 岡山 一郎
約50年後、2070年における日本のあるべき社会システムの提案を求めた今回の懸賞論文では、教育、農業、介護の各分野の将来像を示す応募があった。問われたのは半世紀も後の姿を描く大胆で革新的な大きな構想だろう。一方で、それが実現する可能性も当然ながら必要になる。結果として農業分野の2名が佳作になった。選ばれた理由は、両者とも自らの体験に基づく地に足の付いた提案で実現可能性が高く、説得力があったことが大きかったと思われる。ただその分、大きな構想というには力不足の側面もあって、佳作にとどまることになった感がある。今回の審査で、大きな構想と実現可能性の両立の難しさが浮き彫りになったと言えるかもしれない。
岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域 元 特任教授、岡山大学病院 緩和支持医療科 医師 松岡 順治
論文の前半、研究の進め方と成果、後半の社会への提言について分けて講評させていただきます。人文科学の論文においては、研究の成果は科学論文と異なり数値的データのみならずさまざまな先行する参考文献に対する深い洞察により導かれます。研究の成果と提言の関係は、論理的で一貫性のある展開が求められます。提言は研究成果を発展させる形で提示され、学術的・社会的意義を示すものが求められます。また提言は実現可能なものであることが求められます。
今回の論文では日本の人口が減少し外国人の割合が高まると予測される50年後の社会において、どのような社会システムが必要であるかを、分野を設定して述べよというものでした。論文の多くは文献をそのまま用いたもの、あるいはすでに社会的に認知されているものをそのまま成果として用いたものが多く、事象に対する洞察が少なく独自性に欠けているものが多かったように思われます。これは昨年の論文審査においても指摘されているところです。このことから最優秀、優秀に当たる論文がなかったものと考えます。さらに実現可能性についても相当困難が伴うものが多かったように思います。
佳作の2篇については自身の経験をもとにしてすでに活動をしているという点が審査員に評価されました。どちらも農業人口の減少の一因を低賃金に求めそれを改善するという提言を行なっています。強いて言えば、賃金を増やすことが農業人口の増加につながり社会のシステムを変えることができるかどうかについてもう一歩踏み込んだ考察があったら良かったように思います。来年度はさまざまな社会現象に対する深い洞察と提言がみられるものと期待しています。
(公財)橋本財団ソシエタス総合研究所 主任研究員 井上 登紀子
今回の懸賞論文では、最終審査に残った7件が応募者の経験や多様なデータを基に具体的かつ新しい視点で分析され、興味深い提案が目立ちました。受賞した池松氏と東氏の論文は、農業分野の課題に実体験を基に現実的かつ独創的な解決策を提示しました。池松氏は、農業後継者不足への対応として教育改革や全国規模の支援システムを提案し、東氏は耕作放棄地の活用を畜産牛のスマート放牧による粗放管理で実現するアイデアを示しました。また、大谷氏の介護分野に関する論文は、社会的弱者への負担集中を指摘するとともに、労働不足への解決策として介護労働の普遍化を提案し、新しい社会システムの構築を模索するなど、新しい視点での論考が光りました。