
審査員コメント
- 山陽新聞社 論説委員会 論説主幹 岡山 一郎
- 約50年後、2070年における日本のあるべき社会システムの提案を求めた今回の懸賞論文では、教育、農業、介護の各分野の将来像を示す応募があった。問われたのは半世紀も後の姿を描く大胆で革新的な大きな構想だろう。一方で、それが実現する可能性も当然ながら必要になる。結果として農業分野の2名が佳作になった。選ばれた理由は、両者とも自らの体験に基づく地に足の付いた提案で実現可能性が高く、説得力があったことが大きかったと思われる。ただその分、大きな構想というには力不足の側面もあって、佳作にとどまることになった感がある。今回の審査で、大きな構想と実現可能性の両立の難しさが浮き彫りになったと言えるかもしれない。
- 岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域 元 特任教授、岡山大学病院 緩和支持医療科 医師 松岡 順治
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論文の前半、研究の進め方と成果、後半の社会への提言について分けて講評させていただきます。人文科学の論文においては、研究の成果は科学論文と異なり数値的データのみならずさまざまな先行する参考文献に対する深い洞察により導かれます。研究の成果と提言の関係は、論理的で一貫性のある展開が求められます。提言は研究成果を発展させる形で提示され、学術的・社会的意義を示すものが求められます。また提言は実現可能なものであることが求められます。
今回の論文では日本の人口が減少し外国人の割合が高まると予測される50年後の社会において、どのような社会システムが必要であるかを、分野を設定して述べよというものでした。論文の多くは文献をそのまま用いたもの、あるいはすでに社会的に認知されているものをそのまま成果として用いたものが多く、事象に対する洞察が少なく独自性に欠けているものが多かったように思われます。これは昨年の論文審査においても指摘されているところです。このことから最優秀、優秀に当たる論文がなかったものと考えます。さらに実現可能性についても相当困難が伴うものが多かったように思います。
佳作の2篇については自身の経験をもとにしてすでに活動をしているという点が審査員に評価されました。どちらも農業人口の減少の一因を低賃金に求めそれを改善するという提言を行なっています。強いて言えば、賃金を増やすことが農業人口の増加につながり社会のシステムを変えることができるかどうかについてもう一歩踏み込んだ考察があったら良かったように思います。来年度はさまざまな社会現象に対する深い洞察と提言がみられるものと期待しています。 - (公財)橋本財団ソシエタス総合研究所 主任研究員 井上 登紀子
- 今回の懸賞論文では、最終審査に残った7件が応募者の経験や多様なデータを基に具体的かつ新しい視点で分析され、興味深い提案が目立ちました。受賞した池松氏と東氏の論文は、農業分野の課題に実体験を基に現実的かつ独創的な解決策を提示しました。池松氏は、農業後継者不足への対応として教育改革や全国規模の支援システムを提案し、東氏は耕作放棄地の活用を畜産牛のスマート放牧による粗放管理で実現するアイデアを示しました。また、大谷氏の介護分野に関する論文は、社会的弱者への負担集中を指摘するとともに、労働不足への解決策として介護労働の普遍化を提案し、新しい社会システムの構築を模索するなど、新しい視点での論考が光りました。
募集要項
- 募集テーマ
- 日本の人口減少を考える~50年後の社会のシステムはどう変わる?~
- 募集内容
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約50年後、2070年の日本社会(総人口8,700万人、うち外国人人口940万人の社会)を想定し、社会の色々な分野【社会保障(介護・医療・保育など)、運送業、製造業、農業・漁業、教育、宿泊・飲食サービス 等】について、分野を特定し、そのシステムをどのようにするか、そして人々の消費生活がどのようになるかをデータと経験に基づき述べてください。
ただし、以下の点に考慮して述べること。
- ①人口を減少させない方法についての論文は対象外です。
- ②人口が減少する過程については述べる必要はありません。
- ③外国人の導入、外国人との付き合い方のみについてのものも対象外です。
- ④高齢者の活用も、その内容がユニークなもの以外は対象外です。
- ⑤AI等を使っての方法は、一般的なものでなく、具体的に記載してください。
- ⑥都市部と地方の人口格差の問題についてのみを論じたものも対象外です。
※10,000字程度。
※日本語での応募に限ります。
※500~600字程度の要約も必要です。
(図表および参考文献は文字数に含みません) - 募集期間
- 2024年4月1日(月)~9月30日(月)
- 応募資格
- 日本国内に居住されている方(年齢・性別・職業・国籍不問)
※反社会勢力と関わりのある場合は審査対象外とさせていただきます。
- 応募規定
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- 日本語で執筆された、10,000字程度の論文
(図表および参考文献は文字数に含みません) - 500~600字の要約もご用意ください。
- A4用紙縦置き、横書きで、要約・図表を含め1ファイルに収め、PDF形式で保存し、提出してください。
- 1ページ目に「執筆者の氏名」と「所属組織名」、「論文タイトル」「要約」を記載し、
2ページ目から本文を執筆してください。 - 参考文献は該当箇所を明記の上、論文の最後に詳細を記載してください。
- 日本語で執筆された、10,000字程度の論文
- 応募方法
- ※募集期間は終了しました
- 表彰
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最優秀賞 1名 賞金50万円
優秀賞 1名 賞金30万円
佳作 2名 賞金10万円※応募状況および審査の結果により変動する場合があります。
- 審査方法
- 有識者で構成された審査委員会で審査を行います。
主催・お問い合わせ
公益財団法人 橋本財団 Opinions懸賞論文事務局
info☆hashimotozaidan.or.jp
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