

今年も共通テスト、私大入試が終わり、入試シーズンが始まっています。国公立大学の二次試験もいよいよ始まり、高校の一般入試ももうすぐです。自分の専門である英語の問題を解くことは当然として(それすらしない教員も多くいますが)、他教科・科目の問題にも目を通しておくことは、この時期のルーティンとなっています。「元」教員となった今も惰性でやってしまいます。最初の学校は、共通テストが終わった翌日から職員室で問題の感想や寸評が飛び交う学校でした(今考えると、とても恵まれた環境だったように思います)。そうした先輩たちの話題にキャッチアップするために必死で勉強したことを覚えています。
今年の共通テストは、作問者からのメッセージがよく見えるものだったように思います。国語では、遠藤周作の小説が出題されました。ヴァイオリニストだった母親が社会規範によって主婦へと押し込められてしまったことへのアンビバレントな気持ちが綴られた作品と言えます。作品の魅力を縮減してしまう言葉ですが、女性のキャリア形成における葛藤が描かれた作品です。しかも、回想の主な舞台は旧植民地の大連であり、解答しながら受験生が旧植民地での生活をしのぶことができます。世界史では「ベルサイユのばら」から出題がなされ、そこでもジェンダーギャップがトピックとして提示されていました。地理では、外国人や移民の国際比較を通じて間接的に多文化共生について扱っていました。近年になく現代的な社会問題をテーマとして扱う問題が多くあったように思います。共通テスト以外でも、灘中学校の国語でガザ、パレスチナを描いた詩が出題され、話題となりました。
毎年、イラストや漫画の出題といった、取るに足りない些末な部分がメディアやSNSを賑わせます(今年は大学入試センターが、問題のSNS投稿を禁じたので少なかったですが)。しかし、本当に話題にすべきは日本全国で実施されるナショナルテストといえる共通テストの作問者がどのようなメッセージを発しているかということです。
入試問題は作問者・設置主体からのメッセージを伝えるメディアであると私は考えています。その学校で学ぶ候補者である受験生が、最も真摯に向き合うものが入試問題です。向き合う際の真剣度を比べれば、Webサイトやパンフレットとは比較になりません。そう考えれば、入試問題というのは学校の設置主体が、受験生に対して直接的にメッセージを贈り、コミュニケーションをとることのできる数少ない貴重な機会です。自分たちがどのような価値観を大切にし、受験生がどのような文章にふれ、どのような事柄に注目してほしいかを伝えるチャンスです。
入試問題の射程は受験生だけに留まりません。入試問題は、その後数年間にわたって過去問題集に収録されます。実際に入学する人だけでなく、その学校を目指す多くの受験生が真剣に取り組みます。これだけ広汎な人々が、これだけ真摯に向き合ってくれる広報ツールは他にありません。そうであるならば、学校・教育委員会といった設置主体を問わず、自分たちの大切にするメッセージを伝えるメディアとして入試問題をとらえ、作問していくべきだと思います。そして、それは若者の知的成熟に資するものでなければならないと私は強く主張します。毎年50万人規模で受験する共通テストのようなナショナルテストであれば、なおさらです。
私は高校入試、大学入試に様々な立場で関わってきました。作問に携わったこともあります。これまで数多くの問題にふれてきました。若者の知的成熟に資するメッセージ性を作ろうというパッションと気骨のある作問者が作った問題は、解けば、読めば、わかります。パッションのある作問は作問者の責務であり、使命であると私は考えます。ただ残念ながら、何のメッセージも感じない入試問題が世の中に多くあるのも事実です。共通テストの英語やTOEICなどは、その最たる例でしょう。内容のない架空の場面設定の中で、いかに「適切に」振る舞うことができるかが延々と問われています。せめて架空の場面設定の中に作問者の思想を垣間見ることができればよいのですが、それすらありません。
これから高校入試、各大学での入試が行われます。是非、メディアとして入試問題を見つめ、そのメッセージ(の有無も含めて)をご賞味いただければと思います。







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