アニマルスピリッツを失っている日本企業

日本の社会経済的な根本問題は、人口減少とアニマルスピリッツの低下であると、過去何回も述べてきた。アニマルスピリッツの低下は個人にも見られるが(チャレンジしない、無難な道をゆく、保守的排他的傾向など)、企業のアニマルスピリッツの低下は、はっきりと数値上に表れる。もちろん、すべての企業がアニマルスピリッツを無くしているわけではないが、全体として低下していることが統計上で表れている。


(図1)セクター別の純金融資産

日本銀行 資金循環をもとに小川製作所作成


少しわかりにくいかも知れないが、(図1)のグラフは、アニマルスピリッツを失いつつある日本企業の姿を表している。1979年から2019年までの日本の部門別金融資産と負債総額を表している。右上がりに資産を伸ばしているのが、青色「家計」部門である。「家計」部門は、2024年の時点では2200兆円にも登る資産を計上している。「消費を控えて」、「貯蓄を増やしている」わけだ。倫理的には悪いことではないが、貯蓄が増えることはGDPの50%以上を占める個人消費が低迷していることを表している。一般の感覚から言えば、自分たちは、生活が苦しくそんなにお金を溜め込んでいるのではないと思うかもしれない。その通り、この資産は比較的高齢の人と、一部の富裕層に偏った資産配分だ。この部分では、資産課税が有効だろう。

一方企業で特徴的なことは、赤字で表される負債が1979年の200兆円から、1990年辺りの600兆円までは増えているが、それ以降は全く増えていないことが明らかだ。企業が新たな事業を起こす場合には、「借り入れ」が普通である。「借り入れ」が増えないのは、新規事業をあまり行っていない証拠だ。新規事業は当たれば大きな収益を得ることが出来るが、当然リスクを伴う。これを「アニマルスピリッツ」と言う。負債が全く伸びていないのは、新規のチャレンジングな事業を行っていない証拠である。その反対に、緑で表される政府の負債はその間で0円から700兆円まで増え続けている。これは、補助金や減税のための資金である。「アニマルスピリッツ」を減らすために政府が貢献しているわけだ。

一方で企業全体としては、国内への投資はあまり増やさず、輸出や海外への投資は高い(企業買収や金融商品の取得など)。しかし、それではGDP(国内総生産)の増加は望めない。それに対して、政府は何とか国債(負債)を発行して、個人や企業に資金を提供しているが、効果がないようである。特に政府の民間への資金提供は、政府を肥大化し、補助金頼みの個人や企業を増やすこと(依存的な傾向)になっている。まるで社会主義国のような様相を示している。


(図2)日本企業の資産と負債


アニマルスピリッツを失った日本企業は新たな投資をあまり行っていないが、その反対に(図2)黒線で示される純資産は大きく伸ばしている。つまり、企業は投資をしないで資産を溜め込んでいるのだ。その表れは、水色で示される有形固定資産が1990年代半ばから全く伸びていないこと、そして、反対に緑色の企業が所有する有価証券等の資産が、純資産の伸びと同じよう上昇していることに表れている。

まとめると、1990年のバブル崩壊から、日本企業は投資を怖がり、ひたすら自己資産を増やすことに専念しているように見える。政府は財政出動を繰り返し、負債を大きくしている。企業が投資を怖がり、国民が消費を恐れ、その傾向に対して政府が資金をつぎ込むような構図がこの30年間の状態だ。これが日本を覆っている、負債を増やさず、ひたすら資産を増やす、アニマルスピリッツ低下の現れだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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