

会社員 齋藤 裕之(58)
「外国人犯罪」という言葉がニュースで流れるたびに、私は胸の奥がざわつく。恐怖や不安、そして無意識の偏見が沸き起こる。しかし、その印象は本当に現実を映しているのだろうか。
私はかつて中国で大怪我を負い、現地の人々の助けによって命を救われた。真夏の上海港で船積み中に事故に遭い、意識が遠のく中、知り合いの中国人の方が、私の手を握り、救急車を呼んでくれた。六時間にも及ぶ手術を成功させたのは、アメリカで学んだ中国人医師だった。通訳の青年が毎日見に来てくれ、看護師たちがありとあらゆる世話をしてくれた。異国の地で受けたあの温かさは、国や文化を越えて「人の心」を見つめ直すきっかけになった。
帰国後、「外国人犯罪が増えている」というニュースを何度も見た。確かに数字を見れば犯罪は存在するが、私を救ってくれた彼らの顔と、ニュースの中の「外国人」という言葉が、どうしても結びつかないのだ。この個人的な経験と社会の言説との間のギャップこそが、私たちが日本の現状とあり方を問い直すべきサインである。
私は思う。外国人犯罪が増えていると言われる背景には、私たち自身の受け入れ方が映し出されているのではないか。私たちは彼らを必要としている。建設現場、介護施設、農場、工場 -人手不足の現場を支えているのは外国人労働者だ。しかし、心のどこかで彼らを「自分たちより下」と見てはいないだろうか。「嫌な仕事をしてもらうため」に受け入れ、「仲間として」受け入れてはいない。
この態度は、単なる個人の感情論ではない。彼らを一時的な労働力と見なし、永住・定住を見据えた人権や生活環境の保障を軽視してきた日本の制度そのものに深く根ざしている。感謝と敬意を欠いたまま、制度だけで受け入れを進めてきた結果、彼らは日本社会の中にいながら、「非仲間」としてどこか外側に置かれてしまっている。
この構造的な中途半端さこそが、日本社会での孤立や不満を生み、それが犯罪という形で社会の歪みとして噴き出しているのではないか。犯罪とは、彼ら個人の問題であると同時に、私たち自身のあり方を問い直す鏡なのだ。
日本の人口は減り続け、外国人を受け入れることは、もはや選択ではなく必然である。だからこそ、私たちは既得権益を守ることに終始するのではなく、どうやって心の壁を解放し、真の仲間として共に生きる社会をつくり出すかを真剣に考えねばならない。
「理解と尊敬」は、美しい標語で終わらせてはならない。それは具体的な制度と行動によって示されるべきだ。彼らの人権と労働条件を日本人の水準以上に保障し、キャリアアップの機会を確保すること。永住・定住を見据えた日本語教育や地域コミュニティへの参加を、国や自治体が積極的に支援すること。私たち自身が、多文化共生社会への意識を徹底的にアップデートすること。
犯罪は単なる「悪」ではない。それは、いまの社会への問題提起であり、そのメッセージをどう受け止めるかで未来は変わる。もし私たちがそれを“チャンス”ととらえ、制度と意識の両面から外国人労働者と真正面から向き合い、共に生きる社会の形を構造的につくり出せたなら、犯罪は減り、信頼は確かに育っていくだろう。
私の命を救ってくれたのは外国人だった。だから私は、ニュースの中で「外国人犯罪」という言葉を聞くたびに、その裏にある無数の善意の顔と、彼らを孤立させている社会構造を思い浮かべる。恐れや排除ではなく、制度化された理解と尊敬でつながる社会。それこそが、この時代を生きる私たちが築くべき未来だと信じている。







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