

企業にとっては、人口減少が明らかで、保守的な気分が強い日本国内への投資は割が合わないかもしれない。サービス業はともかく、製造業は日本で作っても、海外で作っても同じことなので、生産を需要の高い国の近くで行うことが合理的に思える。この点で企業の利害と、日本政府(日本国民)の利害とは異なることになる。トヨタやソニーが日本の企業だからといって、日本人のために活動しているとは考えないほうが良い。
このような企業と日本の食い違いが起こったのが、三菱商事の風力発電事業からの撤退である。経過を簡単に説明すると、2021年、秋田県能代市沖、秋田県由利本荘沖、千葉県銚子市沖の3海域で、洋上風力発電を主力電源に育てるために、政府が行った国内初の海域占用の入札で三菱商事が3海域すべてを落札した。入札は、完成後に洋上風力で発電した電気をいくらで電力会社に供給する売電価格を基準に行われ、三菱商事の示した価格が群を抜いて安かったためだ。
今回の出来事は、日本の戦略がいかにいい加減なものかを表している。近年の国際関係の緊張以前から、基本的に国の独立にとって必要なものは、食料とエネルギーの自立であるとの考えは一般的となっている。もちろん、その他にも有力国との連携によって、食料とエネルギーを調達する方法、あるいは、外交努力によって他国との関係を良好にして、国内の不足を補うことなどは考えられる。しかし、日本の現状である食料自給率約40%程度、エネルギー自給率も、2022年度の13%から2024年度の推測17%と極めて低いことを考えるべきだ。エネルギー自給率の低下は、福島の原発事故以来、化石燃料の割合が上がっていることが自給率低下の原因である。これらのギャップを埋めるためには、地球温暖化予防と合わせて、再生可能エネルギーの増加が期待される。その柱が、太陽光発電と、風力発電である。太陽光発電は現状で必要エネルギーの10%を占めているが、国土が狭く、山の多い日本では、これ以上大きく増加する可能性は低い。そのために、海に囲まれた日本にとって、風力発電は大きな期待を背負っていた。特に環境への影響が少ない「洋上」風力発電が期待されている。しかし、現状はエネルギーにしめる風力発電の割合は1-2%過ぎず、これを4-8%、あるいはそれ以上に引き上げるのが日本政府の計画だった。
今回の三菱商事の撤退は、一企業としての判断である。違約金は200億程度とされる。その他企業としての撤退に伴う減損の計上はあるにしても、今後の採算性から考えると、早めの撤退を選択することは、アニマルスピリッツの失われた日本企業としては合理的な選択とはいえるかもしれない。しかし、一企業の選択は日本の利害とは大きく異なる。
ところで、日本のエネルギー政策を考えるうえで、どのような発電方式がどの程度の電力を生み出すのかについて考える際、簡単な比較ができることが必要だ。例えば、原発1基と風力発電や、太陽光発電の比較、あるいは日本の総電力需要との関係を簡単に考えることが出来るように大雑把に把握する方法を示したい。
電力の単位はW(ワット)であり、発電力はKW(Wの1,000倍)を使う。メガソーラーのメガワットとは1,000KWを生み出す太陽光発電施設のことだ。日本国内の太陽光発電施設の平均出力は不明であるが(なぜ統計がないのかもわからない)、おおよそ1施設あたり2万KW程度と推定される。これに対して原発の1基あたりの発電能力はおおよそ100万KWである(電力の比較をする際に基準となる)。原発1基は約50ヶ所のメガソーラー施設と発電量からは推測できる。これに対して、風力は風車1基たり1万KW程度であり、風車100基で原発1基分となる。
日本の使用必要電力は最低6000万KWつまり、原発60基分から最高8,000万KW、原発80基分である。メガソーラー施設では3,000箇所から4,000箇所に相当し、風車では6,000基から8,000基に相当する。ただし、発電量は稼働率(実際に電力を提供している時間)によって変わる。つまり実際に風が吹いて発電している時間や太陽が照って発電する時間によって変わる。ちなみに稼働率は、原子力発電80–90 %、洋上風力発電35–45 %、太陽光発電10–15 %である。
このように考えると、原子力発電は日本のエネルギー、特に電力の供給に圧倒的優位を持っていることが分かる。地球温暖化を防ぎ、エネルギー自給を考えて、化石燃料からの脱却を目指すことを前提とすれば、原子力発電が選択肢の筆頭ではある。しかし、福島の事故以来、あるいは原爆の被害を受けた国として、原子力に大きな抵抗がある以上、洋上風力発電は次善の不可欠な候補と言えるものである。そのためには、長期的な視点から、風車材料、送電設備、あるいは蓄電池の国産化を促進すべきであったし、一企業の意向によって、日本の政策が変更されることを防ぐ必要があっただろう。もちろん、企業がアニマルスピリッツをなくして、身近な収支に影響されるような体質に陥っていることも考慮する必要はある。







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