

参議院選挙での各党の主張は、手取りが増えないのは「社会保険料や税金を取りすぎているから」と言う主張が大半であり、解決策としては、社会保険料を下げること、税を減免することなど、国が個人に対して行う対策が大半である。つまり、企業が精一杯賃金を引き上げているが、国がその賃金をかすめ取っているので、少し国民に返したらどうか、と言うものだった。自民党の給付金もこの中に入る。しかし、経済学者の河野龍太郎氏は、『日本経済の死角』のなかで、賃金と企業収益、生産性との関係について、国が引き上げられた賃金をかすめ取る以前に、企業は社員に対して十分な賃金を支払っていないと言っている。
(図1)日本の生産性と実質賃金の推移
河野龍太郎著 日本経済の死角
(図1)を見ると、1998年以降の25年間で生産性は3割上がっているが、賃金は全く上がっていないことがわかる。一般的に言えば、企業が賃金を引き上げるためには、収益が向上しなければならない。つまり、儲けが増える必要がある。儲けを増やすためには、生産性が上がらなければならない。これは常識である。一部には日本で賃金が上がらないのは、生産性が上がらないためであり、生産性を引き上げるためにどのような努力を行うかに焦点が当たっている。しかし、(図1)を見ると、2000年から現在まで、驚くべきことに、日本企業の生産性は3割以上も上がっている。それに対して賃金は20数年前に比べて全く上がっていない。
一般に春闘で、〇〇%の賃上げを獲得したと言われるのは、定期昇給とベースアップを合計した引き上げ率だ。例えば、定期昇給で2%、ベースアップで3%、合計5%の賃上げだと言う。しかし、ある個人は、年功給で毎年給与が上がっても、企業全体として労務費は、ベースアップがない限り、上がっていない(定年で60才の高給の人が除外され、新しく22才の給与の低い新人が採用されるのが年功給の世界)。安倍政権の時代に、ベースアップがない事が多かったのは、給与は上がらないことと同じだったのだ。時間あたりの実質賃金でも、日本の給与上昇がないことは明らかだ(図2)。
(図2)時間あたりの実質賃金
では、企業はどのような行動をしたのか?(図3)にその答えがある。
(図3)企業の収益の使い方
河野龍太郎著 日本経済の死角より
(図3)で示されるように、バブル後の30年間にわたって、特に2000年以降、企業は賃金を引き上げず、内部留保を増やしていた。河野氏が指摘するように、企業は収益を設備投資にも賃金にも回さず、ひたすら内部留保を手厚くしたのだ。そして、株主への配当や自社株買いには、多くの資金を使っている。株主重視の傾向はアメリカ企業と同じようなものである(*1)。
このような傾向は、「収奪的」と言われても仕方がないだろう。また、政府は「2%の物価上昇があれば、デフレ状態を脱出し、賃金と物価の好循環を起こすことが出来る」と述べていたが、現在、物価は3%を超えて国民は物価高への不満を述べている一方で、それに見合う賃金上昇はなく、実質賃金は-2%近くに低下している。これらは、企業の「収奪的」賃金政策から生じていることを理解する必要がある。日経新聞によると(図4)、利益などのうち人件費に回る割合を示す労働分配率(*2)は2024年度に53.9%となり、1973年度以来51年ぶりの低水準だった。
日本経済は複雑に利害が交錯していて、どこから手を付けるべきか難しいが、このデータから見ると、最初に賃金の改善から始めるべきである。労使の交渉に国が出てゆくことは好ましくはないが、もう少し、労働組合の奮起を期待すると同時に、公的に賃上げ可能な部分、つまり、最低賃金額や公的施設の賃金(看護、介護、保育など)の賃上げを行うべきだろう。
(図4)企業の労働分配率の推移
日経新聞より
(*1)略奪される企業価値(ウィリアム・ラゾニック):アメリカ企業は、利益を設備投資や社員への還元に使わず、ひたすら株主への利益提供として、自社株買いや配当に使っている。
(*2)労働分配率:企業において生産された「※付加価値」全体のうちで、労働者に還元された金額の割合を示す。労務費/付加価値で表される。 ※付加価値;総生産額から原材料費・燃料費・減価償却などを差し引いた額。







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