減税よりも優先すべき国家予算の使い道

税収が増えると、ポピュリズム政治家は選挙を意識して、減税を訴え始める。1930年の大恐慌後、世界を救った「ケインズ」が唱えた政策は、不況のときには国債を発行して政府支出を増やし、景気にテコ入れを行う一方、景気が良くなり税収が増えたときには、借金(国債)返済に充てることを想定していたものだった。しかし、景気が回復して税収が増えたときに、借金の返済に税収を使わず、税金の増収分を国民に返すという無茶な政策を行う前に、予算が足りない分野は多い。本来増収分は借金の返済に使うべきだが、それでも国民に返すよりも優先すべき使い道があるのだ。例えば、社会保障分野、国防分野、教育予算である。

まず、社会保障予算。年金、医療、介護に掛かる費用は年間1.5兆円程度の増加しており、そのうち国家予算の負担は約三分の1、つまり年間5000億円以上にのぼる。この数値は、物価上昇に伴って上がっている。しかし、医療、介護予算は増加しているにも関わらず、医療、介護報酬は上がらず、医療、介護職員の給与は一般の賃上げに取り残されている。そして、離職を防止するために賃金を上げざるを得ない医療、介護施設の運営事業者の経営を圧迫している。

防衛費用の増加は、必ずしも好ましいものではない。日本政府は防衛費についてGDPの1%以内との立場を長年堅持していたが、岸田内閣で2%への引き上げを表明している。それによって恒常的に、5兆円程度の費用増加が見込まれる。さらに、アメリカ依存の防衛体制を改善し、日本独自の能力を高めるためには将来的にGDPの3%程度まで増やさなければならない可能性もある。つまり、過去の5兆円程度から15兆円へと、大きく増加する可能性があるのだ。

さらに、最も重要である一方、軽視されがちな教育分野も忘れてはならない。日本の教育予算は多いとは言えない。2025年度予算では、5兆4,029億円だ(科学技術予算を含む)。子ども一人あたりの公的支出の対GDP比についても、OECD加盟国の中で非常に低い。

なかでも、近年重要視されている就学前教育(3歳から6歳まで)は、グラフで示すように非常に少ない。近年の日本のアニマルスピリッツ低下、あるいは民主主義思想低下の原因の一つに挙げられる、自由で創造的な態度を育むと言われる、就学前教育であるが、公的援助が非常に少ない。

世界銀行の世界開発指標(World Development Indicators)より


減税を行う前に、予算を振り向けるべき重要な項目は、以上に上げた社会保障、防衛、教育予算だけでも数兆円が必要となる。これらは、税で補うべき不可欠な項目だ。それも今後大きく増加する可能性がある。ポピュリズム的な減税は、もはや日本にはほとんど有益性がない、有害なものと言える。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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