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医療の値段-後編「日本の薬価設定の仕組みと影響について」

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日本における薬価の設定はどのようになっているのでしょうか? 

日本は国民皆保険制度があるため、薬の値段を国が決めるようになっています。日本で開発された薬も多くは外国、主として大きなマーケットである米国で効果や安全性を試す臨床試験を行い、その結果で認可が得られます。認可するのは米国のFDAです。ここで認可された薬は、前述のようにメーカーが薬剤の値段を決定します。その薬が有効であると判断されたならば米国で発売となります。

 

日本で薬を発売するためには、主に2つのステップをクリアする必要があります。お薬の製造の認可と薬価の収載です。日本で薬として認可する場合には、従来は日本で日本人に対する臨床試験を行う必要がありました。これには長い期間と多額の費用がかかるため、日本での認可は遅れがちでした。一方米国では治験のシステムが完備しているため、早く結果が得られることが多く、日本で開発されたお薬でも米国で治験を行い、FDAに承認の申請を行うことが一般的になりました。


しかし、そのためにドラッグラグと呼ばれる現象、つまり米国で有効とされ患者さんに使われるようになった新規薬剤が日本で使えるようになるまでに時間がかかりました。その結果、多くの患者さんに有効とされる薬の使えない状態が、長く続くことが指摘されていました。
現在では米国での治験の結果の一部を使って、製造の承認をするようになり、これによって製造認可のスピードは格段に早くなりました。

製造の認可の次に控えるのは、薬価の算定と保険収載です。

 

我が国の薬価算定のルールでは、類似薬効と言って同じような効き目の薬が既に有れば、それを参考にして薬価を付けます。無ければ、原価を積み上げて薬価を決めます。さらにお薬の有用性に基づいて加算し、これを英米独仏の同じお薬の値段と比較して調整します。これが終わると薬価基準が算定され薬価収載、すなわち保険診療で使えるお薬となるわけです。こうなると製薬会社はお薬の宣伝が可能になり、医師も処方が可能となります。新しいお薬は概ね米国で値段をつけて、それに基づいて日本で値段が決まるという傾向があります。これは薬品メーカーにとっては高い値段をつけることが可能になるということです。


保険医又は保険薬剤師は、原則として「厚生労働大臣の定める医薬品」以外の医薬品を使用してはならない、と定められています。ですから日本において保険診療の範囲で医療を行うためには、国によって認められた薬しか使ってはいけないということなのです。保険医療機関又は保険薬局が保険請求を行う場合には、薬剤料は薬価基準で定められた価格に基づき計算されます。つまり国が保険医療で使える薬と値段を決めているわけです。発売後も実際の販売価格を調査し、その結果に基づき定期的に(安い方向に)改定します。製薬メーカーが定価より値引きして売ると、その次の改定では薬の値段は安くなるわけです。

自由診療においてはこの原則は当てはまりませんので、薬価収載されていないお薬を個人輸入して使う方がいらっしゃいます。自由診療と保険診療の併用(混合診療と呼びます)は認められていませんので、入院して自費で購入したお薬を使用すると、入院費や検査費などは全て自費診療となります。保険診療を受けながらまだ採用されていないお薬を、自由診療の形で使うことができる方法を講じましょうというのが混合診療であります。混合診療では通常の保険医療を受けながら、お薬だけは自分で輸入したものを使ったり保険に収載されていない手術を受けたりすることが可能となるわけです。混合診療は、一見合理的のように思えますが、時間もお金もかかる薬品認可をメーカーが行わなくなる可能性があります。利益の期待出来ない、患者数の少ない病気に対する薬品申請や値段の安い薬に対する薬品申請が行われない可能性があるわけです。値段が抑えられる可能性があれば無理に薬品申請を行わず、一部の人にだけ高い薬を使ってもらおうという薬品会社も出てくる可能性があります。

 

国は薬価だけでなく医療行為における技術料も算定します。米国では前回お話ししたように保険会社が値段を決めたり、病院と保険会社が相談して決めたりしています。日本と比べてはるかに高額になっています。

医療費も高い所から低い所へ?

米国の医療費は日本の医療費と比べて高いことは間違いありません。
例えば米国で1年間投与すると1億円程度かかるお薬(ざらにあります)や数億円かかる手術、幹細胞移植などは、日本であればその数分の1から10分の1くらいの価格でしょうか。

 

米国ではその医療費を保険会社が負担しています。そのために保険の掛け金も高額になっています。もし、米国と日本における医療費の差額が数千万円もあれば、治療を行いつつ家族のファーストクラス日米往復、高級ホテルのスイートルーム滞在、おもてなしを含めたとしても、米国の保険会社は患者さんを日本に送ることで十分な利益が期待できます。

 

また、同じ治療で同じアウトカムが得られる保証さえ有るなら、米国の患者さんにも受け入れられるかもしれません。例えば、長期間に及ぶがん治療のサイクルの数回を日本で行うことは、再発予防の抗がん剤投与における魅力的なオプションとして患者さんも、保険会社も、日本の医療機関も三方丸く収まります。

 

日本中にある粒子線治療装置(米国では治療施設の数そのものが少なく一般的ではありません)、PETCTなどは比較的受け入れやすいオプションかもしれません。治療を日本で受けることを条件にして、保険の掛け金を安くすれば、保険加入者も受け入れる可能性がさらに高まるでしょう。

 

高きから低きに流れる医療、今後は貿易不均衡の対象として考える時代が迫っているのかもしれませんね。

今まで述べてきたように、日本では医療の値段を国の方針で決めることができるのです。このようなことができる国は、世界の中でも限られています。
しかしながら、今の所この宝刀を政策的に上手に使うことはできていません。

例えば米国で5000万円の薬が日本で500万円であれば、多くの人が日本に来て治療を受けるでしょう。そのような薬を保険薬としてその管理をしっかり行い、外国に密輸されるようなことの無いような手立てを講じれば、海外のマーケットを乱すことはないでしょう。


高きから低きに流れる医療、今後は貿易不均衡の対象として考える時代が迫っているのかもしれませんね。

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科教授松岡 順治
岡山大学大学院医学研究科卒業 米国留学を経て消化器外科、乳腺内分泌外科を専攻。2009年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、緩和医療学講座教授、第17回日本緩和医療学会学術大会長。現在岡山大学病院緩和支持医療科診療科長、岡山大学大学院保健学研究科教授 緩和医療、高齢者医療、介護、がん治療の分野で研究、臨床、教育を行っている。緩和医療を岡山県に広める野の花プロジェクトを主宰している。
岡山大学大学院医学研究科卒業 米国留学を経て消化器外科、乳腺内分泌外科を専攻。2009年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、緩和医療学講座教授、第17回日本緩和医療学会学術大会長。現在岡山大学病院緩和支持医療科診療科長、岡山大学大学院保健学研究科教授 緩和医療、高齢者医療、介護、がん治療の分野で研究、臨床、教育を行っている。緩和医療を岡山県に広める野の花プロジェクトを主宰している。
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