平成16年、医師国家試験に合格した医師たちの研修制度が新たに変更されました。この新制度では、2年間の初期研修を修了してからでなければ、希望する科に進むことができなくなっています。
そうした進路の選択基準の中に、「人の死を見たくない(診たくない?)」という項目があるのではないかと感じさせられています。
確かに、人様の「死」を扱いたくないという心理も解ります。「医学発展のための研究をしたい」という高邁な信念から自分の進む道を決める方もあるでしょう。
ただ、私を含め外科医を志した先生方は、メスを持って病と向き合うという仕事柄、「生」に影のように付きまとう「死」を意識した診療を引き受ける覚悟で、この道を選択したのだと考えています。
最近の報告では、学生時代には外科医に憧れていたが、研修中にその大変さから外科を敬遠するようになるようで、外科医減少の一因と言われています。その「大変さ」には、よく言われる3K(辛い、汚い、危険(刃物を持つから?感染の危険?))や拘束時間の長さがあると思います。さらに「死と関わる確率が高い」ことも挙げられるのではないかと感じています。
勿論、最近流行の「ライフ・ワーク・バランス」とやらで徐々に改善されてはいますが、そうは言っても「鉄は熱いうちに打て」という言葉もあるように、何事も最初が肝心だとは思うのですが・・・。
古来より語られているように、「人の死」を知るからこそ、如何に「生」が貴重であり、残された時間が大切であるかを知ることが出来るわけです。生きとし生けるものは死を避けるわけにはいかないのが摂理だと、外科医と言わず、他の医師そしてすべての人達が知るべきではないでしょうか。
平成19年6月に制定された「がん対策基本計画」によって、「すべてのがん診療に携る医師が研修などにより、緩和ケアについて基本的な知識を習得すること」とされました。
地域のがん拠点病院を中心に緩和ケア研修会が繰り返し開催されていますが、すでに随分と時間が経ち、ほとんどの先生方が受講を済ませていらっしゃるはずです。
ただ、これもまた、他の講習会と同じで、受講のための受講になっているように思えてなりません。がん拠点病院に勤務する先生方や、地域のそれなりの責任を負うべき病院の先生方で、最後の最期になって、患者さんを他の施設へ転院させる方がいらっしゃいます。
この場合、地域密着型の私の病院等では、そうした患者さんを受け入れる側の立場で苦慮しています。
ベッド数など施設ごとの事情はあるのでしょうが、こうした丸投げ的なことをされる先生方は、色々な事情があるにせよ、まるで「死を診たくない」と考えておられるのではないかとさえ思えてくることがあります。
そうした施設で研修を受けている先生方には、気の毒な気持ちが沸いてくるのを禁じ得ません。なぜなら、治療の最終段階としての然るべき看取りや、「人の死」と向き合うことを学ばずして、生きようとする人たちの病を治す、あるいは治らないまでも病と共に生きていく、ということを理解できるのでしょうか。
看取りは、医療者側にもストレスがありはしますが、それを避けていては真の医療者としての「人間力」は身に付かない、と信じているのは私だけではないと期待しています。
昨今の国民的な問題である「遠ざけられた死」以上に、「死を遠ざける医師」の存在は他の心ある医師達の負担を増すだけに、さらに医療崩壊を進めるものと危惧しています。
おまけ:ある時、興味が沸いてきて「学会や講習会でがん治療や緩和ケアの講演をしている先生方が、実際に看取りをされているのか」が気になり、ある伝手を頼って調べてもらいました。(偏った情報かもしれないとお断りした上で)得られた情報では、予想通り、(若い頃にはされたのでしょうが)現時点ではご自身での看取りはなさっていないようでした。
私の拙い経験からですが、「看取り」をするからこそ、その方のそこに至るまでの時間を逆算して、「今」できる治療やケア(旅行をしてもらうとか、在宅にするとかも含めたケア)が考えられるのです。
ガイドラインが言うところの「第一段階、第二段階と上げてゆき、使える薬は全て使い切る」ということだけが正しい選択ではないように思えています。
勿論、研究を進めていかれる立場の先生方には、現場で一人一人の患者さんの看取りをする余裕も時間も無いのは判っているつもりです。が、なんだか急にご講演の内容などが白々しく感じられるようになってしまったのは、私がへそ曲りだからなのでしょうか。
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