岸田内閣は、「新しい資本主義」を提唱しているが、その内容は明らかにされていない(もしかすると無いのかも知れない)。今までの安倍、菅内閣が、過度の新自由主義を推進して、所得格差が広がったので、その格差を縮めようとしているのだろうか? しかし、安倍、菅内閣の政策はそれほど新自由主義的ではないし、その間に格差が他の国と比べて広がっているとも言えない。では、岸田内閣が唱える「新しい資本主義」とはどの様なものだろうか?
現在言われている新しい資本主義とは、当初言われた、金融所得課税増税は見送られ、わりと単純に企業に対して賃金の引き上げを「要請」することだけかも知れない。このため、労働組合の春闘に自民党の総裁が出席するというあまり例のない事態も出現している。これは極めて「日本的」な方法だ。しかし、政府が市場に手を突っ込み誘導する方法は、一時的な効果はあるが、当然ながらその時だけの対策であり、その後の副作用もある。また、賃金引き上げ要請に加えて、政府が関与できる保育士や介護士、看護師など、いわゆるエッセンシャルワーカーの給与を引き上げることも決まっている。これらの対策も多分1回きりのものであり、継続性は期待できない。
政府が行うべき経済的手法としては、経済システムを変えて、「間接的」に市場に影響を与え、経済を上昇させ、不平等の解消を促す方法が必要だろう。民間に給与の引き上げを促すような、直接的な方法はできるだけ避けなければならない。経済は、お互いにシステム同士が密接な相互作用で成り立っている。給与を上げることを強引に促すように、市場に手を突っ込み、直接に介入することは、思わぬ副作用を招く可能性がある。そして、政策を利用する要領が良い事業者を利する結果にもなる。そうではなく、資本主義を前提とした改革はあくまでも、経済システムの変更を目指すべきである。その為には、基本となる考え(思想)が必要となる。
新しい資本主義の思想は、「政府は人間を守るが、企業を守ることはない」、というものにしなければならない。企業はお互いに激烈な競争を行うべきであるし、しかしそれからドロップアウトした労働者は保護しなければならない。具体的には、企業間の人材移動を活発にして、同時に失業者を救う方法を、現在よりも大幅に拡大することだ。結果的に、企業倒産(廃業)は増加するだろうし、表面的な失業率も現在より上昇するかもしれない。大きな変化が生じるのだ。
具体的には、廃止すべきは、雇用調整助成金、企業への補助金(一時的な緊急措置は除く)、推進すべきは、労働者への解雇規制の緩和(金銭的解決の促進)、失業保険の給付期間延長と金額の増加、再教育の拡充、最低賃金の増額、同一労働同一賃金の推進と規制などである。いずれも日本の慣習を変更するものだ。反対に言えば、今まで企業を保護した慣習が日本の低賃金、経済の停滞、人口の減少などを招いた原因でもある。
もし新しい資本主義を実行するなら、解雇規制の緩和などの難しい課題は後回しにして、最初に次の2つの政策を行うべきであろう。第一は、最低賃金の大幅な引き上げ、それもゴールを決めて、その期間の引き上げ金額を明示することだ。例えば、現在930円の最低賃金を、5年後、2027年までに少なくても1200円とすることなどだ。アメリカのバイデン政権やドイツでは、日本円にして1500円程度の最低賃金を目指すようなので、1200円はそれほど高いとは言えない。この最低賃金の引き上げは、税を使わず格差を縮小するためのものである。この方法をためらうのは、自民党の支持基盤である中小事業者からの反発があるからだろう。最低賃金を引き上げると、赤字になる事業者が廃業せざるを得ない。そのために、政府は大幅な引き上げは行うことが出来ないのだ。
今一つは、安倍政権が2017年に打ち出した、同一労働同一賃金の原則を、一般の給与にまで広げることだ。鳴り物入りで始まった政策にしては、その内容は見るものがない。手当や、少額の賞与や手当の調整で辻褄を合わせているだけだ。同一労働同一賃金の原則は、世界的に広まっている。今更とも言えるが、同一労働同一賃金の原則を実行する場合に、現在の賃金表記である、「月額賃金」と「賞与」金額表記から、すべての賃金を含む時給表記に改正しなければならない。例えば、月額給与30万円、賞与140万円の会社員であれば、年収500万円となるので、年間の労働時間が2000時間であれば、時給表記は2500円となる。時給表記を行うと、時給で給与を支払われているいわゆる非正規社員の時給はいわゆる正規社員との給与比較で格差が明らかになる。男性と女性の給与差も一目瞭然だ。単純明快な時給で表される同一労働同一賃金に反する給与差に対して、企業はその説明をしなければならない。国民も労働組合も、その企業の説明に納得できるどうかなのである。
同一労働の定義は難しいかもしれないので、その分類は細かく行うことになるだろう。非正規社員の時給が同じ仕事をする正規社員の時給の60%程度であるとすれば、その理由を明示しなければならないからだ。例えば、教師や公務員で増加している、非正規労働者と正規職員との間には、仕事上の違いが少ない割に大きな給与差があると言われている。時給表記で大幅な時給の差があれば、その説明が必要となり、単なる「慣習」では済まされない。
新しい資本主義とは、この様に論理を明確にして、その方法も示さなければならない。この程度の改革ができなければ、日本の将来は危うくなるのだ。
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