認知症は今や人々に年齢を重ねることの恐怖として認識されている。高齢=認知症の図式が定着しつつあるようだ。多くの人が、高齢になると認知症になり、何もできなくなるとの恐怖が強まり、その結果、認知症に対する予防方法(頭を使うトレーニング、予防薬、あるいは保険など)は花盛りである。しかし、一部の例外を除き、認知症で生ずる認知障害は、老化の一形態であり、皮膚にたるみができ、筋力が低下することと同じことなのである、と考えるとどうなるだろう。それらは、努力によって一部は遅らせることが出来るかもしれないが、免れることは出来ない。そして、認知症などの症状が、生活上大きな障害になるかどうかわからないし、認知症とそうでない人との境界を決めることは不可能である。しかし、認知症の名前は、シックロール(病者役割)を通じて、高齢者の生活に大きな影響を与えている。
厚労省は認知症に対するキャンペーンの一環として、認知症の将来予測をしている。下図は、2003年時点(今から20年足らず前)での認知症の将来予測である。これによると、「2025年には300万人」余り、「2040年には350万人」程度である。
最近の認知症将来予測は、これとは大きく異なっている。
2017年(前述の予測から約15年後)の将来予測では、将来の認知症患者は、「2025年には700万人」前後、「2040年には800万人から900万人」に達するようだ。短期間(15年間)に、2025年の認知症になる人の予測が、300万人⇒700万人、2040年の予測が350万人⇒700万人~900万人に大幅に増加するのはなぜだろう。ウイルス感染でもあるのだろうか? 生活の変化や、人口構成の変化だけでは到底理解できない。
実はその理由は簡単に判断することが出来る。それは、「診断の不確実性」による。認知症を含む精神神経疾患の診断は、ガンのような、あるいは心臓病や脳卒中と違い、物理的診断(病理的確定診断やはっきりとした画像診断、あるいは数値の違いによる診断)ができないのだ。つまり、現在の予測されている認知症患者数は、その根拠が甚だ曖昧なのである。認知症の診断は、多少の画像診断を除き、大部分は、うつ病や他の精神疾患と同様に、問診と行動観察から成り立っている。
同様の現象は、精神科領域ではよくある現象だ。例えば、1999年まで、日本のうつ病患者はおよそ43万人で横ばいだった。しかし、グラクソ・スミスクライン社のうつ病治療薬パキシル登場を境に患者数はぐんぐん増加。3年後の2002年には一気に70万人を突破し、2005年には92万人に達した。これと並行して、抗うつ剤の売り上げは10年あまりで5倍以上に増えている。この不自然な患者数の増加は、日本だけで起きているものではない。アメリカ本国、イギリス、北欧、最近では南米や中国でも、抗うつ薬の発売をきっかけとしてうつ病患者が激増している。
一方で、近年海外においては、認知症の数あるいは割合の低下が報告されている。米国ミシガン大学のグループが、認知症の有病率が2000年の11.6%から2012年には8.6%と有意に低下したことを報告した。ハーバード大学の研究者たちは、65歳以上の男女を少なくとも15年間追跡した結果、その発症率が10年で16%の割合で順調に低下してきたことも突き止めた。英国では、2008~2011年の当該地域の実際の認知症有病率を比較し、実際の有病率は6.5%(67万人)となり、推計された8.3%(88万4000人)よりも認知症者数が減ったことが示された。その他、オランダ、ドイツ、スウェーデン、米国での調査でも、認知症発症率の減少が報告されている。
物忘れ(認知症の中核症状)と高齢とは確かに比例する。しかし、物忘れがあるからと言って、それを病的な状態と決めつける必要はない。もともと、老化は、皮膚のたるみや、感染しやすさ、呼吸機能の低下、関節の機能低下などを引き起こすことは間違いない。しかし、これらは、皮膚炎、呼吸器感染症、肺気腫、関節炎などの「疾患」とは異なるのだ。高齢になって記憶力が低下することと、認知症という病気になることは、違う事象であると理解すべきである。その為に、認知症という疾患の数は、それを定義する人によってその都度異なる可能性がある。認知症は記憶力が低下する高齢特有の変化に、高齢者が生活している環境から影響され(周囲の人からの非難や無視など)、社会参加が減った為の廃用性症候群などが加わったものであると判定される。一部の若年性あるいは急速に進行する「病的」な疾患を除き、そろそろ認知症の疾患としての認識を変えるべきだろう。
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