総選挙での論点について

9月中に自民党新総裁が選ばれ、10月には選出された自民党の新総裁が首相に選ばれる。そして、その後すぐに総選挙が行われる。国民は国会議員に直接働きかける(これは限られた人だけだ)か、デモを行う(日本ではあまり実行されない)以外は、選挙が国に働きかける唯一の手段となる。そこで政党や代議士を選ぶ際に、何を基準とするだろうか?コロナ対策?当面の経済対策?などが焦点となる可能性が高いが、それらは所詮技術的な手段であり、多くは官僚の能力によって決まるものだ。そして、政治家はどの程度バラ撒くかを競っている。それは経済政策というよりも、気前の良さを争っているようで、政治の選択肢とは言い難い。では、争点となる問題はなんだろうか?地球温暖化対策や原子力政策も大きな政治課題であることは間違いないが、現在の日本はそれ以上に選択を迫られている問題がある。おそらくそれは次のようなものになるだろう。

① 人口減少をどう考え、どのような対策をとるのか?
② 財政赤字は急速に拡大しているが、その対処法はどうするのか?
③ 米中の対立での日本の立ち位置は?

これらを順に見ていこう。まず、①の人口減少対策だ。日本の経済的な頂点は1990年代にあったことは間違いない。それ以降、給与水準は低下するし、一人あたりのGDPは伸びていない。この理由は人口の推移で説明できる。つまり、経済の低迷は高齢化と人口減少が原因である。

グラフのように、生産年齢人口のピークは1995年であり、総人口のピークは2008年となる。それ以降人口はひたすら減少をたどっている。特に生産年齢人口の減少は著しい。人口減だけでなく、高齢化による日本の平均年齢の上昇は、活力の低下を引き起こしている。リスクを取る活動が低迷しているのだ。過去20年間にわたり、出生数を増やす取り組みがなされているが、効果は殆ど認められない。取り組みの中身が貧弱で、もっと大胆に行えば効果があるとの意見もあるが、諸外国を見ても、もはや先進国では、出生数の減少は避けられないようだ。一部の先進国で人口減少が抑えられているのは、外国からの移民の増加および、移民の出生数が高いからである。

本気で人口減対策及びそれに伴う経済対策に取り組みためには、たとえそれが国民に不人気であっても、移民政策を早めに作り、秩序立った移民の導入を行う必要がある。秩序だった移民の導入とは、毎年何万人の移民を受け入れるか、どの分野に移民を受け入れるかの問題である。生産年齢人口が毎年50万人から100万人減少していることから考えると、その人口減を補う数が求められる。移民に言及しないかあるいは否定する場合には(否定している現在でも毎年30万人程度の外国人は増加している)、人口減少をどの様に補うのか、そしてその政策が、今まで成功しなかった出生数の増加をもたらすという根拠が必要となる。あるいは人口減少を容認する場合、世界の資本主義の中で経済成長なしに日本がどのような国になるのかを示す必要もある。

②の財政赤字に対して、近年MMT(Modern Monetary Theory)※の考え方が浸透しており、財政赤字について許容する根拠が出来たようだ。もともと政治家の一般的な傾向として、緊縮的政策(余分な出費をしない)よりも拡張型政策(財政を拡大し金をばらまく)を好む。その根拠がMMTによってもたらされた。たしかに財政赤字下でも金利は上がらないし(日銀の低金利誘導政策もある)、物価も上がらないので、MMT論者には有利だし、政治家もそれに悪乗りしやすい。コロナで経済が低迷しているし、一部の事業者は資金繰りに困っていることは確かだ。しかし、MMTの論理で、もしインフレになった場合は、「増税」をすれば良いことになっているが、バラマキを旨とする政治家が増税を国民に呼びかけるとは想像しにくい。従って、インフレの危険を常にはらむことになる財政拡大について将来どの様にしのいでいくのかの論理が必要だ。提案されている政策の多くは、財政的支出を伴うので、赤字の増加に対する補填手段を示す必要がある。

③の外交政策では、もともと日本の政治家の苦手分野であり、まともな論理が出てくるとは思えないが、それでも、対中国へのスタンスが大切だ。極端に言えば、米国の51番目の州になるのか、中国の属国になるのかを両極端とした選択だ。よくわからないので、口先だけは米国随従で、具体的にはなにもしない、つまり中国の怒りを招くようなことはしないことが日本のスタンスだろうが、流れに流されて行くことを選択するのか、一定の方向性を持つのか(日本独自の倫理観を出すのか)、それが問題となる。米中対立がもっと激しくなった時、米中中間に位置するのか、あるいは、米国寄りに位置するか、より中国に融和的に考えるのか、経済優先か倫理観を優先するのか、基本的スタンスに関する考えが必要だ。

日本では短期的な政策は似通っているが(いずれもバラマキ的な政策)、長期的な政策にこそ差が生じるし、その差が今後の政治日程で最も大切だ。この3つの争点は、どの様に対処するかによって、現在の政策にも大きな転換をきたす。

※MMT(Modern Monetary Theory);ケインズ政策の流れをくみ、信頼できる自国の通貨を発行できる国では、財政赤字は問題とならない。財政赤字の結果インフレが起こるときには、増税によって調整することが出来るという考え方。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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